81:ナル専用デバイスのために
午後。
俺、スズ、イチ、マリーの四人は、学園の外務部担当であるらしい女性を連れられて、学園内にある応接室の一つへとやって来ていた。
そして、応接室で待っていたのは、見るからに質のいいスーツで身を包んだ一人の女性だった。
「本日は弊社『シルクラウド』を招いていただき、誠にありがとうございます。私は翠川様たちを担当させていただく者で、楽根と申します。今回は弊社に翠川様の専用デバイスの開発と製造を依頼してくださり、誠にありがとうございます」
「ご丁寧にありがとうございます。俺が翠川鳴輝です。それでこちらが水園涼美と言いまして、俺の事をよく知っていると共に、頭もよいので、交渉のメインはスズ相手でお願いします」
「水園涼美と申します。今日はよろしくお願いします。楽根杏子さん」
「は、はい」
俺とスズは席に着き、イチとマリーは俺の背後に立つ。
その様子に楽根さんは少し緊張しつつも、資料を並べていく。
なお、楽根さんが持つ社員証は胸ポケットに隠されていて名前が窺えないし、学園来訪許可証と思しきものには名前は無く顔写真と日付だけなので……スズが何処で楽根さんの下の名前を知ったのかは不明である。
「では、既にご存じの事であるとはお思いですが、弊社『シルクラウド』及びどのようなデバイスを普段は製造しているのかについて、説明させていただきます。その上で、翠川様がどのようなデバイスを求められているのかをお聞きし、必要なデータを集めた後に、開発と製造を行わせていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
さて、『シルクラウド』と言う会社だが、実はマスカレイドの為のデバイスを製造するのが専門の会社ではない。
と言うか、デバイス製造部門は割と最近出来たそうで、本業はアパレルメーカーになるようだ。
なのでうん、実を言えば、モデル業の方にも、『シルクラウド』のメッセージは来ていたりもしたのだが……今は関係ないので、閑話休題で。
そんな『シルクラウド』のデバイス製造部門が普段、開発と製造をしているのは、日常生活で身に着けていても違和感のないデザインのデバイスとなる。
形状としては、眼鏡やサングラスに始まり、イヤーカフスやブレスレット、チョーカーなど、様々な形がある。
これはデザイン性を重視すると共に、普段から付けていても違和感がないデザインにする事で、緊急時に鞄などから取り出す手間を省くと言う意味もある。
なお、どうして緊急時にマスカレイドを発動するかと言えばだ。
まず、マスカレイドを発動している間はどのような傷や衝撃を受けても、術者本来の肉体は傷つかず、マスカレイドが解除されるだけと言う特性があるのは知っての通り。
これを利用すれば、緊急時でも、とりあえずマスカレイドを発動する事によって、身の安全を図る事が出来、それこそ、高度数千メートルから落ちたって、マスカレイドしている本人は無事で済む。
また、このような使い方は女神も命を守るための例外的使用という事で認めているものでもある。
「そう言うわけですので、弊社デバイスが得意とするのは、即時展開や防御と維持に優れた構造の仮面体という事になります。また、現在は開発中ですが、緊急時に自動的にマスカレイドを一瞬だけ発動して、身を護るような機能も考えています」
「ふむふむなるほど」
ちなみに現在俺たちの前には、他者のデバイスと比較した時に、どれだけ速く展開出来るかや、どれぐらい長く維持したり、防御を堅くしたりできるかと言った、『シルクラウド』社が用意した資料が並べられている。
まあ、この手の資料は客に対してよく見せるのが常なので、話半分くらいに聞いておくのが正解なんだろうな。
で、それからしばらく話は続いて。
「ナル君。ナル君の希望としては?」
此処からは俺の希望を述べるターンである。
なお、スズからはどんなぶっ飛んだ希望でもとりあえず出してとは言われている。
無理なものは無理だと言って止めるから、大丈夫らしい。
「そうだな……とりあえずデバイスで顔が隠れないようにするのは当然として」
「当然なんですネ」
「ナルさんですから」
顔を隠さないのは当然である。
決闘者は顔バレを警戒するべきだって?
そんなのは今更だろう。
俺の仮面体はほぼ俺の顔そのままだし、だったら俺は俺の顔を隠さない事でモチベーションを上げることを選ぶね。
「展開、防御、維持が得意だって言うなら、その方向は伸ばして欲しい。俺の仮面体が得意とするのもその方向だからな」
「かしこまりました」
「ナル君、攻撃はどうするの?」
「そこはスキルと技術でどうにかする。デバイスで底上げした程度でどうにかなるレベルでもないしな。敢えて注文を付けるなら、学園指定デバイス程度にあればそれで大丈夫、と言うところか?」
「なるほど」
身体能力的なものについては、『シルクラウド』の得意とするものを優先してくれれば大丈夫だろう。
「ああそうだ。外見は変わらないように注意してもらわないとな」
「え?」
「ナル君。仮面体の外見がデバイスで変わるってほぼ無いよ」
「え?」
最初の”え?”は楽根さんで、次の”え?”は俺である。
どうやらそこは危惧しないでいいらしい。
と言うか、仮面体の外見は現在の人間の技術では調整と言う形で部分的に変えるのが限界だそうで、その技術で変える事が出来ない俺の仮面体の外見は俺自身の意思以外では動かせないであろう部分らしい。
うーん、そこまでのものとは知らなかった。
「なるほど。要望については承りました。では、デザインについてですが、専用デバイスという事でデザイナーが書き起こすことになりますが、どのような方向性が良いのかと言う方針はありますか?」
「そうだなぁ」
続けてデザイン決め。
俺は俺自身及び俺の仮面体が付けていても違和感がないデザインはどのようなものかを考える。
そして、幾つか提案をし、そこへスズが追加の提案もする。
スズの追加提案は俺としても、『シルクラウド』としても望むところだったので了承。
だいたいの方向性については、簡単にまとまった。
「では最後に契約書へのサインをお願いします」
「分かりました」
「外務部さん」
「はい、分かっています」
その後、幾つかの話し合いを挟んだ上で、スズと外務部の人が問題の無いことを確かめた契約書にサインをする。
これで俺専用のデバイスが開発・製造されることが決まったわけである。
「それでは翠川様」
「ああそうだな。早速と行こうか。イチ」
「はい、相手をさせていただきます」
そしてすぐに、デバイスの開発に欠かせないデータを取るべく、俺たちは決闘を行える場所へと全員で向かう事にした。
09/22誤字訂正




