492:ネオンもやしハウス
「ん? ちょうどいい所に居たな。水園。それに翠川たちも」
「燃詩先輩が真昼間から部屋の外に出ている……!?」
その後も雑談をすること暫く。
珍しい人物……燃詩先輩が俺たちに話しかけて来た。
スズの反応は……失礼かもしれないけれど、同意なので、黙っておく、はい。
「吾輩とて必要なら部屋の外に出る。それよりもだ。此処に居なければ水園に連絡をするつもりだったからな。付いてこい。ああ、翠川たちもだ。貴様らも一緒の方が吾輩にとっては都合がいい」
「「「?」」」
そう言うと燃詩先輩は寮の外に向かってゆっくりと歩いていくので、俺たちは燃詩先輩についていく。
普段からお世話になっている先輩だし、急ぐべき何かがあるわけでもなかったからな。
付いてこいと言うのなら、付いていく事に否はない。
「此処がそうだ」
「此処って確か建設中だった……」
「謎の建物ですネ。運び込まれているものかラ、サーバールーム的なものではないかとは言われていましたガ」
で、やってきたのは戌亥寮近くに建てられた建物。
内装工事も終わっているようで、入り口には電子ロック付きの金属製扉が設置されている。
それにしてもサーバールームか。
「中に入るぞ」
「分かりました」
燃詩先輩が普通にロックを解除して建物の中へ入っていく。
少し奥の方へと向かってから扉を開けてみれば、そこには一般的な住居のリビングそのものの空間が広がっていた。
燃詩先輩はこれまでに世話になった通り、電子関係、技術関係について非常に詳しい。
そんな燃詩先輩が居住空間付きの建物にスズを案内したとなると……。
もしかしなくてもそう言う事か?
「燃詩先輩。もしかしなくても、此処は燃詩先輩の卒業後の新居ですか?」
「正解だ。吾輩は卒業後に此処へ移って、此処で仕事と生活をする事になる。必要なものは一通り揃っていて、掃除と洗濯は人任せに出来る。最高の職場環境と言うものだな」
うん、正解だったらしい。
俺の言葉に燃詩先輩は腕を組んで頷いている。
「メリットは……幾らでもあるかな。燃詩先輩の技術力なら」
「そうだな。吾輩が学園に居る方が、国としては吾輩を守り易いと同時に吾輩が開発した技術を吸い上げやすい。吾輩としても身の安全を図り易く、生活にも困らず、研究対象や試作を手伝ってくれる者にも困らない。学園としても、吾輩の解析能力を生徒の指導に用いり易く便利。他にも幾らでもメリットはあるが、三方揃って得をしているのは確かだ」
実際、燃詩先輩が学園に居る事のメリットは非常に大きいだろう。
唯一のデメリットになりそうなのは燃詩先輩狙いの危険が学園に迫ってくる事だが……燃詩先輩なら大抵の危険は自分で対処できるだろうし、燃詩先輩が対処できないトラブルなら世界の何処に居ても駄目な気がするので、デメリットがデメリットになっていない気がするな、これは。
と言うか、ペチュニアの件を考えると、むしろ学園の生徒を守るためにも燃詩先輩は此処に居て貰った方が都合がいいように思える。
「それでイチたちを招いた理由はなんでしょうか?」
「簡単に言えば顔繋ぎだな。此処を訪れるのは基本的に関係者だけになるが、その関係者共では色々と都合が良くない場面と言うのもある。そう言う時に、吾輩個人の知り合いとして、以前にも招かれたことがある人間が居ると都合がいい」
「なるほど」
「勿論タダでとは言わんぞ。吾輩が学園を卒業した後も、多少の頼み事なら聞いてやれる」
燃詩先輩との繋がりは当然ながら俺たちとしても大きなメリットがある。
スキル『フォールオンミー』の改良なんて燃詩先輩にしか出来ないだろうし、他にも燃詩先輩でないとアドバイスすら出来ないであろう事は沢山あるので、それが今後も得られるのは良い事だ。
燃詩先輩なら無茶なお願い事をしてくるような事もないだろうしな。
「そういう訳だから、今後もよろしく頼むぞ。水園」
「あ、はい。分かりました。燃詩先輩」
まあ、燃詩先輩の態度からして、メインで対応するのはスズになりそうだけれども。
その後、俺たちはサーバールームや実験室を少しだけ見せて貰ってから退出。
戌亥寮へ戻る事にした。
「しかし、まさかのではあるけれど、言われてみれば納得ではあるな」
「そうだね。燃詩先輩の安全、生活、仕事を考えたら、これは有りだったよね」
「あの施設の整い具合。国の本気具合が窺える話でしたネ」
「そうですね。ただ、イチたちとしても心強い話でした」
「そう言えば、他の先輩たちの卒業後はどうなっているんだ?」
その途上、俺は麻留田先輩たちについて何か知らないかと尋ねてみる。
「麻留田さんは決闘者になると聞いています。裏の方からの接触もあるようですが」
「山統前生徒会長も決闘者らしいですネ。前副生徒会長との婚姻もするって噂でしたヨ」
「決闘者になる人。別の分野に進む人。色々あるみたい」
「へー、なるほどな」
当たり前と言えばその通りなのだが、麻留田さんたちもそれぞれに自分の道を歩むらしい。
しかし、裏の方って……いやまあ、麻留田さんがユニークスキル的にそう言うのに向いているのは知っているけども。
ま、どの道に進もうとも、麻留田さんなら何とかしそうではあるな。
その後、先輩たち何人かの進路と結婚の情報を聞きながら、俺は戌亥寮へと戻ったのだった。
09/26誤字訂正




