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幸せのある場所  作者:
30/30

30.いっしょにね



 幸せそうな二人のカップルが今、結婚式を挙げようとしている。


 紆余曲折、色々あったカップルがめでたくゴールインってわけ。


 その結婚式に私もお呼ばれした。


 幸せそうな二人を見て、私はふと思う。


 私も彼と……こんな結婚式を挙げられるかしら……?




-いっしょにね-




 私は今、とある結婚式場に向かっている。

 友達の白戸くんと小梅と一緒に。

 天気は快晴。まさに結婚式日和。


「しかし、なんでこんな遠くの教会を選んだんだ?」


 運転手の白戸くんが苦笑しながら質問してきた。


「智が二人のためにって探したのよ」


「ふ~ん。本当に二人のためかしらねぇ」


「えっ?」


「案外、あんたと結婚する時のために見つけてた場所なんじゃない?」


「そ、それはないと思うわ」


 否定しつつも小梅の言葉に反応してしまう自分がいた。

 クスクスと小梅は笑い、してやったりの表情だった。


「さ~て、着いたぞ」


 私と小梅は車から降りて、教会の入口に立って辺りを見回す。

 空気もおいしいし、自然豊かで確かにいい場所だなと感じた。


「小梅、結婚式ここにしたら?」


 車のロックをしている白戸くんには聞こえないように小梅に言う。


「その言葉、そのままお返しするわ」


 そう言いながらも小梅は少し頬を赤らめていた。

 白戸くんとの結婚も棒読みなんだからさっさとしちゃえばいいのに……

 なんて人のこと言えないんだけど……


「智のやつ、先に来てるんだろ?」


 長時間、運転した白戸くんが体を伸ばしながら合流した。


「うん、教会に入ってみようか」


 二人は頷き、教会の中に入ることにした。

 中に入ると二人の女性が椅子に座って談笑していた。

 一人の女性の腕の中には可愛らしい赤ちゃんがいた。

 私たちが近づくと、二人は気づき、会釈をしてきた。


「こんにちは」


「こんにちは。あなたたちはもしかして吉田智さんのお友達?」


「え、えぇ……そうですけど……」


 私たちは顔を見合って、なんで分かったんだろうと不思議がっていた。

 そこにクスッと笑って、言い当てた女性は言葉を続けた。


「今日の結婚式に来てる人は新郎新婦の高校時代の友人が主なの。だから私たちが知らない人は吉田智さんのお友達だけってわけ」


 そっか、永一は高校辞めてから裏社会で生きてきた。

 当然、結婚式に呼べる人付き合いはしてないだろう。

 一方、KANAも療養所生活してたからこちらも状況的に新しい友人は作るのが難しかった。

 考えてみればなんてことない。

 私は納得できたけど、永一やKANAのことを知らない二人は相変わらず不思議そうにしていた。

 簡単に智の双子の姉の結婚という説明を来る途中でしたけど、それ以上の説明はしていない。

 永一やKANAのことを考えたらしない方がいいかなっていう私の判断。

 最もKANAは二人に紹介しているから今回の結婚式にも来てくれた。

 智にそっくりな双子の姉ってことで二人とも面白がってたっけ。

 だから私は二人に後で説明するからって言い、その場を収めた。


「初めまして、藤山美咲よ」


「初めまして、中井未央です」


 私たちも挨拶をして、近くの椅子に座った。

 やはり気になるというか、最初に目につくのは中井さんの腕の中にいる赤ちゃんだった。


「可愛いですね」


「ふふっ、ありがとう。抱っこしてみる?」


「えっ? いいんですか?」


「どうぞ」


 私は緊張しながら赤ちゃんを腕の中に収めた。

 単純な重さ以上の重みを感じたけど、赤ちゃんの笑顔を見て幸せな気分になった。

 いつか私も彼と自分の子供を……なんてね。


「そういえば新郎が準備中に抜け出したって騒いでたわ」


「えっ?」


 その言葉を聞いて私は赤ちゃんを小梅に抱かせ、立ち上がった。


「私、探してきます」


「ほっといても大丈夫だと思うけど」


 藤山さんが苦笑しながら言った言葉は私もそう思うけど……

 話したいこともあったから私は探しにいくことにした。

 藤山さんと中井さんに頭を下げ、私は教会の外に出た。




…………*




 教会の外を一回りして、ちょっとした高台になっているところに一人の男性が立っていた。

 男性は静かに高台から見える景色を見ていた。

 その瞳は淡く切ない……

 私が後ろからそっと近づくと、振り向かずに男性は声を発した。


「久しぶり……だな」


「そうね……」


 芝生だから大きな足音は立ててなかったけど気配を察したのか、男性……永一が声をかけてきた。


「色々迷惑かけたな。悪ぃ」


「ほんとよ」


 永一は一命を取り留め、そして動けるようになってすぐにまた姿をくらました。

 病院から抜け出してすぐに永一は私に電話をしてきた。

 内容はしばらく出かける。必ず戻るから皆には心配しないように言っといてくれ、ってな感じに。

 それからすぐに智から永一がいなくなったっていう電話をもらって皆に説明する役を私が担った。

 皆、騒ぐし、KANAも泣き出すし、大変だった。 

 けど最終的には佐伯さんが、本人が戻るって言ってんだから大丈夫でしょ、と言い皆を納得させた。

 帰ってきてからはとんとん拍子に話が進み、今日に至るってわけ。

 その間、智たちは会ってたみたいだけど、私は時間が合わず今日まで永一と話すことはなかった。


「戻ってきて話すのは私が最後?」


「あぁ。帰ってきてすぐに伊万里に呼び出された。智も一緒だったな。あいつら、結構仲いいみたいだぞ」


 永一は振り返って、軽く笑みを浮かべていた。悪い笑みを……

 永一が言いたいことは分かってる。

 だけどここで乗ってしまっては永一の思うまま。

 私は平静を装い、話を逸らした。


「ねぇ、KANAは身体のこと知ってるの?」


「……いや」


 真剣な表情になり、簡単な返事が来た。


「話す気はないの?」


「あぁ……これ以上、余計な心配かけたくないしな」


「それで……いいの? 結局は一緒じゃない……!」


 永一たちが高校の時の話は私はKANAに聞いて触り程度だけど知っていた。

 KANAも永一も相手のことを想って……でもお互いが一番辛い選択になってしまった。

 それなのにそんなKANAと同じ選択を永一が取るとは思わなかった。

 だけど永一はふっと笑うと穏やかな表情で私の言葉を否定した。


「違うよ」


「えっ?」


「高校時代、KANAは俺の負担になりたくなくて嘘ついてくれたんだ」


「だから永一も嘘をつくの?」


「決定的に違うのは俺はKANAの傍を離れる気はねぇってこと。ずっと傍にいて、ずっと騙し続けるつもりだよ」


「騙す……ってやっぱり治ってないの?」


「治ったよ。治ったが転移する可能性は高いらしい。ま、当然だろうな」


 おどけて話す永一……だけどやっぱりそんな大事なこと最愛の人に話さなくていいのだろうか……

 私はなんて言っていいかも分からず、ギュッと拳を握る。

 殴りたいわけじゃなく、色んな想いが交差する自分の自制を保つために。


「でも智が用意してくれた家はいいところだよ。空気もいいし、何よりKANAとずっと一緒にいれるからな」


「話逸らさないで。KANAのこと騙し続けて、本当に幸せになれるの? 嘘をつき続けて……」


「嘘をつく……っていうとあれだが、俺としては黙ってるだけだ。身体のことも、今まで俺がしてきたことも、な」


「あっ……!」


 私はハッとした。

 永一が生きるためにしてきたこと……

 特に私と出会う前のことなんてKANAに話したら恐らくKANAは取り乱すだろう。

 そんなことKANAだけじゃなく、他の人にも言えないだろう。


「ま、嘘ついてるのと変わらないかもしれないけどな。俺の心持が違うだけだが、ま、過去を忘れると思ってな」


「永一……」


「だからお前もこの話は伊万里以外にはしないでくれ」


「佐伯さん……には話したんだ」


「話さなきゃ殺されそうだったし……一人ぐらい事情知ってるやつがいた方が俺も気が楽だったりするからな」


 両手の手のひらを天に見せ、お手上げのポーズをする。

 これまでのことを考えたら佐伯さんには話しておいた方がいいかもしれない。

 最もこれ以上、私は永一の過去のことを口にする気はないけど。

 永一の言葉を借りるわけじゃないけどもう過去のこと。忘れることにしようと。


「ねぇ、一つ約束して」


「ん?」


「幸せになりなさいよ。これ以上、もう傷つかなくていいから。KANAと一緒に幸せに、ね」


 永一ははにかむように微笑んだ。


「……ありがとう……」


 永一はゆっくりと私に近づいてきた。

 そしてキスをされそうなぐらい間近に迫った彼の顔。

 私は驚いて、一歩下がろうとした時だった。

 永一に腕を掴まれ、抱き寄せられる。

 私は何が何だか分からなくなり、軽いパニックに陥っていた。

 一つ言えるのは私は永一に抱きしめられているということ。


「約束するよ。お前のおかげで……俺、どんなに救われたか……」


「永一……?」


「お前のおかげで智に出会って、生きたいと思った。そして生きてまたKANAに会うことが出来た」


「それは私のおかげじゃないわ」


「いや、お前と出会わなければ……俺はあの日、死んでいた。だから俺はお前にお礼をしてもし足りないぐらいだ」


「お礼なんて……永一が幸せなら私はそれでいいわ」


「そんなこと言うな……俺はお前にも幸せになってもらいたい」


「永一……」


 私は自然と永一の背中に腕を回した。

 友情とも愛情とも違う、名もなき絆で結ばれている私たち。

 違う部分はもちろんあるけど……根本的に私と永一は似ていると思う。

 まるで自分を映し出す鏡のように……

 永一と出会って私も変わった。

 智とのことも真剣に考えるようになり、私自身の世界も広がった。


「私もあなたと出会えて本当に良かった」


 腕に力が入る。

 それに応えるように永一も強く私を抱きしめる。

 風が吹き、木々が揺れる。

 時が止まったように感じ、永一の温もりを感じながらずっとこうしていたいと思った。


「あぁっ!? 永一、何をしてるんや!?」


 だけどその永遠に続くかと思われた時間も大きな叫び声で現実に引き戻された。

 抱き合ったまま、声の方を向くと大柄な男性が目を見開いて驚いていた。

 その後ろでメガネをかけた男性が目を丸くしていて、その隣にいる智は顔を青くしていた。

 完全に誤解している智の表情に罪悪感を感じつつ、私と永一は同時にため息をついて身体を離す。


「よぉ。野郎だけでどしたい? いくら智がカワイイからってこんないい場所で襲うことだけはやめてくれ」


「ち、違う! 僕たちは君を探しに来ただけだ」


「ちょっと外の空気吸ってくるって言っただろ」


「永一、結婚式に浮気か?」


「浮気?」


 何それ、と言わんばかりの顔をして私を見てきた。

 私に振られても困るけどと苦笑するしかなかった。


「あのな、俺がそんなことするわけないだろ」


 視線をメガネをかけた男性に戻し、呆れ顔で答えた。


「し、しかし、今……」


「感謝の抱擁ってやつだ。アメリカじゃ普通だろ、こんなもん」


「ここは日本だ!」


「ったく、仕方ねぇな。俺が愛してるのはKANAと智だけだっつーの」


「えぇっ!?」


 今度は智が大きな声を出して驚いた。

 永一はKANAを失った後に智と出会ったもんだから、重ねて見てるところがあるみたい。

 だからある意味、永一の発言は本音なんだろう。

 真っ赤になりながらうろたえる智を見て、永一はさぞ楽しそうにしている。

 そういうところが可愛くて永一はからかいたくなるんだろう。

 確かに見てる分には永一の感情も分からなくはないけど……


「っと、私、ちょっと話したい人いるから失礼するわね」


「えっ? どこに行くんだい?」


 智の顔がまた少し歪んで、微妙な表情になった。

 出来れば二人で話したい人だから、智には悪いけど永一たちと一緒にいてほしい。

 その心情を悟ったのか、永一がすかさずフォローにまわってくれた。


「なんだよ、智。俺だけじゃ不満か?」


「え、えっ?」


「ここで智の恋バナでもしようじゃないか。一俊も雅憲も興味あるだろ?」


「えぇっ!?」


「ふむ、確か前に上手くいけば結婚まですぐって人がいるらしいな」


「へぇ、そうなんか。そら、興味あるな」


 話が盛り上がったところで永一がアイコンタクトを送ってくる。

 恐らく今のうちに行けってことなんだろう。

 私もアイコンタクトでお礼を言い、その場を立ち去った。

 智の恋バナ……智がどう思ってるのか、聞きたいところではあったけどね。




…………*




 私が教会に入るとそれなりに人が集まっていた。

 知らない人を見かけると永一とはどんな知り合いなのか、少し気になったりした。

 最も永一の知り合いといっても高校時代の人だろうから、藤山さんや中井さん、さっきの男性二人と同じなんだろうけど……

 KANAの方の親族の人は呼ばないだろうし、永一の親族か昔の友人ってところかな。

 そんなことを考えながら、目的の人がいる部屋を探し歩いた。

 廊下を歩いていると壁に寄りかかりながら俯いている女性を見つける。


「こんにちは、佐伯さん」


 声をかけると佐伯さんは顔を上げた。


「あぁ、あなた、智の……」


 久しぶりに会ったけど、覚えていてくれたみたい。

 あの時はバタバタしてて、落ち着いて話すこともなかったから。


「どう? 智とは上手くいってる?」


「まぁ、それなりに。どうしたんです、こんなところで」


「居場所がなくてね」


 苦笑する佐伯さん。前より表情が優しくなった印象を受けた。

 いや、きっと今の表情が本来の佐伯さんなんだろう。

 でも今の表情はどこか寂しそうで……


「居場所、ありませんか?」


「何か私だけ場違いな感じがしてね。昔の知り合いもいるし……学生時代のことはあまり思い出したくないしね」


「永一は?」


「もう話したいこと話しちゃったし。永一は今はKANAのことだけ考えさせてやりたいしね」


「それで……いいんですか?」


「うん。昔みたいにバカやれる年齢じゃないし、お互い変わりすぎてるし」


「そんなことないですよ。時間をかければきっと……」


「そうね。そうだと……いいわね」


 また寂しそうな表情をし、窓から外を見つめる佐伯さん。

 そんな佐伯さんになんて声をかけていいか分からず、無言状態が続く。


「それより、気にならない? 私と智のこと」


 確かに一番気になる点かもしれない。

 視線をそのまま外に向けたまま、佐伯さんは言葉を続けた。


「たまに食事をして相談受けたりするわ。仕事のこととか、誰かさんとなかなか進展がないこととかね」


「うっ……そんなことまで……」


「女心が分からなくて、なかなか攻めるタイプじゃないしね。あんたも苦労するわね」


 佐伯さんが再び視線を私の方に向け、楽しそうに笑っていた。

 この笑い方は智をからかう永一と同じで、佐伯さんらしい表情だと思った。

 永一も時間をかけて元に戻ったように佐伯さんもきっと学生時代の頃のように戻れるはず。

 知らない私が言うのもなんだけど……ね。


「ねぇ、アイツのこと……よろしくね」


「任せて」


 私の返答にふっと笑い、佐伯さんは私の横を通りすぎた。

 通り過ぎる瞬間に目に入った佐伯さんの表情が、アイツとは誰か分かってるのと言ってる気がして……

 私はそれに対し、もちろん分かってるわっと心の中で思った。

 そして佐伯さんとは逆の方向に私は歩みを進めた。




…………*




 目的の部屋の前につき、ノックをする。


「あら、こんにちは」


 中から敦子さんが出てきて私を迎えてくれた。


「今日は智と一緒?」


「いえ、白戸くんの車で」


「そう。かなえ、お客さんよ」


 奥にいるKANAに声をかけた。

 奥からKANAの元気な声が聞こえてきた。


「かなえ、私、ちょっと聖堂の様子見てくるわね」


 そう言って敦子さんは部屋を出た。

 ゆっくりしていってねと通り過ぎ間際に言われ、どうやら気を遣わせてしまったみたい。

 お辞儀をして、私はKANAのいる奥へと向かった。

 さて、これで全て終わらせるとしよう。

 この紡いできた長い物語を終わらせる話を……

 この話をしなければKANAを心から祝福する気にはなれないから。


「お久しぶり、KANA」


「お久しぶりです。元気でした?」


「えぇ、KANAも元気そうね」


 KANAの幸せそうな笑顔を見て、こっちもつい笑みがこぼれる。

 だけど私が今からする話は恐らくKANAを傷つける。

 それでもしなければならない。

 私自身、この気持ちに決着をつけなければきっとおめでとうなんて口に出来ないから。


「ねぇ、KANA……聞きたいことあるんだけど、いい?」


「なんですか?」


「嘘……ついたこと、どう思ってるの?」


「嘘……?」


「永一に自分が死んだことにした……そのことについて」


 私の言葉に笑顔だった表情が一転して曇る。

 輝いていた瞳も少し陰りが見えた。


「後悔……してる?」


「後悔してない……って言うと嘘になります」


「そう……」


「あの時、もっと違う方法があったんじゃないかってそればっかり考えて……」


 KANAの瞳から涙が溢れ出てきた。


「永一くん、声をかけると昔のように優しい笑顔を見せてくれるけど……ふと一人でいるときなんかは……」


「別人のよう?」


「ううん、そうは言わない……けど、永一くん、何か私に隠してる……それだけは分かるの」


 私はハンカチを取り出し、KANAに渡した。


「でも私も永一くんに嘘をずっとついてきた。そんな私が永一くんが隠していることを聞く権利なんて……」


「それでいいの?」


「えっ?」


「そんな気持ちで永一と結婚して、幸せになれるの?」


 KANAは私からハンカチを受け取り、目元に当てた。


「私……それでも永一くんと一緒にいたい。彼と歩むはずだった時間をゆっくりと二人で取り戻していきたいの」


「永一の過去は気にしないってこと?」


「ううん。過去も未来も……そして今も、全て彼と一緒に背負って生きていきたいの」


 気づけばKANAの瞳が光が戻っていた。

 瞳に涙は残ってるけど、それでも力強い眼差し。

 KANAは過去から逃げてるわけじゃない。

 過去から逃げるために幸せを求めているわけじゃない。

 目を背けず、必死に今を生きようとしている。

 そして幸せな未来を見つめている


「生きて……ね」


 そう、過去も受け止め、今を生きて、未来を見ている。

 KANAはしっかり過去に対する答えを持っている。

 なら私が言うことは何もない。

 きっと永一とKANAなら……今のKANAなら幸せになれるだろう。


「ありがとう。これでようやくあなたのこと、祝福出来そう」


 私は部屋の出入り口に向かって歩き出した。


「あ、あの!」


 ドアノブに手を伸ばした時、KANAが後ろから声を上げた。


「心配かけてごめんなさい。私……私たち、幸せになるから!」


「ふふっ、お幸せに。これからもよろしくね」


 私は振り向かず、ドアノブをまわし部屋を出る。

 きっとKANAはKANAらしいとびっきりの笑顔になっていたと思う。

 これで全て終わった。

 そしてようやく結ばれる……長い別れを経験し、互いに傷ついた恋人同士が今……




…………*




 結婚式は何の問題もなく進んだ。

 永一も、KANAも、ううん、この場にいる皆が笑顔になっていた。

 招待客が両脇に立ち並び、その中を新郎新婦が歩いていく。


「KANA、ちょっといいか?」


 永一はふと立ち止まり、KANAの耳元でそっと囁く。

 途端にKANAが笑顔になり、来た道を戻っていく。

 永一もその後を追い、階段を上り教会の出入り口前に二人で立った。


「KANA、準備はいいか?」


「うん!」


 KANAは持っていたブーケを頭上へと掲げる。

 そして永一は息を吸って、皆に聞こえるぐらいに名前を呼んだ。

 そう……私の名前を。

 その瞬間、KANAはブーケを放り投げた。


「あっ……!」


 私は飛んできたブーケを受け取る。

 二人が私にブーケを送った理由……その意味は?


「次はお前たちの番だ」


 永一はこの場にいる皆に聞こえるように言った。

 多分、私の顔は赤くなっているだろう。

 そして隣にいる智の顔を見るとやっぱり赤くしていた。

 他の人の視線や小声で何か話しているのが気になった。

 そしてこんな状況を作った二人は……とても幸せそうな笑顔をしていた。




…………*




 人は皆、ある場所を求め、歩み続ける。


 きっと誰にもある、幸せのある場所というものが。


 その幸せのある場所を目指して歩幅を合わせて生きていく。


 そう、いっしょにね。




~F I N~




どうも、作者の漣です。

まずはお礼、感謝の言葉を皆さんに伝えたいと思います。

『幸せのある場所』、読んでくださった方でこの後書きを見てくださってる方がいらっしゃれば本当にありがとうございます!


主人公は深見永一、ヒロインは吉田かなえ、というスタンスで書いてますが、大人編では個人的には智の彼女(あえて名前はつけてません)が主かなっと思ってます。

なので最後の30話の一人称は彼女にしました。

そしてその裏では伊万里が動きまくりました。伊万里が主人公にした作品も意外と書けるかもしれませんね。


色んな登場人物の視点で書いたため、1回読むだけじゃ分かりづらいところも多かったと思います。

それは前書きにも書きましたが、私の文章力のなさのせいです、申し訳ありません。

でもこういう書き方だからこそ、この『幸せのある場所』は成り立ってるんじゃないかなっと完結してから思います。

何回も読んでようやく理解出来る……じゃ、小説としてはダメなんでしょうけどね;;


さて、前書きにも書きましたが、この『幸せのある場所』は超純愛物語だと。

全部読んでくださった方はどう思いましたでしょうか?

もちろん、感じ方は人それぞれなのでどう思ってもそれは正解だと思います。

他にも感じたことがあるのなら、私はこの作品を書き、公開して良かったなと思います。

作品を読んで、何でもいいです。

心に残ったもの、感じたことがあるのなら私は幸せです。


今まで自サイトでは野球SSを中心に執筆活動を行っております。

そんな私が読み切り以外で、連載方式で初めて恋愛系の作品を完結させたのがこの作品になります。

私にとっても新境地開拓の作品でした。

そのため、言い訳にするつもりはありませんが、やはり至らない点は多々あるなっと思います。

でもそれすらも含めて、『幸せのある場所』なんじゃないかなっと思います。

(誤字、脱字は直しますけど><;)


ひとまず30話で区切りよく終わらせましたけど、この作品から読み切り小説はたくさん作れると思います。

高校時代、大人編、そして30話以降と語らなかった部分など穴を埋めるように書けると思います。

その辺も時間が取れたり、思いついたら書いていきたいなっと思っています。


最後に繰り返しになりますがここまでお付き合いくださった方、いらっしゃいましたら本当にありがとうございます!

もちろん私、漣の執筆活動はまだ続きます。

この『幸せのある場所』も何度も読んで欲しいですし、読み切りも出来る限り公開したいと思いますし。

そしてサイトの方にも足を運んでもらえたら嬉しいです(笑


読んでくださる人がいるって凄い幸せなことだと、この作品を通じて思いました。


どうぞ皆さん、今後とも漣が描くストーリーにお付き合い願えたら幸いです。


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