485:冬季合宿五日目・状況把握する者たち VSハモ -中編
「ナルちゃん頑張って……」
ナルとハモの戦いが始まって暫く。
『ホテルアバランチ』の屋上にはスズ、巴、イチ、マリーの四人が集まっていた。
その視線の先では雪煙が激しく上がり、その合間からはハモの巨体が時折見え隠れしている。
「はい、はい。そうですか。分かりました。スズ、イチ、マリー、どうやら他の方は既に大講堂へ避難するか、正面玄関で防御陣地を築くかのどちらかの行動を始めているそうです」
「私たちについては?」
「出来れば大講堂か防御陣地のどちらかへ移動をして欲しいそうですが、状況が状況なので自分の判断に任せる。だそうです」
深夜にも関わらず、『ホテルアバランチ』全体が既に騒がしくなっている。
学園の生徒と教師は戦闘能力に自信がないものは大講堂へ集められ、戦闘能力に自信があるものはハモが『ホテルアバランチ』の方へと向かってきた場合に備え始めていた。
そして、逃げると言う選択肢は、残念ながら彼らには無かった。
それは周囲の環境が逃げるのに適したものではなく、手段の確保も出来なかったためである。
だからナルが惹きつけている間に備えるしか、彼らには選択肢がなかった。
「それと、羊歌さんの方へ燃詩先輩から連絡があったそうで、今突貫で色々と弄っているようです。後は政府ですが……動いてはくれているようです」
「政府への連絡はイチの方からもしました。ただ、今からヘリを飛ばすそうなので、早くても一時間ほどはかかるとの事です」
「一時間ですカ。ナルなら余裕で耐えてくれそうですガ……相手がただの化け物ではないんですよネ」
「うんそうだね。相手は化け物じゃなくて人間だよ」
外へのするべき連絡は既に複数のルートでされている。
だが、凡百の戦力では来ても蹂躙されるだけなのは、ナルとハモの戦いを遠くから窺っているだけのスズたちでも容易に分かった。
少なくとも、魔力量甲判定者か、それに匹敵するだけの何かが無ければ、戦力として数えるのは難しく、それほどの人間を集めるとなると、相応の時間も必要だった。
しかし、その時間を相手が待ってくれないのは確実だった。
もしもハモが本能のままに動く獣、己の力に酔いしれる痴れ者、策謀など考える必要のない人ならざる者だったら、ナルは何時間でも問題なく耐えた事だろう。
だが、どれほど異様な仮面体を為していても、『ペチュニアの金貨』による思考汚染を受けていようとも、ハモが人間である事は間違いない。
理性と知性を残しているならば、何処かで何かしらの策を打ってくることは必定だった。
だから、ナルが耐えている間に、スズたちはどう対処するかを考えなければいけなかった。
そして、必要な事を考えるために、この場に居る者に限ってスズは語り出す。
「あの骨の仮面体の中身はハモと名乗っていた男。これはついさっきナルちゃんに襲い掛かるまでアビスが加護を授けていたから間違いないよ。『アビスの宝石』の作成者と言った方が巴には分かり易いかな」
「あの宝石ですか。ですが、あの宝石を使ったとしても、あのような仮面体を作り出せるとは……」
「それ以前にハモは魔力量乙判定の中でも少なめの方の人間だったはずです。二倍どころか十倍にしても、あの仮面体を維持できる魔力量にはならないかと」
「『ペチュニアの金貨』込みで考えてモ、まるで足りませんよネ。あんな仮面体、魔力量に直したラ、一万ぐらいは無いと使い物にならないと思いまス」
「うんそうだね。私もその辺りが気になったからアビスに確認してみたんだけど……ハモの授かった加護、『アビスの宝石』の作成に用いられる力は、正式には『仲介』と言うんだけど、これは本当にその名前の通りだったみたい」
「「「?」」」
スズの言葉に巴たちが首を傾げる。
「つまりね。『アビスの宝石』が使われる度に仲介料と言う名目で以って、ハモにも使用者の魔力が流れ込んでいたみたいなの。そして、その流れ込んだ少しの魔力を使ってハモは自分の最大魔力量を増やしていき、そこへ更に『ペチュニアの金貨』によって外付けの魔力を得る事で、あの仮面体を維持しているみたいなの」
「「「!?」」」
そして続いたスズの言葉に、巴たちは揃って驚きと疑念の顔をする。
だが、巴たちがそのような顔をするのも当然の事だった。
何故ならば。
「正気ですか?」
ハモの行いは常軌を逸しているとしか言いようのない行為だったからである。
「確実に狂気だよ。少なくとも私はそう判断する」
「逆に言えバ、そんな狂気を押し通せてしまうほどに尾狩家は怨まれていたと言う事ですネ」
「そうなると、尾狩家を無視してナル様を襲っているのも、既に正気を失っているから、と言う話になりそうですね」
他人の魔力を取り込む事で自身の魔力の量を増やす。
それは古くから各国で試みられ、女神の力を借りても失敗してきた行為である。
精神や肉体に異常を来すか、マトモに会話できないほどの激痛に苛まれるか、単純に死ぬか、いずれにしても上手く行かないのが当然の行いであった。
そんなものをハモはアビスの力を借りてはいるが、成し遂げ、押し通してしまっていた。
「ただ、ナル君と違って、ハモの仮面体は元の肉体から大きな変貌を遂げている仮面体。そうなると自然回復する魔力量よりも、維持するのに必要な魔力量の方が多いはずだから、ああして暴れている間に力尽きるはず……!」
だが時間を稼げばいずれは力尽きる。
そうスズが告げようとした時だった。
「ーーーーー!!」
「ナルちゃん!?」
「雪崩を……!?」
「……」
ハモが雪崩を引き起こし、ナルが雪崩に巻き込まれて姿を消す。
「ナルなら大丈夫なはずでス。マリーたちは迎撃の準備をしましょウ」
「そうですね。ナルさんの為にもやられるわけにはいきません」
「ナル様なら暫くすれば戻ってくるはずです。ナル様ですから」
「……。そうだね。ゴメン、私はとっておきを出すから、なんとか時間を稼いで」
ハモが『ホテルアバランチ』へと向かってくる。
ナルの無事は全員疑っていないが、ナルが戻ってくるまでどうにかして耐えないといけなくなったのもまた事実だった。
だからスズたちは動き出す。
全員揃って生き残るために。




