第六十四話 カイル歴3年 加速する合流
カイルが5人の妻を迎え、その後それが7人になるまで、そんなに時間を要さなかった。
今後の方針を決める会議が行われた翌週には、聖の氏族であるグレイブ大使の紹介で、地の氏族と火の氏族の氏族長が相次いでカイラールを訪問し、彼らが伴った自身の娘たちをカイラールに置いていった。
正式な婚儀はまだ先のこととして、彼女たちはカイル王の身の回りを世話する者として、新しく工事が進む王宮に移り住んでいた。
その頃になると、地の氏族との連携は本格化し、彼らは未だ疫病の不安のある里から、一時的にカイラールへと移り住んでいた。その数およそ600名。
そのうち200名が当面の糧を得るため、アース指揮下の地魔法氏部隊に配属された。
そして、火の氏族からは大使と、先遣隊として火魔法氏300名が、カイラールに移り住んできた。
その中でも、戦闘要員として100名が、駐留の対価としてヘスティア配下の火魔法氏部隊に配属された。
彼らの思惑は、鉱石をもたらす地の氏族との連携と、カイラールの工業(工房)との連携だった。
自身の里に逼塞して、鉱工業、つまり製鋼や鍛冶業、ガラス製品制作、加工品製作などを行うより、市場があり開発で賑わう街のの方が、俄然都合が良いと考えていたのだろう。
ケンプファー領から連れてきた職人たちと、瞬く間に連携を始め、次々と工房や店舗を設立し始めた。
そしてある日……
「ではこれより、事前の探索に基づいた、新たな里を開拓するための部隊を進発させる。
其々の各方面部隊は、先ずは安全を第一に心掛けてもらいたい。そして、ここに居並ぶ全員が無事にカイラールに帰還する日を楽しみにしている」
私は同時に出発する4部隊を前に、訓示を述べていた。
事前の調査で見つかった新しい里の建設予定地は7か所あったが、そのうち先ず4か所を同時に建設するため、部隊を編成していた。
第一部隊 指揮官アルス
第二部隊 指揮官ファル
第三部隊 指揮官アース
第四部隊 指揮官ヘスティア
それぞれに各氏族からの人員が選抜され、総勢で各隊が200名、合計800名の構成だ。
中核となるのは、これまでも町づくりや、長城の建設に従事していた旧来の仲間たち20名。
そして、ファルケの護衛部隊とゴウラス男爵の兵士たち、計50名が戦闘集団として護衛に就く。
人外の民 20名(各種魔法士から成る開発経験者)
左翼部隊 25名(ファルケ率いる護衛部隊より)
右翼部隊 25名(ゴウラス男爵率いる部隊より)
支援部隊 35名(生活支援部隊より)
地の氏族 25名
火の氏族 20名
時空の氏族 10名
風の氏族 10名
聖の氏族 10名
光の氏族 10名
重力の氏族 10名
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総計 200名
「これは……、誠に壮観な眺めですな。1,000人近い魔法士中心で構成された部隊など、見たことがありません。我らは、こうも大規模に互いに協力することなど、これまでありませんでしたから」
「まぁこれも、言ってみればグレイブ殿の功績ですよ。まぁ、当初の思惑はどうあれ、我らと各氏族で結ばれた絆のなせる業ですね」
「ふぉっふぉっふぉっ、カイル殿は我らの世界に、虐げられた者に生きる場を与え、世界に新しい枠組みをもたらすため、我らの里に舞い降りられた、言わば神の化身のようなお方じゃて。
最近、つくづくそう思うわい」
そう言いながら長老は、笑いながら涙を流していた。
「このカイラールに住まう者も、既に3,500人を超えた。200人にも満たない、辺境の不便な里で、日々の暮らしにも困っていた頃からすると、まるで夢のようじゃ」
「そうですね。あの頃は子供だった、テスラやアクアまでが成長し、今や生活支援部隊の一員として、この派遣部隊に同行しているのですから」
私は思ってもいないことを長老から言われて、ばつが悪くて話題を変えた。
かつて私がこの世界に来た時、遊び相手だった子供たちも成長し、今や立派に活躍している。
ゴートの町の奴隷商から救い出した、ソランという名の少女も、今は身重で同行できないソラに代わり、優秀な時空魔法士として派遣部隊の列に加わっている。
「この様子では、長城の建設も、新しい里の建設も一気に進みそうですね。
これを知った他の氏族も、顔色を変えて飛んでくることでしょう」
「いえいえ、今回は周辺調査の拠点ともすべく、最も遠い候補地を敢えて選定しました。
距離もそうですが、多くの魔法士にとっては初めての連携作業です。慣れも必要でしょうし、少なくとも半年程度はかかるでしょう。
それにしても、他氏族もそんな感じなのですか?」
「カイル王は既に、7つの氏族と血縁を結ばれることになりました。
第一に、これで12ある氏族の半数を麾下に治められたことになります。
第二に、魔境の生活に最も強みを持つ最大勢力の氏族、火の氏族が去就を明らかにした。これは大きい。
第三に、忘れたころにやって来ては、高圧的な態度で莫大な謝礼を要求する闇に、どの氏族も辟易としていたこともありますね」
「では、近い未来は?」
「少なくとも奥方は11人になると思いますよ。おそらく……」
いや、正直言ってそれは困る。
今の7人ですら、最も年長のロザリア(聖)ですら18歳、気丈だが最も若いカナル(時空)など、まだ14歳だ。そのため敢えて、今は婚約中ということにして、婚儀自体は先延ばししている。
「あの、新しく赴任してきた大使たちの呆けた顔を見れば、それは近いうちの話になるかもしれませんな」
そう言ってグレイブ殿は不敵に笑った。
自身の先見の明を誇るかのように。
ここ最近になって、噂を聞きつけたのか、雷の氏族、水の氏族も大使を任命し、大使館に人員を送って来ていた。
そして彼らは、この出発式を見て、驚きのあまりポカンと口を開いていた。
「そう言えば、カイラール自体も改装を進められるそうですね?」
「はい、人口の伸びが思った以上なので……
農地としている領域には限りがありますし、今ある外壁の外側に、もう一重の外壁を巡らせる予定です」
「そうですな。今に一万人を超える街になりそうですし、既に農地も家畜も不安ですしね」
「はい、その為に今回は、ファルケと男爵を残しています。
残った者たちへの建設指揮はもちろんのこと、新たに戦闘部隊に配属された者たちへの訓練を兼ねて、食料調達のため周辺域で専ら狩猟に従事してもらわないといけませんからね」
「なるほど、カイラールも我らの王都として、益々威容を高めていくことになるのですね!
それは嬉しい限りです」
この会話が為された翌月には、カイラールに雷の氏族長と、水の氏族長の訪問を受けることになる。
それぞれの氏族長は、まだ幼い娘を連れて……
カイルの思惑とは裏腹に、各氏族にとって血縁を結び、縁を深めることは、規定の路線となってしまう。
「このままでは私は、幼い子供まで人身御供にさせる、好色で情け容赦ない、特殊な癖を持つ男として呼ばれることになるではないかっ!」
この事でカイルが絶叫し、大きく頭を抱えたのは、言うまでもない。
◆参考
人外の民 700人+350人+50人(新生児)=1100人
人界の民 250人+70人+30人(新生児)=350人
時空の氏族 40人+200人=240人
風の氏族 60人+300人=360人
聖の氏族 100人(その他400名は新たな里に居住)
重力の氏族 200人
光の氏族 300人
地の氏族 600人
火の氏族 300人(その他600名は旧来の里に残留)
雷の氏族 100人(その他700名は旧来の里に残留)
水の氏族 100人(その他500名は旧来の里に残留)
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移住者計 3,750人 カイラール以外に居住する関係者2,200人
・未合流の氏族
氷の氏族
音の氏族
闇の氏族
最後までご覧いただきありがとうございます。
次回は、2月25日9時に【北の脅威】を投稿する予定です。
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