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NPCがわたしを"推す"! VRMMO (あれ? 推してるのわたし!?)  作者: 麻莉
シーズン1 最終章 時の分岐点:上
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湯気とマジュウの卵

 恐棺の洋館、一階の左側にはキッチンが存在している。アクイローネとクイーンさんを交えた乱獲大会。


 で、私はキッチンにあった食器類を【鑑定】スキルで確認したのち、回収して換金用アイテムとして運用してきた。


 システム的なのか、私たちが洋館から出た事で再び配置されたんだろう。根こそぎ奪ったはずの食器がテーブルに置かれ、私の前にピカピカに磨かれたナイフやフォークがあるからだ。



「「おまたせしました。チョコレートケーキです!!」」


 青瞳のメイドと赤瞳のメイドがタワーケーキを持ってきた。

 テーブルに置かれたケーキはわずかな振動では微動だにしない面構えをしていた。


 しかし、ゲーム内でもケーキを食べるなんて......胸焼けも実装されていないよね。





 瓜二つのメイドは主の後ろへ移動した。自分のもとへ戻ってきた双子のメイドの顎をくすぐる主さん。

 メイドは嫌がる素振りは一切なく、むしろもっとやってくださいを全面に押し出していた。


 自分たちの行為を見ていた私に、手招きをし始める主さん。


「そんな物欲しそうな目をして、どれ妾がやってやろうぞ!!」


「いえ、結構」


 キッパリ断れるようになるとは......私も成長したって事か。


「なんじゃ、つれないな〜」


「相手がアイリス以外なら考えてもいいかな」


 美女が笑うと周囲も幸福感に溢れるらしい。私もテーブルの上座にいるのが絶世の美女なら”つられ”てもいいかもしれない。だが......



「私の憧れ返して......」


 絶世の美女=アイリスなんて、情熱が冷めた気分。



 ケーキを一口食べ、フォークを私に向けるアイリス。


「相変わらず、ユミナは遠慮がないな。妾を知る者に、ユミナと同じ態度を取る者はいないのに」



 今のアイリスは幼い見た目ではなく、20代後半の見た目。本来の姿が今の成長した姿。

 ヴァルゴが自然と会話していたのは20代バージョンと昔、会っていたからなのだろう。



 私が今まで会っていた姿は魔法で姿を変更していた見た目らしい。

 大人から子ども。逆の容姿もアイリスの気分で変えているとか。


 星霊の形態変更モデリングみたいなモノかと、無理やり納得した。


 納得したのはヴァルゴからの、衝撃の真実をカミングアウトされた後......


 メイド服が乱れ、はだけた状態のラグーンとベイがアイリスの後ろから出てきたから。何も考えない事にしてその場をやり過ごした。



(い、息が荒かった......いや、何も考えないようにしよう。これがきっと最善の答え......)





「まあ、置いといて......きた目的は?」


「単刀直入に聞くけど、変なモンスターみた?」


 私の問いにアリエス、ラグーンもベイは首を傾げた。


「実はね......」







 私の説明が終わり、腕を組むアイリス。


「なるほどのぉ〜 生憎妾は見た事はない。お前たちは?」


「申し訳ありません、私もアイリス様と同じです」


 謝罪したのは双子座のラグーン。本来の名前ではない、アイリスが付けた別称。


「わたし〜もしりません〜」


 気だるそうに謝罪したのは同じく双子座のベイ。こちらもアイリスが付けた別称。


(てか、愛し合っているんだから......真名を教えればいいのに......意外にもピュア?)


「事情はわかった。妾たちも捜索しよう。お邪魔虫がいてはオチオチ寝れんし」


「では、私たちも準備します」


「私は〜 お風呂の卵、出してくるね〜」





 戦力が増える事は嬉しい。戦闘前に確かめたい事案が発生した。今、ベイがおかしな事を言った気がした......


「ねぇ、アイリス。温泉卵なんて作っていたの?」


「オンセンタマゴ? いや、そんなモノを命令した覚えはないが......ベイ!!」


「は〜い、どうかしましたか。アイリス様〜」


「卵ってなんじゃ??」


「あれ〜 脱衣所に大きな卵が置いてあったから〜 昔、時空を旅していた時に教えてもらった卵料理をアイリス様〜に食べてもらおうと思ってお風呂に浸らせてました〜」


 私はみんなの顔を見た。あっ! みんな同じ表情。私たちの目的のブツはそれだ、の顔だった。


「あの〜 ベイ。お風呂に案内して欲しいんだけど......」


 こうして私たちは恐棺の洋館のお風呂場へ進む事にした。







 ◇



「綺麗だね......」


 お風呂場へ向かう私たちは洋館内が綺麗になっていた事に関心していた。

 乱獲大会をやっていた時は汚い、ボロい、陰湿の三拍子だった。なのに今や180度がらりと雰囲気が変わっていた。立派な洋館に変貌していてかつての恐棺の洋館の風景が遠い過去へいっていた。


「妾たちが上に上がると綺麗にする術式を組み込んでいる」


「ここにも被害者が......いや、被害城?」


「妾たちがいる間はモンスターは出現しない」


「はぁ〜 私の金づるたちが......」


「そうだ、ユミナよ」


「うん、何?」


「ユミナの用事が終わったら、妾の用事を手伝って欲しいのだが」


「『用事』? いいけど......」


 笑顔だった。もう満面の笑みが私を見ていた。くっ、アイリスにときめくなんて一生の不覚。

 にしても、怪しい。ゲーム的には新たなクエストのフラグだけど、NPC視点では計画通りの表情をしていた。


 一抹の不安を抱えながら、私たちは恐棺の洋館のお風呂場へ到着した。


「で、ここに卵が......」


 開けると大きな浴槽が目にとまる。十人入っても問題ない広さのバスタブ。湯気が充満している浴槽内の中央に浮かんでいたのは......黒卵だった。



 30センチある大きな卵がドンと構えている。なかなかにシュールな雰囲気。



 回収しようと足を進めた瞬間。


 風呂場の入り口は黒いモヤに包まれた。触るが強固な壁に当たっているのか先に伸ばせない。

 外にいるヴァルゴたちの声も聞こえないのは確認済み。


「私、一人か......」


 浴槽に浮かんでいる大きな卵がケンバーの提示した《指名魔獣リスト》の魔獣で間違いない。



 足を進めると————卵の表面に亀裂が生じる。

 亀裂はやがて卵全体に走り、殻が破れた。



 浴槽には殻だけが残り、中にいたであろうモノはいなかった。






 天井に逆さま状態で張り付いている物体が一つ。

 人型のコウモリだった。巨大な翼を体に巻き、鋭い眼で私を見下ろしていた。


 天井に張り付いていた黒い生命体は、下へ堕ちていく。

 着地し、口を限界まで開き、甲高い鳴き声を発する。



「キッキシャーイイィィィィィィ!!」



 蝙蝠の魔獣、《ウェントゥス・アクロバテース・ウェスペルティリオー》は二メートルを軽く超える身長を有し、薄い飛膜を広げる。

 翼から生えている爪は人なんて一瞬にして切り刻む鋭さがある。開いている口から飛び出している牙は血に飢えていた。



 鳴き声は戦闘開始の合図だろう。


 床を蹴り、翼を腕のように一直線に大きく振る。モーションからして横からの攻撃。星刻の錫杖(アストロ・ワンド)で受け止め、衝撃音が響く。加速された腕翼に分があり、壁に吹っ飛ばされた。


星なる領域(スターリースカイ)Lv.5】が戦闘開始時、強制発動していた。おかげで背中に強烈な痛みが発生しているがダメージはない。


 薄気味悪い笑み魔獣は黒き鎧を身に纏い、滑空し獲物である私に襲いかかる。


「きなさい!!」






双子の息が荒かったけど......ナニもしていませんよ〜


ふん!! カテゴリー8か、面白い!!


ソドールではまだ、出していなかったな〜 コウモリ型

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