五十三話 チュートリアルに
zhivagoの銃口から放たれた光弾は【あかうさぎ】へ向かい、そして頭上を通過。後方のブッシュへと突き刺さった。
『げっ』
その結果に千鶴は思わず短く毒突く。あかうさぎの接近してを許してしまう。
今度は銃を鈍器のように振るい迎え撃とうとするが、あかうさぎが小さな体躯を活かし一瞬速く懐に飛び込むと、zhivagoの足に体当たりをした。
マジックガンナーの専用装備である銃はハンドガンに似た外見をしているが、銃身が長く分厚い。射撃以外にもこうして鈍器のように扱い直接殴るのにも使える。
近接攻撃のモーションは、二刀流ではないので攻撃回数は劣るがNINJAが主に扱う短剣に近いアクロバティックなもの。
けれども足元に弱い面がありあかうさぎのような背の低い相手を苦手としていた。決して殴れないわけではないが攻撃のバリエーションに乏しいのだ。近接攻撃が専門の前衛クラスに比べ多少劣るのは仕方がないのだが。
銃をがむしゃらに振り回す。当る事は当るが小さな身体に上手く連撃が繋げれず、そうこうしている内に反撃でダメージが地味にかさんでいっていた。
初心者の千鶴は接近されてからのステップなど咄嗟の回避行動はまだ練習中。したつもりが出来ていない事が頻発している。攻撃が思うようにいかない中、こう何度もダメージを食らっては焦り、余計に失敗していく。
そこでzhivagoは一旦背中を向けて大きく距離を取り体勢を整えようとする。あかうさぎも揺れる彼女のポニーテールをピョンピョン跳ねながら追う。愛らしいが憎らしい。
そうはさせじとあかうさぎに振り下ろされる薙刀の刃。それは薙刀巫女のキャロ、ではなく紅葉の操作するべる子のものだった。
狩り当初は杖を握っていたのだが、まだ魔法を二つしか覚えていない為にやる事が殆どない現状。予備に持っていた店売りの薙刀に持ち替えた。
ステータスはPOW(力)に全く振っていないので、同じく薙刀を振るう本家のキャロに比べ与ダメージは劣るが、フィールドがレベル1のPCが戦えるエリアなので十分通用している。
とはいえ別に紅葉は薙刀で積極的に暴れ回る気はない。
『サンキュ』
礼を言って魔弾を放つzhivago。今度は正確にあかうさぎをとらえた。
紅葉の目的は千鶴のサポート。元々回復の為に千鶴に付いて回っていたのを、サポートの形を変えただけだ。
吹き飛ぶあかうさぎにzhivagoは続けて魔弾を撃ちトドメを刺した。
(うーん、確かに連射が速い)
zhivagoの射撃を見た紅葉が画面の前で何度か頷く。
銃の特性の一つに、後衛クラスの使用する通常の射撃魔法に比べほんの僅かに短い射撃間隔がある。掲示板で事前に知ってはいたが目の当りにしてみて少しばかり羨ましく思えた。
また、そのうち対人戦で活躍しそうだとも。
恐らく、恐らくまだレベル50に到達しているマジックガンナーは居ない、筈だが、対モンスターでは勿論、対人戦でも地味ながらかなり有用な特性である事は間違いない。
あとは対人戦向きのスキルが幾つかあればマジックガンナーは流行るかも知れない、と紅葉は先の事に思いを馳せながらも、周囲にアクティブなモンスターが居ない事とzhivagoの状態を確認、武器を薙刀から杖に持ち替えた。そして魔法をチャージしながら駆け寄る。
接触型回復魔法、慈愛の掌。
べる子がzhivagoに触れると淡い光に包まれた。
クレリックも巫女も回復魔法の初歩の初歩は接触しないといけない。不便な為いずれ使われなくなるがこの頃は頼りになる。
少ない回復量は杖に持ち替える事でブースト。べる子は半分を割り込んでいたHPが八割程度まで回復したのを見てまた杖から薙刀に持ち替えた。
また直ぐにクエスト対象である次のあかうさぎを探し始めるが、千鶴がそこでストップをかけた。
『MP切れた。からちょい座る』
『あ、うんわかった』
紅葉に告げて、文字通り地べたにzhivagoを座らせる千鶴。座れば自然回復のペースが速くなるからだ。べる子も隣りに座った。
『無駄弾撃ち過ぎなんだよな。MPが足らない』
マジックガンナーの射撃はたとえスキルを使わなくとも一発毎にMPを1消費する。
低レベルのzhivagoのMPは最大でもまだ40に届かない。その為無駄撃ちすると直ぐに底をつく。
『仕方ないと思うよ。ウサギは当たり判定小さいし』
『そうそう。初めから外さなかったら私たちの立つ瀬がないし』
紅葉がフォローすると、裏でいろはとお喋りをしていた楓も同調した。
楓といろはの二人は、四人掛かりだとイージー過ぎて詰まらないだろうからと、zhivagoたちとは離れた場所で狩って回っているのでこの場には居ない。
『この時間がなー。MPポーション高いし』
『うん、高いよね』
ハマりの兆候と言えるのだろうか、待ち時間に愚痴る千鶴に紅葉も同意する。
MPを回復させる魔法薬はどの町にも売ってはいるが一番安い物でも300s。現在請けているクエスト一回分の報酬が、他にもアイテムを貰えるとはいえたったの200s。モンスターからのドロップを売却した分を足せば購入は出来るが、それだと何も残らない。
ある程度成長したプレイヤーにとってははした金だが、装備欄が空白だらけの初心者にはちょっと手が出ない値段だ。
『幸い、銃に思った程金が掛からんが』
『特殊だよねー』
zhivagoの銃は自動拳銃に似たフォルムをしているが、レンコン状のシリンダーもあり、そこに弾を込める設定になっている。しかし撃っても弾ではなくMPが消費される仕様で、ギャラリーモードで拡大しないと分からないが銃口がない。
ではなんの為に弾が存在するのかというと、射撃の属性を変更したり威力を増したりと、あくまで補助の役割。
蛇足だが撃鉄がスイッチになっていて、押すとシリンダーが回転し弾を変更する構造だ。
この様に弾は消耗しない仕様なので撃つ度お金が掛かったりはしない。
『ま、MPに関しては自然回復を有効活用しなさいって事だよ、たぶん。最大MP少ないし回復もそう時間掛からないからね』
『チュートリアルみたいなもんか。それもそうだな』
いろはに同意してが立ち上がる千鶴に紅葉はおや? と思った。
最大値が小さいとはいえMENの値も低いので回復速度も遅い。幾らなんでも早過ぎる。
『? もう?』
べる子の頭に? を浮かべながらも釣られて立ち上がり疑問を口にした。
『ん、ああ、あと二羽でクエスト完了なんだよ』
『なるほどー』
頷き、杖に持ち替え二人に補助魔法を掛ける。
起点指定型補助魔法、おまじない。
HPの自然回復量を上げる補助魔法だ。上昇する値は極少量で使わないよりマシなレベルだが、zhivagoとは違いべる子のMPは今のところ使いどころが少なく余っている。余らすよりは良い。
『……、無駄弾が少なきゃな』
『えっ』
補助魔法を掛け終えたべる子に千鶴はぼそりと呟き、近くのあかうさぎに照準を合せた。紅葉は驚きながらもサポート出来るよう薙刀に持ち替え直すのだった。
尚、結果は近接攻撃の練習になったとだけ。
◇
『ギリ上がったか』
クエストの報酬を受け取り、報酬の一部である幾らかの経験値を得たzhivago。ふくよかな女性NPCの前でレベルアップのエフェクトに包まれた。
『おめでとー』
『おめー。ギリ?』
『おめでとう』
『サンキュ』
三人はマイク越しに祝福の言葉を伝え、いろはは千鶴の言葉で疑問を感じたフレーズをそのまま口にした。
『次のレベルまでの経験値が2%だ』
『あー、そう言う事か。今レベル4になったんだっけ?』
『ああ。これ次までいきなり遠くなったな』
レベルがまだ2だった時はクエストを一周すれば、モンスターから獲得する経験値を合わせレベルが上がった。
しかしレベルが3になってからは次のレベルアップに必要な経験値が飛躍的に上昇し、ペースは随分と落ちている。
九十五%を超えた状態でクエスト報酬を貰ってレベルアップし、余剰分での%の上がりの少なさに千鶴は少々驚いているのだ。
多くのネットゲームがそうであるように【魔法少女おんらいん】も、レベルが上がる毎に必要経験値は加速度的に上昇していく。一部のゲームにあるような次のレベルまでに数ヶ月というような事は流石にないが。
千鶴がゲームを始めてから、結構な時間を雑談に費やしているとはいえ約二時間が経過した。ここまで順調だったzhivagoのレベル上げにもその影が差す。
『一応サイトで次のクエストの内容調べてはいるんだけど、4だと経験者で丁度良いみたいなんだよねえ……、多分6もあれば問題ないんだけど。んー、隣りに移動してみる? いろはと一つ隣りのエリア試してみたけど、そこならレベル4でもスペック的には問題ないよ』
初期はレベル一つの違いが大きく現れる。レベル72でクリア出来るクエストがレベル70だと全く手が出ないなんて事はそうそうないが、レベル6推奨のクエストの場合、レベル4だとその可能性は十分にあるのだ。
千鶴にあれこれ指示を出していないが、サポートする為に楓といろはも事前に攻略サイト【魔法少女おんらいんの秘密】で、マジックガンナーの初期の情報をある程度仕入れている。
投稿されていたコメントから危なそうだと判断し、代案を出した。
『うん、4あれば行けるね。経験値とお金も今のクエストにこだわるより実入りは良いはず』
『……、そうだな。試してみる』
先程キャロと歌留多で覗いて見た隣りのエリアは、レベルが共に4の二人は問題なく、いろはは与ダメージからも適正レベルだと判断した。
『うん。それじゃあ行こっか?』
『あ、ちょい待った』
早速町を出ようとするキャロたちを千鶴が呼び止める。
『まだステータス振ってない』
『あ、オッケー』
理由に納得。いろはが返事をする。
『……………………、OK』
『千鶴さん、どれに振ってるの?』
十秒足らずで振り終えた千鶴に、紅葉は好奇心から尋ねた。
『INT。DEXは今のところ問題ないしな。MPも欲しいけど、楓たちの話を聞く限りあんまりMEN伸ばしたら後々後悔しそうだし、必要に迫られるまで振らない予定』
『そっか』
レベルが一つ上昇する度に2ポイントをPOW・VIT・INT・MEN・DEXの五つのステータスに振れる。
楓たちはこの件に関しても細かく口出しする気はないが、意図せずクラス毎に必要のないステータスに振って笑えないネタキャラにならないよう、ステータスの説明と振り方の例は一通り伝えていた。
マジックガンナーの射撃の威力はINT依存でMENを上げても一切上昇しない。その辺りは後衛クラスの多くの射撃魔法と変わらない。
魔法中心なら本来DEXは必要なさそうだが、銃には通常の魔法にはないクリティカルの概念がある。
クリティカルがあるという事は、与ダメージが減ってしまうかすりヒットもあるという事でもある。なので他の後衛クラスとは異なりDEXも幾らか必要なのだ。
ダメージ計算も攻撃属性はランスと同じ【刺突】でありながらAC(防御力)ではなくMC(魔法防御力)で算出される。
マジックガンナーは一見後衛クラスのようで近接格闘もそこそこ可能だったりと、前衛クラスの要素もある変わったクラスだった。
また、銃にもATK(武器の攻撃力)が設定されているが、これは杖のATKが魔法攻撃力に影響がないのと同様に、打撃時に適応されるだけで射撃の与ダメージには影響しない。
これらの要素から千鶴は一先ずINTに特化させ伸ばしている。まだ三回目ではあるが。
三人はポータルに入り【アナン平野 1】に出るとそのまま東に進み次のポータルに入った。
そして新たなエリア【アナン平野 2】に足を踏み入れたのだった。
◇
頭に斧のような角の生えたグレイウルフの亜種【アックスウルフ】が飛び掛かって来る。それをzhivagoは銃を盾にして受けた。
体当たりを防がれてしまったアックスウルフだが続けて仕掛ける。首を振り上げると、頭部の斧を本来の使い方通り勢いよく叩き付けようとする。
しかしモーションが大きく、zhivagoは悠々とバックステップで後方に飛び退く事に成功。斧は何もない空間を揺らした。
上手く躱したzhivagoは、大技を振るった影響で硬直するアックスウルフの隙を見逃さず銃をあたかも警棒みたいに振るう。銃身を叩き付け、アックスウルフの頭を三度揺らし、そこから射撃に繋いでダウンを奪った。
一対一の状況下とはいえ手堅くガードと回避行動、更に上手く繋いだ四連撃。
基本ではあるがこれから多用するであろう連撃だ。まだぎこちなさはあるが始めて数時間の動きにしては十分と言えるだろう。
zhivagoは起き上がったアックスウルフに光弾を撃つと、今度は接近される前にトドメを刺した。
『だいぶ慣れたね』
アックスウルフが消滅するのを見送って紅葉が声を掛ける。その声に反応して千鶴はzhivagoを振り返らせ――。
『ああ――』
一瞬声を詰まらせた。が、気を取り直し続ける。
『――、それが紅葉がいつも使ってるやつか。……、ネクロマンサー、だったよな』
『うん、スクルトって言うの。よろしくね』
紅葉は先程までの健康的な小麦色の肌の巫女少女べる子から、青白い肌の外套にボンテージ姿の少女スクルトに変わっていた。
あれからお喋りをしながら時々休憩を挟み狩りを続けていた四人。
休憩の際にフレンド登録をしたのだが、ログインする確率はファーストの方が高い。特に紅葉の場合はそうだ。
なので千鶴以外の三人は一旦ログアウトしてファーストPCを連れて来る事にしたのだ。
周囲にはキャロルもかるたも居ない。スクルトが一番乗りである。
『……、アンデッド操るんだよな』
マジックガンナーの多い狩場だが、紅葉たちのように遊びに来ている他クラスのPCも居て、千鶴もこれまでに二、三他のネクロマンサーを見掛けている。
しかし皆人気のゴシックロリィタ風だったりローブにつばの広い三角帽子という、いかにも魔女な格好だったので、スクルトの少々奇抜なコスチュームに動揺していた。
けれど紅葉があまりに平然としているので、敢えて触れずに違う話題を振ってみた。
『うん。召喚してみるね』
それを紅葉はリクエストされていると勘違い。千鶴が何か言う前に慣れた手つきでショートカットキーを叩く。
紅葉の楽しげな声とは裏腹に、なにかぼそぼそと呟きながら杖を振るうスクルト。ギャップが凄い。いや酷い。
地面に描かれる複雑怪奇な紋様。怪しい紫色の光と黒い煙が発生する。
軽く二メートルを超える堂々たる体躯の、全身ツギハギだらけのトロール顔の巨人。右腕は二本、左腕は地面に引き摺る程長く丸太のように太い、アシンメトリーの姿が魔法陣から現れた。
命令を受けていないマチュピチュは微動だにせず、死者らしい濁った瞳で正面に立つzhivagoを見詰めている。
『…………』
妙にインパクトのある姿につい黙ってしまう千鶴。けれど、どうも紅葉からはコメントを待っている雰囲気が漂っている。
『……………………、デカいな』
なんと言っていいか、言葉が出て来なかったが、無理矢理絞り出した。
『うん。私は特に左腕がお気に入りなんだ。このアンバランスさが良いよね』
『……、そうか』
デカいって、言ってからそれどうなんだと思い、微かにスピーカーから漏れ聞こえる友人らの忍び笑いに、千鶴は心の中でフォローを求める。
それでも紅葉の弾んだ声を聞いて、喜んでるみたいだからいいかと自分を納得させた。良いよねと言われて言葉を詰まらせていたが。
『お待たせー』
『ただー』
スクルトにやや遅れてキャロルとかるたも到着した。
『おかー』
『……、おかえり』
千鶴は登場のタイミングの良さに、機会を窺っていたんじゃないかと疑いながらも迎え、二人の格好を観察する。
『……、二人はなんて言っていいか。魔法少女……、なんだろうな。少なくとも魔法使いじゃあない。特に楓は』
『あはは、まあねー』
これまたなんと言っていいか、千鶴がマチュピチュとはまた別の意味で言葉に詰まらせた。悩みながらも率直な感想を言うと楓は軽い調子で同意してその場でくるりと回って見せる。
キャロルは全身白と水色を纏っていた。
頭には変身前同様大きな水色のリボンの付いたヘアバンド。ボブカットだった白髪は腰まで伸び、内側に緩いウェーブが掛かっている。
衣装も水色のドレスだ。短いスカートからは白のパニエが覗き、スカートを膨らませおり、その他細部まで多数のフリル等で可愛らしく飾られている。
脚には金属製の水色のロングブーツ。太股や足首には銀で縁取られた五センチ程度の丸いレンズからは青白い光が輝き、太股までのサイハイソックスを穿いている。
腕には白い肘まである指ぬきのロンググローブ。肘や手の甲にはロングブーツと同様に水色の金属製のプロテクターが装着され、その中央にはやはり縁取られたレンズが。
そして背中には白色の、デフォルメされた二十センチ程度の可愛らしい翼が浮いていた。
ドレスだけならいわゆる甘ロリと呼ばれるファッションに近いが、メタリックなブーツとプロテクターが異彩を放っている。
また白く細い杖は、長さが百三十センチ近くあり少女の身長とそう変わらない。先端に現実で玩具屋に売ってそうな羽の飾りが付いたデザインだ。
その姿は千鶴の言う通り、一般的なイメージの魔法使いとは言い辛い。
『いろはもよく分からんな』
『そお? 私的にはベタなんだけどなー』
いろはも笑って、キャロルに倣いかるたをその場で一周してからお辞儀させた。
かるたのコスチュームは一言で言うとメイド服だ。
ただ、メイド服と言われて一般的にイメージされやすいものとは少々違っていて、頭にはフリルの付いたカチューシャ――、ホワイトブリムではなく、モブキャップと呼ばれる頭をすっぽりと覆うタイプのもの。
メイド服も黒のロングドレスにエプロンと、フリルは付いているが控え目で全体的に派手さはない。
ヴィクトリアンメイドと呼ばれるものが近い。細部はいろはの好みで弄られているので亜種ではあるが。
『それにいろはガーリー系が好きだろ? メイド服ならべる子とかキャロルみたいにミニにするかと思った』
千鶴にはかるたにしては大人しいデザインが、私服や小物も女の子らしいファッションを好むいろはらしくないように思えた。
『違うよちーたん!』
『誰がちーたんだ』
即座に妙なあだ名で否定するいろはに突っ込む千鶴。がスルー。
『確かにミニも可愛い。若さの象徴たる生脚。なるほど、大変結構。でもそこを敢えてだよ。敢えてなんだよ! この時代を感じさせる清楚な――』
熱く語り出すいろはに千鶴は力なく相槌を打ち、紅葉と楓は苦笑い混じりにそんな二人を見守る。
いろはの熱弁はしばらくの間続くのであった。




