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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第三十七話 戦禍の影響

カイルたちは関門を超え、ローランド王国に入った翌朝、ゴートの街を訪れた。

そして……、半年前とは全く変わってしまった町の様相に愕然とした。



「なんか……、街全体が沈んで活気がありませんね。

私の気のせいかもしれませんが、半年前とは全く違う気がします」



「いや、ソラの言うとおりだと思う。

顔見知りの門番も一人もいなくなってたし、入場税が3倍になってたのにも驚いたな」



私は、これが侵略軍を撃退したこと、その影響なのだと分かった。

そのことを思うと、自らの身を守ることとはいえ、少し心が痛んだ。



街の中に入ると、以前は所狭しと並んでいた露店も、目に見えて数を減らしていた。

横目にそれを眺めつつ、アベルたちと共に、いつもの仲買人を訪ねた。



「やあ、あんたらか。

開拓地の景気はどうだい?

みんなあんたらの所に流れていっちまって、ここは今さっぱりだよ」



「ああ、順調だな。

そのため追加の物資を買い付けにきたんだが……、そんなに悪いのか?

なんせ、俺が今居るのは辺境の子爵領、それもの魔境の中だからな。全く世情の動きが分からないんだ」



私はその場を取り繕い答えると、仲買人は大きなため息をついた。



「そうだろうな。

こっちはなんせ、ゴールト伯爵が北の魔境から帰って来ないし、入っていった軍はほぼ全滅だ。

他にも何人か貴族の当主が死んだっていうしな。


伯爵の息子が後を継いだらしいが、こいつがまた碌でもねぇ奴でな。

ここいらでは、補充兵として兵士に取られる奴も多いし、代替わりしてから税だって上がっちまってな。

これでは商売にならん、そう言ってここを出て、ドーリー子爵領内での商売に、鞍替えする奴らも多いみたいだぜ」



「じゃあ、商売はあっちに行った方が良いのかな。

今回は魔物素材だけでなく、あっちで作った剣なんかも持ってきたんだけど……」



「おいおい、アベルの旦那、勘弁してくれよ。

武器や素材はこっちでもかき集めてるんだ。なんせ、新兵が増えて大量に発注があるからな」



「では、私とアベルで100本づづ、合わせて200本と素材だ。

まだまだ素人仕事だから、多少の傷やこしらえの悪さはあるが、これまでの縁だ、一括でお願いさせてもらおう」



「できる限りいい値は付けさせてもらうよ。

ただ、税が上がっている分、以前より買取価格は安くなるが、その点は大目に見てくれ」



私たちは戦いで鹵獲した剣の一部を販売に回した。


ただそのまま売ると、色々疑念を持たれることも考えられたので、販売用の剣は量産品の一般兵規格品に限った。更に全てを研ぎなおして、新品に近い形にしていた。これなら足は付かないだろう。


結局、剣200本全てを販売し、販売用の素材も全て仲買人に売り切った。

一部の代金を即金でもらい、残金はいつも通り、種子や鍛冶用の道具類、魔境で調達できない生活用品などを相殺にて手に入れた。


3日後の受け渡しを指定されたので、私たちはそれまで街で待機することにした。



「開拓地じゃ女も不足してるんじゃないか?

働き手を失って食い詰めた家族や、余裕を失って人外の民の奴隷を手放す奴らが、奴隷を売ってるぞ。

今は供給過多で安くなっているから市を覗いてみな?

俺の紹介って言えば大概安く割り引いてもらえるぜ」



最後に仲買人の言った言葉にソラは顔をしかめたが、同胞を救う意味ではそれも良いだろう。

私は皆を残し、仲買人の言っていた奴隷市に顔を出した。



正直、ここは何度来ても、吐き気のする思いだった。過去、私が生きていた世界には奴隷は存在しない。

ただ、歴史を遡れば存在するし、列強の植民地では、それに等しい酷いことが行われていると習った。


これから私たちが作る新しい新天地では、どれだけ豊かになっても絶対に奴隷制度は認めない。

逆に、貧困にあえぐ者なら、人界人外の区別なく同胞として受け入れよう、改めてそう思った。



「旦那、奴隷をお探しですかい?

良かったらうちを見て行って下さいな。この街じゃ一番取り扱いが多いのがうちですぜ」



早速、身なりは立派だが、人相の悪い男に声を掛けられた。



「仲買人サームの紹介で来たんだが……

それで話は通じるか?」



「サームの紹介ですかい?

参ったな……、滅多なことはできねぇな。

いや、正直言って先日ドーリー子爵の使いが、開拓地にって大量に買って行きましてね、今はどこも売れ残りばかりなんですよ」



「構わんよ、先ずは見るだけでもいいか?」



奴隷商人に導かれ、建物の中に入るとそこには10人ほどの奴隷がいた。瘦せこけた、まだ子供と言って差し支えない年齢の、幼い少女たちだった。



「いやね、すぐ働ける大人や、数年後には使い物になる予定の、男の奴隷たちはみんな売れちまって。

弱ってて、労働力として使えそうにないこいつらしか残ってないんですよ。

人外の娘が5人、戦争で親を失い売られてきた、人界の娘が5人ですが、こいつらも後5年もすれば……」



なるほど、今は供給過多になっていると聞いた。

5年もかけて投資して、娘たちの成長を待つより、買い手は即戦力を選ぶということか。酷いな……


そう思いながら、彼女たちを何気なく見ていると、驚くべき文字が浮かび上がった。

闇魔法士に重力魔法士、時空魔法士……



「おい、この3人を……、いや、全員買おう。

この金貨で……、いや、手付の金貨以外は、この魔石でも買えるか?」



そう言って風の属性を持つ魔石を2つ、彼の前に差し出した。



「そうさね……

うーん、サームの紹介なら手付は金貨20枚、残りは金貨10枚とその魔石って事でどうだい?」



「そうだな、私はあんたとまだ取引したことがない。なので手付で金貨20枚の先渡しは多すぎるな。

一旦サームに確認を取ってからだが、手付は金貨10枚、引き取り時に残りの金貨20枚と魔石を渡す。

それでどうだ? 正直、売れ残りなんだろう?」



「敵わねぇなぁ、サームを引き合いに出されちゃ仕方ねぇ。手付は金貨5枚でいい。

奴とはこの先も仲良くしたいんでな」



「3日後に引き取りに来るので、それまでこれで、小奇麗にしてやってくれ。

飯もたらふく食べさせてな」



そう言って金貨1枚を追加で渡した。

指示したことをやって、衣服を揃えたとしても、十分にお釣りがくる額だろう。

奴隷証人は笑顔で了承した。



魔法士の件もあるが、彼女たちがここに来た原因に、俺たちが関わっている部分もあるだろう。

偽善とはわかりつつ、ここから救い出すことにした。



その頃、別働隊として東の果ての避難所に到着したアースたちは、周囲の安全と、避難所の無事を確認したあと、内部に入っていった。


森の中の岩山に偽装したそこは、周囲を岩に囲まれて、出入り口もない。

出口と入口は、それぞれが別に作られたトンネルを経由する必要があったからだ。


そのためカイルたちは、この避難所の存在が露見している可能性は非常に低い、そう考えていた。

唯一の難点は井戸がないことだが、水魔法士がいれば問題ないし、雨水を貯める簡易的な水槽も作られている。


そして今は土砂で、それぞれのトンネルの開口部は埋められているが、地魔法士にかかれば簡単に再開通できる。

実はゴールト伯爵との戦いで、魔境の街道脇に作った三角砦も、この中継所をモデルに作っていた。


アースはすぐに両トンネルの再開通を済ますと、俺たちや、男爵たちの受け入れ準備に入った。

その傍ら定期的に斥候を出し、周辺の警戒にも余念がなかった。



仲買人との約束の日、カイルたちは再び大量の荷を受け取り、奴隷商人の所に立ち寄った。

今回は少女たちを怯えさせないよう、ソラも同行させている。


彼女たちと再会したとき、見違えるように小奇麗になっており、きちんとした服と着替えも用意されていた。そして、食事が大幅に改善されたのか、顔色も良くなっていた。



ソラは少女たちをひとりひとり抱きしめていた。



「心配しなくてもいいよ、もう大丈夫だからね。

辛い思いはさせないから、安心して私たちに付いてきて。同じ子供たちも沢山いるよ」



そう言い聞かされて、彼女たちは安心したのか、初めて笑顔を見せた。



私たち10人は、ドーリー子爵の開拓地に向かう一行を偽装し、西に向かった。

ゴールト伯爵領との領境手前まで来ると、野営を偽装して街道を外れた。


そして夜になったころ、全てを時空魔法士たちが収納し、騎馬でアースが待つ避難所へ向かった。

それぞれの騎馬に、少女たちを乗せて。



カイルの作戦は、最も困難な部分以外は、無事達成された。

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