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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第十五話 先行偵察隊と交易隊の出発

我々は先発隊に合流し、避難所で一息つくことができた。

殆どの人々は、夜通し慣れぬ魔境の夜間移動と、極度の緊張で疲労困憊の様子だったが、私は心を鬼にして皆を叱咤することにした。



「みんな、良く頑張った!

ひとまずこの避難所で、休息と簡単な食事を取るが、陽が昇るとともにここも出る。

できる限り東へ移動するので、もう少しだけ頑張ってくれないか。どうか安全圏に出るまでは不便をかけるが、許して欲しい」



私はそう言って皆を労った。

だが、疲れ果てている彼らを見て、この先の行動に不安を感じた。



『彼らはこの先も、付いて来てくれるだろうか?』



暗闇の中、魔境を進むこと、本当なら自殺行為と言われるほど危険な行動だ。

更に隠れ里を襲撃されたこと、安全な住処を失い、命の危険さえある追われる立場になったことの衝撃は大きく、この先の不安と疲労で、精神的な消耗も大変なものになっていると思われたからだ。



「カイルさん、私らはこれまでにも散々酷い目に合ってきたんだよ。

それがこの先、もうちょっとの頑張りで解決するかも知れないんだ。なら今が頑張りどころじゃないかい?

私らはこれまでアンタに助けられて来たんだ。

これからもアンタを信じているから、余計な気遣いは無用だよ!

そんな、申し訳そうな顔をしないで、遠慮なくどんどん指示しておくれよ」



笑って私の背中を叩いてくれたのは、テスラとアクアの母親であり、ここに来て、最初に私を助けてくれた女性だった。



「そうだぜ、おかみさんの言うとおりだ。

カイルさん、俺たちはアンタに付いていくと決めたんだ。遠慮はいらねぇさ、なぁみんな!」



「おうっ!」



「そうさっ、さっきも俺たちは勝ったんだ」



「ここにも無事たどり着けたんだ。この先もきっとうまく行くさ」



休息していたみんなから、次々と声が上がった。

私は思わず彼らに対し、頭を下げた。



この場所で長居はできない。ゆっくりできるのは、あと2つ先の避難所に辿りついてからだ。

そこまで行けば、落ち着いて休むことができる。


その後、十分な休息を取った上で、最も東端に設けた避難所へ移動すれば良い。



「ファル、申し訳ないが地魔法士5名、水魔法士1名、火魔法士2名を率いて、本隊に先行して進み、最も東端の避難所へ急ぎ向かって欲しい。

そこで、この人数が余裕をもって入れるよう避難所の拡張を、それが終わったら周辺の地形の偽装と罠の準備をお願いしたい。


本隊は恐らく5日後に到着する予定だ。取り急ぎ簡易で構わないので、それまでに準備を頼む」



ファルは4人居る時空魔法士のひとりで、今は私を支えてくれている腹心、5人のうちのひとりだ。

彼が頷くのを見て、私はもう一人の腹心に向き直った。



「アルス、本隊の誘導を頼めるか?

私は売り物となる素材を持ち、騎馬で魔境を抜け街道に出る。そこからゴートの街に急行する。


今ならまだ状況は伝わっていないだろう。人を運べる荷駄、この先必要な物資などを買い占める。

我らが戻るまで、東端の避難所で十分な休養や携帯食料、水など揃えて出発準備を整えておいて欲しい。

いざ出発となれば、夜間1日、そして日中も走りづめとなる」



「承知いたしました。お気を付けて。

運搬にはソラをお連れ下さい。彼女は外見も人界の民に似ており、顔も割れていません。

きっとお役に立てるでしょう」



「それは助かる。

我々は仕入れと国境の偵察、これらを行ってから戻る予定なので多少の時間はかかるだろう。

人員としてソラに加え、地魔法士を1人、馬の扱いに長けた者を15人ほど連れて行く。

もし10日経っても戻らなければ、アルスが皆を率いるようにお願いしたい」



このような対応のあと、我々は最短距離を抜けて魔境から街道に出ると、4頭の騎馬と、1台の荷馬車に分乗してゴートの街へと急行した。



ゴートの街に到着すると、いつも通り城門は簡単に抜けることができた。

まだ、西の辺境で起きた出来事は伝わっていないように思えた。



「カイルの旦那、久しぶりですね。今日は何か良い素材でもありますかな?」



まず最初に私は、以前アベルに紹介してもらった、素材の買取を手広くやっている仲買人を訪ねた。

彼の店、いや倉庫といって差し支えないそれは、裏通りの奥まったところに、ひっそりとある。


目立たぬよう行動したい我々にとって、まさにうってつけの場所だった。


彼は仲買人なので、訪れるのは仕入れに来た者たちや、少量だったり大量だったり、一般の店舗では買取しにくい素材を売りに来る者が多い。


一般の住民や彼と取引のない者がこの倉庫を訪れることはない。



『彼は信頼できますよ。

ただ、もちろん目利きを売りにしている仲買人なので、査定はとても厳しいんですけどね』



アベルからはそう言われて紹介された経緯がある。

予想以上の高値も付かないが、少量でも価値があるものは、ちゃんと評価して購入してくれる。



「ええ、ちょっと大規模な開拓を行いたくて……

まとまった金貨と道具が必要なので、大量の素材を売りたいんですが、買取先に心当たりはありますか?」



「そりゃぁ大変だね。私も少し協力させてもらうよ。

多少安くなるが一括で売ってくれるのであれば、こちらでなんとかしよう。

まぁ、物にも依るが、旦那なら間違いないだろう。

少しづつ市場に流せば、十分利益も取れるしね」



「はい、それで構いません。よろしくお願いします」



私は今回、今まで貯めていた魔物素材の多くを、一括で彼に売った。

この先は、当面こういった商売をする予定もなく、ただ持っていても無駄になってしまうだけだ。


彼が一括購入してくれることが決まり、私は思い切ってほぼ全ての素材を彼に託した。



「あと、食料とそれを運ぶ荷駄、馬などもまとまった数を買いたいと考えています。

紹介いただくか対価を相殺して、手配いただくことは可能ですか?

販売品に加えて、この金貨で買えるだけ買いたいと思っています……」



「ほう……、この金貨と販売品の対価でね……、手間賃がかかるが、それでもいいのかい?」



彼は一瞬、表情を変えたがすぐに元の顔に戻った。

商売に余計な詮索は不要と思ったのだろう。


私にとっては、それこそ渡りに船だ。

こちらが動き回ると足が付く。だが、彼から一括で購入だと我々の動きが露見する可能性も低い。



「そうだな……、2日もらえるかい?

買い取り価格とこの金貨に見合う、物資と荷駄、馬も用意しとくよ」



仲買人との商談はまとまった。

魔境に逃げ込む予定だから、これまでせっせと貯めた金貨も、今後は不要となる。


彼には我々の手持ち金貨のうち、半分を預けていた。

これで、無事魔物素材の多くを売り、荷馬車と引馬、騎馬を買い取る目途も付いた。



その後、市場を回り、開拓に似合わないもの、武器や防具も買い集めた。

最近魔物の出没が多くて、村を守る武器が大量に必要になった。そんな理由を言っては店を回り、必要な武器を購入して回った。


我々はこの2年間、目立たぬように武器や防具を、交易の度に買い集めていた。


そして、隠れ里での防衛戦でも、兵士たちが逃げ散り、魔物たちがその後を追った一瞬の隙を付き、私たちは門の外に散乱する、彼らが遺棄した荷駄や武具を拾い集めていた。


今回の購入が無事整えば、我々は住民の数を十分超える武具が整う予定だ。



買い物が一段落した翌日、仲買人の準備が整うまでの間を利用して、我々は国境方面、魔境への入口へと偵察に向かった。


アベルの話には聞いていたが、大山脈の切れ目、唯一通行可能な部分には、広大な土の堤が防壁として築かれており、中央には石を積み上げた強固なつくりの、砦のらしきものまであった。



「これは……、それなりの防壁ですね。

ひとりふたりならともかく、我ら全員となると相当厳しいかも知れません」



防壁を見上げ、ソラは思わず顔をしかめた。


防壁が築かれた一帯は、魔境から魔物が侵入しないよう、常に警戒されている。

だが実際、約二キロ近い横幅の領域を、全て監視する事は難しいだろう。


実際、この防壁に常駐し、警備に当たっている兵の数は二百人程度のようだった。



アベルたちはいつも、この警備の隙を衝き、西端の崖から出入りしているらしい。

ただ、我々は350人もの人数と、荷駄や家畜も抱えている。

その点は非常に頭の痛い問題だったが、防壁の大部分が土で作られている点が、我々には救いだった。



「うん、地魔法士を総動員して、夜間に堤に穴を開ければ……、なんとかなるかな?」



「そうですね。ただ堤を越えても、その先は夜間の行軍となります。偵察部隊を出して、地形や進路の確認をしておく必要がありますね」



ソラの意見はもっともな事だと思った。

今回の偵察では厳しいが、東端の避難所に戻ったあと、それらを行うことを決めた。



「うん、今回は帰り道の偽装と、大量の馬を引き連れて戻る必要があるからね。

一度戻ってから、本格的な偵察を出そう」



こうして我々はゴート街へと戻った。荷駄を受け取り、避難所への帰路に就くために。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『追う者、追われる者』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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