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幸せのある場所  作者:
7/30

7.願うならば

 これは小学校の時の話。


「これ、バレンタインデーのお返し」


 そういって飴とヘアバンドを手渡してきた彼。


 それ以来、あたしはずっとそのヘアバンドをつけている。


 いわゆる幼馴染という関係。


 それ以上でもそれ以下でもない。


 だけど中学卒業して別の高校に進学してから気づいた……彼への気持ち……


 離れて分かった、あたしの本当の気持ち……


 だけど願うならば……あたしは……




-願うならば-




 自分の性格を言うならば活発な美少女というキャッチフレーズが似合うと思う。

 自分で美少女というのはどうなんだと突っ込まれそうだけど

 事実、可愛いのだから仕方がない。僻みたいなら僻むがいいわ。

 ただ一つ、弱点があるとすれば性格が少し男勝りな面もあり男女関係なく接してしまう。

 そう、いわゆる彼氏が出来ずいつも男女問わず相談役が関の山。

 だけどあたしだって恋の一つや二つ……ゴメン、一つしかなかった。

 それはあたしのお気に入りでいつも身に着けているヘアバンドをくれた幼馴染の彼。

 中学卒業して彼は私の前から去っていった。

 ずっと一緒で憎まれ口を言い合ってる仲だったけど、それがなくなって初めてあたしは自分の気持ちに気づいた。

 きっと彼のことを思い続けて、他の人を好きになることはないんだろうなっと思っている。

 そこまでいい男なのかと言われればそうでもない。

 でも一緒にいて安心できる。自分が自分でいられた、彼と一緒なら。


「あーあ……なんか二年生になっても面白いことないわね」


「クスクス、伊万里にとって楽しいことって何?」


 隣で笑っているのが吉田かなえ。高校で知り合って仲良くなったあたしの親友。

 どこか抜けてて、憎めない。そして可愛らしくて、男子から人気がある。

 でもそんじょそこらの男にかなえは任せられないとあたしは予防線を張っている。

 簡単にかなえとは付き合えないわよっと男どもには言っている。

 もちろんかなえには内緒だけど……ね。


「それはもちろん、恋沙汰とかさ。なんかニュースないのかしら」


「恋沙汰ではないけど……」


「なんかあるの?」


「明日、転校生が来るらしいよ」


「え、ほんと!?」


「うん、さっき先生が話しているの聞いちゃったから間違いないと思う」


「そっかー、それは楽しみね」


「クスクス。男の人らしいし、それこそ恋に発展しちゃったりしてー」


「それはないない。けど男なんだ。色んな意味で楽しみー」


 でもまさかこの転校生があたしの知っている……

 いや、あたしの幼馴染だとはこの時は思いもよらなかった。




…………*




 翌日、あたしはピンチに陥っていた。

 いわゆる寝坊をしてしまった。


「伊万里、朝ご飯は?」


「いらない、行ってきます!」


 お母さんが用意してくれた朝ご飯を食べることも出来ず急いで家を出る。

 自転車を飛ばしてギリギリ間に合うか間に合わないかといった時間だった。

 だけどこんな時に限って信号に引っ掛かり、思うように飛ばせない。

 それでも諦めず自転車を一生懸命こぎ続けた。

 腕時計を見たらそして本当にギリギリ間に合うかってところ。

 そして視線を時計から前に向けた時だった。

 校門前に人が立っているのに気付いたが……


「危な~い!」


 急ブレーキをかけたけど見事に背中から激突してしまった。

 あたしも自転車ごと横になってしまい、膝を擦りむいた。


「痛た……もうなんでこんなところに突っ立ってんの?」


「俺からすればなぜ自転車で突っ込んできたか聞きたいんだが……」


「遅刻すると思って急いでいたのよ!」


「あーそう……」

 

 素っ気ない返事が返ってきた。

 見たところうちの制服を着てるようだしあたしと同じで遅刻したのかしら?

 でも遅刻しそうになってるのに校門前で校舎を見上げてるなんておかしいわよね……

 とぶつかった男の顔を見たら……


「あーっ!」


 あたしと男は同時に声を上げた。


「お、お前、伊万里じゃねーか!」


「あんたこそ永一じゃない! なんでこんなところにいるの!?」


 ぶつかった相手は深見永一といってあたしのいわゆる幼馴染。

 そう、あたしが初めて異性を意識するようになった相手……

 運命の再会……なんだけど永一を相手にするとまず出るのが憎まれ口。

 永一といちいち自転車運ぶ運ばない、ぶつかってきたあたしが悪い、立っていた永一の方が悪いとか

 結局言い合いになってしまう。

 そのせいで遅刻してしまったのは言うまでもない……


「佐伯、遅刻だぞ」


「はい……すいません」


 あたしの担任の先生は永一のことを待っていたため職員室にいた。

 つまり、永一とは同じクラスになるってことで少し……いや、素直に嬉しかった。

 先生が先導しその後ろをあたしと永一で歩く。


「またあんたと同じクラスになるとはね」


「なんだかんだいつも一緒だもんな」


「ほーんと、どうにかなんないかしら」


「俺も伊万里と一緒だと傷が増えてたいへ――いたっ!」


 あたしたちのやり取りを聞いていた先生が歩きながら後ろを向いた。


「佐伯、知り合いなのか?」


「中学まで一緒だったんです。一応幼馴染ってやつですかね」


 なるほどっと言い先生は再び前を向いた。

 永一は永一で本当に痛かったのか背中をさすっていた。

 ここで心配の言葉一つでも言えば可愛げがあるのだろうけど……


「大げさね。もっと強くならなきゃダメよ」


「お前……相変わらず手加減というのを知らないみたいだな」


「あたしみたいなか弱い女性に向かって何を言うの?」


「お前がか弱い? 笑わせ――イタッ!」


 こうして結局は何度も手が出てしまう。

 素直な自分といえばかっこはつくけど……なんであたしは素直になれないんだろう……

 そうこうしているうちに教室につき、先生がまず入る。

 それに続いてあたしと永一も教室に入った。


「今日はまず転校生を紹介する」


「せんせー、転校生って伊万里のことなん?」


「違うわよ!」


 クラスの中心人物といってもいいムードメーカーの中井くんがからかってくる。

 おかげであたしはいい笑い者。

 あたしはそそくさと自分の席に何事もなかったように座る。


「伊万里、おはよ」


 席が隣のかなえがこそっと話しかけてきた。

 あたしはそれに笑顔で返した。

 そして永一は中井くんの隣に座ることになり、HR中ずっと喋ってる様子だった。

 HRが終わり、あたしはすぐに永一のところにいった。


「どう永一、もう中井くんと仲良くなった?」


「当たり前やろ! ってなんや伊万里、永一とは知り合いなん?」


「幼馴染なの」


「へぇ~そんなんか。伊万里みたいなんが幼馴染なんて永一も大変や――アダッ!」


 あたしは中井くんの頭を思いっきり叩いた。

 永一とは違うけど中井くんもお互い遠慮なく言い合える関係。

 まぁ、中井くんの場合、誰とでもそうなっちゃう性格なんだけどね。

 それからあたしの親友である未央とかなえを永一に紹介したわけだけど……

 事件は放課後に起きた。


「ねぇ、かなえちゃんって今、付き合ってる人とかいる?」


 あろうことか永一が早速、かなえに声をかけてきた。

 普通の会話ならともかく……この質問をするということは……

 あたしは言葉が出るより先に手が出てしまった。

 永一がどんな娘が好みかなんて聞いたことはなかったけどかなえのこと一目惚れしたのかしら……

 心の底では永一だったらかなえを任せてもいいかもと思う反面、少し……ううん、凄く悲しかった。

 やっぱりあたしと永一は良くも悪くも幼馴染。

 それ以上でもそれ以下でもない。腐れ縁ってやつなんだろう。


「はぁ……」


 家に帰ってからすぐ、永一からもらったヘアバンドを外してベッドに横になる。

 ボーっと考えることは永一のことだった。

 久々の再会に嬉しかったのに一気にどん底に突き落とされた気分……

 あたし、そこまで永一のこと……?


「あーあ、あたしらしくないや」


 深く考えてても仕方ないとあたしはお風呂に入ることにした。

 永一なら一応だけど信頼できる。

 かなえが望むならあたしは応援してあげたい。

 それで……うん、それでいいんだ。




…………*




 永一が転校してきてから一ヶ月が経った。

 あれ以来、永一とかなえはグループ内で会話はするけどそれ以上の会話はない。

 応援してあげたいと言いつつ、あたしはかなえと永一を二人っきりにさせないようにしてたからだ。

 でもある日、その包囲網をかいくぐり永一はかなえとデートの約束を取り付けたようだった。

 あ、これはあたしの情報網で得た情報なんだけどね。

 日曜日にデートして、翌日の月曜日から明らかにかなえの態度がおかしかったのにすぐ気づいた。

 我が親友ながら分かりやすい……

 永一を見る時間が長くなってるし、何だかあたし幸せですってオーラが出てるんだよね。

 これは間違いなく何かあったと思い、かなえを屋上に呼び出して白状させることにした。


「かなえ、正直に言いなさい。親友のあたしにウソついていいの?」


 最初は誤魔化していたかなえだったが、白状させることに成功した。

 やはり永一はかなえに告白し、かなえも受けたようだ。

 親友のあたしにさえ言わなかったのは永一の差し金に決まっている。

 まったく……かなえもかなえなら永一も永一だ。

 最後に本当に永一でいいのか、問いただすとかなえはコクっと頷いた。


「深見くんとまだ一緒にいる時間は短いけどなんか安心できる……から」


 かなえもまた気づいたのだろう。永一と一緒だと自分を作らずにいれることを……

 あたしが永一に惹かれる理由と一緒。


「そう。永一がねぇ……ま、いいわ。応援してあげる」


 あたしの精一杯の強がり……だけど応援してあげたいのは本当の気持ち。

 かなえは素直でいい子。永一には勿体ないぐらいだけど……

 あたしの初恋の人と親友が幸せならあたしは構わない。

 願うならば……あたしは二人の傍にずっといて二人が幸せになるのを見届けたい。


「えっとね、実は永一とかなえ、付き合い始めたみたいなの」


 もちろん、二人をからかうのはまた別の話……だけどね。



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