26:バーガーショップでのひと時
「此処でいいか」
「うん、いいよ。ナル君」
「分かりました」
「では、向かいを失礼しますネ」
大型盾をレンタルした俺たちは、時間もちょうどよい頃合いだったので、ショッピングモール内にあった大手ファストフード店で昼食を取る事にした。
と言うわけで、それぞれの注文を受け取り、四人一緒にかけられる席という事で外のテラス席に着く。
「「「いただきます」」」
味は……うん、変わらないな。
ポテトの塩気も、バーガーのソースも、炭酸飲料の甘味もいつも通りと言う感じだ。
「前回食べたのは……半年くらい前だったか?」
「そのくらいの時期だったね。どのファストフード店にしても、地元だと生活圏からちょっと外れた場所にあったから」
「都会だと、歩いて数分ごとに一軒。なんて場所もありますけど、地方だと疎らだそうですね」
「売れるところに出店するものだから仕方がないって奴ですネ」
ちなみにだが。
量については俺一人だけが明らかに多く、スズたちは普通のワンセットだけであるし、サイドメニューの内容にも差がある。
これについては男子高校生と女子高校生では食べる量が違うし、求めるものが違うからである。
「それでナル君。その盾、持ち歩くの?」
「ああ持ち歩く。持ち歩いて重さとか手触りとかを覚えたい。ルール的には問題ないんだよな?」
「イチが確認した限りでは問題ありません。銃刀法に触れるような代物ではありませんから」
さて、ある程度食べたところで、話題は俺が椅子に立てかけている大型盾へと向く。
今は背もたれ付きの椅子に座っているので立てかけている状態だが、普段は付属のベルトも利用して背負う形になるこれだが、俺としては今後寝る時以外は常に持ち歩いて、自分の一部であるかのように扱うつもりである。
「とても目立ちそうですネ」
「それはもう今更だろう。俺は今年の魔力量一位なわけだし」
「ですネ。じゃア、問題はないですネ」
マリーの言う通り、目立つことは間違いない。
が、目立つだけで実害があるわけではないので、問題はないだろう。
それよりもだ。
「……」
俺は手を紙ナプキンで拭った後に盾へ触れると、魔力を流し込む。
デバイスを使っていない状態で魔力を扱うのは非常に集中力が必要で、なおかつ効率も悪い事であるらしく、盾には殆ど魔力が染み込まない。
だが、それでも少しずつ盾に魔力が染み込んでいく感覚はあって、完全に魔力が染み渡れば、その時はきっと仮面体でも難なく扱えることになる。
そう言う予感がした。
「……」
「ふうン。なるほどでス」
「デバイスなしで……」
スズはそんな俺の事を笑顔で眺めていて、マリーは観察している感じ、イチは驚いている感じだろうか。
スズはいつも通りとして……やっぱりマリーとイチはスズと仲が良いからだけで、こちらと付き合ってくれているわけではないようだ。
まあ、どういう事情が裏にあるにせよ、俺とスズに迷惑をかけないのであれば、問いただす必要すらないだろう。
それよりもだ。
「スズ、イチ、マリー。今日は付き合ってくれてありがとうな。この後も俺は資料探しの為にショッピングモールを回り続ける予定なんだが、そこで何かプレゼントとか、奢りとかした方がいいか?」
今気にするべきはこれからについてだ。
「私は別にいいかな。ナル君と一緒にショッピングできるだけで嬉しいから」
「うーン。でハ、アイスクリームの一つでも奢ってもらいましょうカ。それくらいがちょうどいいでス」
「マリーに賛成で。何もないと言うのは、それはそれでアレでしょうし」
「分かった。じゃあ、適当なところで奢らせてもらうよ」
どういう事情があるにせよ、三人とも俺の為に時間を使ってくれた事実に変わりはない。
なので、その三人の為に俺も何かをした方が、健全な関係と言うものだろう。
で、ここでスズが一緒に居られるだけでと言いだすのはいつもの事なので、二人がそれに追従するのなら多少無理やりにでも押し切ろうと思ったのだけど……その心配は要らないらしい。
マリーとイチは素早く目を合わせた上で、無難なものを求めてくれた。
うん、確かに今の俺たちの関係性なら、それぐらいがちょうどいい事だろう。
「でハ、ショッピング後半戦へと参りましょウ!」
「ああ、分かった。準備をする」
「イチがごみを捨てて来ます。まとめてください」
「うん、分かった」
俺たちは店を後にすると、ショッピングモール巡りを再開する。
そうして向かう先は……ファッション関係のエリアだ。
「制服関係を売っているエリアを境界にして、男性向けと女性向けで分かれている感じだな」
ファッションエリアはショッピングモールの中でも特に店舗面積が広いエリアになっている。
売られているものは……正にありとあらゆるものと言う感じだろうか、上下一式どころか、頭のてっぺんから足のつま先まで、全身に装備するものが揃っている。
「ここもレンタルが主体なのか?」
「レンタルになるかは物次第です。大抵は購入する事になりますね」
「別に仮面体に関係なく必要で、使えるものがメインだからね。他の人が使ったものを使いたくないものもあるし」
「コスプレ衣装なんかはレンタル多めですヨ。あの辺の看護師服とカ、警官服とかがそうですネ」
なお、当たり前と言えば当たり前なのだが、学園の外ではまず売られていないようなものも並んでいる。
例えば、全身を覆うサイズのチェインメイルとか、西洋式甲冑一式とか、当世具足一式とか、この辺は流石にレンタルだけらしいし、俺の盾のような持ち帰りも無しのようだ。
「警官服とかはむしろ詳細に仮面体を作れたら拙いものなんじゃないか?」
「拙いものですヨ。なのデ、ここで売られているのハ、敢えて詳細が異なる警官服でス」
「どこが……ああなるほど」
「しかし、作っているのは本物なので、仮面体構築の助けにはなる。という事ですね」
「ふむふむ。なるほどな」
俺はマリーとイチに説明をされながら、色々と見ていく。
うーん、この手の衣装は俺の仮面体に合うのだろうか?
いや、合うのは確実だったな、俺だし。
問題は着ていられるかどうかと、再現する難易度と、着る意味の方だった。
「ん? スズは?」
「何か悩んでいるみたいですヨ」
「あれは……バッグでしょうか」
と、ここでスズの方を見てみれば、バッグ売り場で何かを悩んでいるようだった。
手に取っているのはボストンバッグの類で、チャックを開いて中身を見ては、戻している。
そして思い出したのは、スズの仮面体が何かバッグのようなものを持っていた事。
般若の面に気を取られがちだったが、思い返せば、中身不明のバッグをスズの仮面体は何故か持っているのだ。
それも他の生徒の仮面体が持つ武器のように。
「……。少し待つか」
「分かりましタ」
「そうですね。そうしましょうか」
もしかしなくても、今のスズは武器の品定めをしているような状態なのかもしれない。
となれば、迂闊に話しかけるのは、二重三重の意味で良くないだろう。
きっとその事にマリーたちも気づいたから、じっと待つことを選んでくれたに違いない。
「うん。これがいいかな。肩掛けの紐、持ち手の握り具合、底板に側面の補強、中の仕切り、どれも良い感じで、普段使いにも良さそうだし。あれ? ナル君たちどうしたの? 私の事を放っておいて、見に行ってくれていてよかったのに」
「イヤイヤ、スズを放っておくとかナイカラナー」
「ソウデスヨー、ナルの言う通りデスヨー」
「ドーイー。同意デスー」
「なんでマリーだけじゃなくてナル君とイチもカタコトなの?」
うん、やっぱり武器の品定めだったんじゃないかな?
そういう目で見ているからと言われてしまえばそれまでなのだけれど、こう、言葉の端々に何処となく不穏な気配がね。
「えーと、じゃあ、購入だな」
「そうだね。あ、そうだナル君。折角だから次は靴を見に行こう」
「靴?」
「そう、女性用の靴」
「?」
スズが買い物用のカートにボストンバッグを置く。
そして、俺たちはそのまま女性用の靴のエリアに連れていかれた。




