18:マスカレイド授業二日目
「ナル君今日はよろしくね」
「ああ、よろしく頼む。ありがとうな、スズ」
「……」
翌日のマスカレイドの授業時間。
教室には普通にスズの姿があった。
昨日、別れてから何があったのかは知らないが、樽井先生の態度からして、どうやら学園側からの許可はちゃんと得たらしい。
ならば、俺からは感謝の言葉以外は控えるべきだろう。
「えへへ。ありがとうだなんて……それは上手くいってから言うべき言葉だよ。ナル君」
「それはそうかもだが、こう言う事は思った時に言うべきものでもあるだろう?」
「……」
「そうかな? そうかも。うん、ナル君に期待されたなら、私も頑張らないといけないね」
「そうだな。俺も出来る限りの事は頑張らせてもらう」
「……。私が胸焼けしそうなんで、そろそろ始めさせてもらいますね」
と、そんな事を考えつつスズと話していたら、樽井先生が話を切り上げて進め始めた。
なので、俺は話を聞く態勢を取り、スズも俺に倣うような形で姿勢を正す。
ちなみにだが、麻留田さんは本日は居ない。
スズも言っていたが、麻留田さんだって学生なのだから、自分の授業がある。
特別だったのは昨日の方なのだ。
「……。えー、では早速ですが。今日は水園君に補助をしてもらいつつ、翠川君の仮面体改良を進めます。と同時に、昨日は半端になっていた、翠川君の魔力の性質についても話をします。この話は出来れば水園さんを抜きにして進めたいところなのですが……」
「俺よりスズのが頭がいいんで、一緒に聞いてもらった方が都合がいいと思います」
「ナル君がそう言ってくれたなら、私も頭を回せるだけ回そうと思います」
「……。では終始一緒にという事で。私もそちらの方が楽でしょうし」
樽井先生が確認したのは今日の流れと、俺の個人情報……それも極めて重要な話を、スズに聞かせるかどうか。
まあ、俺としてはスズには聞いてもらった方がいい。
スズから情報が洩れるようなことは無いだろうし、俺とスズが決闘するようなことになるとも思えないしな。
「……。それでは改めて。翠川君はまずマスカレイドを発動。それから、私が用意したこちらの衣装を着用してください。水園君はその手伝いをお願いします」
「はい」
「分かりました。マスカレイド発動」
俺はマスカレイドを発動し、裸の女性の仮面体になる。
それから、樽井先生からスズが受け取り、広げた衣装を見る。
それは……。
「ライダースーツって奴ですか? それも女性ものの」
バイクに乗る時などに着用するライダースーツと呼ばれる服だった。
それも胸元と四肢の先にはファスナーが付いていて、着脱がしやすいようになっているモデルだ。
「……。その通りです。これが昨日話した、仮面体に着せる最初の衣装になります」
「なるほど」
「さ。着ようか、ナル君。ううん……ナルちゃん」
「そうだな。よしっ」
俺はスズに手伝ってもらって、ライダースーツを着用する。
と言っても、両脚、両腕を通し、五つあるファスナーを閉じて、しっかりと固定するだけだ。
「なんか違和感があるな」
そうして着終えると……俺は直ぐに違和感を覚え始めた。
胸を多少押し潰しているので圧迫感がある感じや、両手首両足首が若干締まっているように感じるのは、急に準備されたものだからサイズが合っていないとか、そう言う話で済みそうだが、それ以外の違和感がある。
なんと言うか、やけにライダースーツの表面がゴワゴワしているように感じられるし、肌から放出されるべきものが放出されていないように感じるのだ。
「……。水園さん、後の説明は任せました。私は各種計測に移りますので」
「分かりました」
あ、樽井先生が説明関係は全部スズに投げた。
まあ、俺もスズに教えてもらった方が楽そうだから、別にいいか。
「さてナルちゃん。違和感があると言ったよね。具体的には?」
「生地の表面がやけにゴワゴワとしているのと、熱か何かが……いやこれ、たぶんだけど魔力か? とにかく、上手く発散できていない感じがする」
「なるほど。先生と私の予想通りだね。じゃあ、順番に説明するね」
とりあえず現状は予定通りのようだ。
では普通に話を聞こう。
「まずナルちゃんが今着ているライダースーツだけれど、それに使われている生地は、本来は自分の仮面体がどんな形をしているのかを正確に把握するためのものなの」
「正確に把握?」
「そう。人によっては仮面体の形が人間から大きく外れていて、元の体の認識のままだと上手く動かせない場合があるんだって。そこで、この生地を肌に接触させることで強制的に違和感を覚えさせ、自分の仮面体の形を自分自身に覚えさせてあげるの」
「ああなるほど」
俺が脳裏に思い浮かべたのは麻留田さんの仮面体だった。
アレは身長3メートルを超えるロボットとしか言いようがない仮面体だった。
アレを元の体の認識から、補助なしで動かせるようになれと言われたら、確かに厳しいものがあるかもしれない。
「しかし、それにしてはヤケに毛羽ったいと言うか、ゴワゴワしていると言うか、正直、着ていて気持ちが良くないぐらいなんだが……」
「うーん。この生地を使う対象には、肌の感覚が薄い仮面体も含まれているって話があるんだよね。そう言う仮面体に比べるとナルちゃんの仮面体は肌感覚が凄く鋭敏だから、それで気持ちが良くないのかも。あまりにも酷いようだったら、ファスナーは下ろしても大丈夫だと思うよ。計算上はそれでも大丈夫な風になっているはずだから」
「そうか? ならそうするか」
スズの勧めたとおりに俺は五か所のファスナーを降ろす。
うん、裸に比べると天と地ほどの差があるが、それでもだいぶ楽にはなった感じがするな。
と、ここで俺は視界の端の方で鏡を見つけたので、そちらをよく見てみる。
「うん。何も身に着けていない俺ほどではないが、美しいな」
ファスナーが開かれた事で覗く手首足首、乳房の一部。
完全に見えるようになった、へそと鎖骨。
しかして、見えてはいけない場所はきちんと隠れている状態。
ライダースーツの濃い色と肌のコントラスト。
これで少しポーズと角度を調整して、髪の毛もかけて……うん、大抵の相手は魅了できるであろうくらいには整って、まるで芸術品のような姿になったな。
ピピピ、パシャリ。
「うん、私も同意するよ。ナルちゃん!」
と、ここでシャッター音がした方を見てみれば、そこにはスマホのカメラを構えたスズの姿が。
流石はスズだな、こういう時に撮るのを躊躇わない。
「じゃ、それはそれ、これはこれという事で。話の筋を戻そうか」
「そうだな。えーと、このライダースーツがどういう物なのかは聞いたな」
「……。当たり前のように脱線して、当たり前のように復帰してきた……」
樽井先生が呆れているが、話を戻そう。
「それで、ここからどうするんだ?」
「その前に、そのライダースーツの機能のもう一つについてだね。そのライダースーツは、仮面体から魔力が放出されるのを阻害する作用があるの。具体的には一部は吸収して、一部は弾くみたい。弾きについてはナルちゃんも気づいていた通りだね」
「ああそうだな」
「それを利用すれば、肌の直ぐ上、ライダースーツとの間に、普通よりも密度が濃い自然放出された魔力の層が出来上がる事になるし、染み込んだ魔力でライダースーツの形の魔力の塊も出来上がる事になる。もしも、それらの魔力を固定化した上で、肌の色以外で色付けできれば?」
どうやらこのライダースーツ、魔力についてはむしろ蒸れるものであるらしい。
それはそれとして、スズの説明した通りに出来ればどうなるだろうか?
その場合、今身に着けているライダースーツそっくりの形をした魔力の層が出来上がる事になるだろう。
その状態を客観的に見るならば?
「服を着ているように見える?」
「大正解! 流石はナルちゃん!」
なるほど、こうして、俺の仮面体を裸ではない状態に変えるわけか。
実践を伴っているから、実に分かり易い。
いやそれよりもだ。
「もしかしなくても、この技術が上手くいけば、俺の仮面体は自由自在に衣装を着替えられるようになる?」
「自由自在かは分からないけれど、他の人の仮面体よりはよっぽど服装のバリエーションが増えることは確かだと思うよ」
「なるほどな。裸が一番ではあるけれど、他の服装もいい事は今さっき確認できたし、なんかやる気が出てきた気がする」
「ふふふ、その調子だよナルちゃん」
俺の仮面体に合う服を好きな時に好きなように着られると言うのは、結構なアドバンテージではないだろうか。
主に俺のやる気に関わると言う意味で。
「よし、ちょっと頑張って、魔力の固定化をしてみる」
「うん、そうだね。そうなんだけど……」
「だけど?」
なので俺は集中し始めるわけだが……まだ話があるらしい。
「その前にナルちゃんの魔力性質についての話が樽井先生からあるみたい」
「……。そうですね。大事な話なので、しっかりと聞いてください。服と肌の間で魔力が溜まるのに多少の時間も必要でしょうし」
どうやら此処からは樽井先生の話になるようだ。
俺は背筋を伸ばした。
07/08誤字訂正




