義姉妹、恋人デート その2
後編でーす
白陽姫ちゃんがお手洗い行っている間、私はショップ付近で待っていた。
携帯端末をいじっていると私の方に向かってくる影が迫ってきた。
顔を上げると私より少し年上の二人組の男性が声をかけてきた。
「ねぇー、ねぇー 君、暇?」
二人とも髪を染めていたり、ピアスをしていたりと派手な服装だった。
これって、俗に言うナンパね? 私、初めてされた......。
「ごめんなさい。人を待っているので......」
「まぁまぁ、言わずにさ~ 一緒に遊ぼうよ!!」
中々、強引な人達らしく、腕を掴んできそうになった。みんなから護身術を学んでいる。VRで身に付けた技術が現実で披露できるのか不安だけど、背に腹はかえられない。
あれ? 動かない......腕が震えてる?
蘇る記憶。オニキス・オンラインで私が引き起こした”例の事件”。自分が何をしたのか。
恐怖が募る。私がここでこの人たちに何かをすれば......また............
男の腕を掴む手が見えた。
「ごめんなさいね!! 彼女は私の連れなの」
そこに居たのは白陽姫ちゃんだった。
白陽姫は男の腕を掴みつつ、足を引っかけて転ばせた。間髪いれず、倒れた男の顔面に鋭い蹴りをした。
「まだ、やりますか??」
ニコニコしながら男に質問した白陽姫の背中が少し危険なオーラが出ているみたいだった。
「すみませんでしたぁぁぁ」
「ごめんなさいぃぃぃぃ」
男達は震えながら退散していった。
「怪我はない?」
頷いた。安堵の顔を出す白陽姫。
「ここは人目につく。移動しよう......」
二人が居なくなったエリアは少し騒然としていた。群衆に紛れ、走り去る女性二人を見守る一つの影。
『まったく、こっちの私は危なっかしいわ』
外のベンチに座る。
白陽姫ちゃんが買ってきた水を受け取る。
「ありがとう......」
「本当に何もない?」
「私......ね。もしかしたら......動けたと......思う」
辿々しく言った。
白陽姫は黙ってせつなの話を聞いた。
「でも......私」
両手を見つめ、顔を隠した。苦しい......吐きそう
「また、誰かを殺すかもしれない」
私の頭を白陽姫ちゃんが優しく撫で始めた。
「あれはせつなのせいじゃない。身体を乗っ取られていたんだろ」
「でも......私がした事に変わりない」
「少し辛辣な言葉を言う。良い?」
「......うん」
冷や汗をかく。
「ゲームはゲーム。現実は現実。混同するのはやめろ」
「......白陽姫ちゃん」
「あの時、せつなは必要だったからキルした。もしも、しんどいなら暫くゲームにログインするのは辞めることを勧める。ゲームはキツい時にやるものじゃない......楽しむもの!」
私の手を握る白陽姫ちゃん。あ、温かい!
勢いよく引っ張られた。歩き出す白陽姫ちゃん。駅とは真逆の道。
「何処に行くの?」
「せつなと見たい”木”があるんだ」
「えっ!? ”木”」
歩く事5分。広々とした森林公園にたどり着いた。黙って着いて行き、白陽姫ちゃんの足が止まる。
「あれを見せたくてね」
「で、デカい......!」
一本だけ聳え立つ巨大な大樹。周りは草原なので、一際目立つ。
「一度だけ見にきたことがあるんだ」
「一人で?」
「お母さんと......まだ両親が亡くなったのを受け入れられない時に」
言葉が出なかった。
「この大樹は、ここまで成長するのに時間が掛かる」
「そうだね......結構な年月が必要」
「他にも色んな要素が苦悩や試練などが経験となって、大樹という成功を成し遂げる。せつな、少しずつ歩めば良い。多少寄り道をしても良い。乗り越えなさい」
「......白陽姫ちゃん」
涙が頬を伝う。抱きしめられた。
「私は待ってるよ。また、せつなが楽しんでゲーム内を闊歩する姿を」
『クシュッ!』
女性のくしゃみ。私たちは驚いた。大樹の裏から出てきた女性。私たちの方へ歩いてきた。
「えっ!?」
何故、こんな思いをしたのか今でも分からない。スーツ姿の女性は白陽姫ちゃんを彷彿とさせる見た目だった。完全に同じという訳ではない。でも、白陽姫ちゃんが大人になったら、こんな美人になるだろうと思わせる感じだった。
お互い微妙な空気。会釈して通過する美人さん。
「あ、あの!」
私は無意識に口を開いていた。
足取りを止める美人さん。
「何処かで、お会いしましたか?」
振り向き、私を見て微笑む美人さん。
「ふふ、素敵な彼女さんが居るのにナンパですか」
身体が震えた。恥ずかしさから出るものだった。
「あっ!? そういう意味で言った訳じゃなくて」
「冗談よ。貴女の質問の答えか......生憎、貴女に出会ったのは今日が初めてよ」
「そ、そうですか......」
「デートの邪魔してゴメンね!」
手を降り、去っていく美人さん。
「......綺麗な人だったな」
ボソリと言った。はっ!? し、しまった......っ!
「せつな」
作り笑顔。終わった......
「今から帰るが、覚悟しておきなさい」
「............はい」
今日の夜は、体力がゼロになるのは避けられないんですね。
◆◆◆
せつなと白陽姫が出会った女性は歩いていた。ポケットが震える。彼女の携帯端末が鳴っていた。
電話だった。
「もしも〜し♪」
『なんか、嬉しそうね』
「そういう白陽姫ちゃんは怒りに満ちた声なんだけど」
『ちょっと、ナンパ野郎二人を締め終えた所』
『白陽姫様。我々はコレで』
『あとはお願い。二人の処分は任せました』
『了解しました!!!!!!!』
電話の向こうで大声で叫ぶ大勢の男性の声が聞こえる。
「白陽姫ちゃんが青奈ちゃんと黄ちゃんの生みの親なの、今理解した。男死すべしってね!」
『青奈よりは、優しいけど。それとお生憎様、黄華みたいに腕っぷしには自信はありません』
「で、何でナンパを撃退?」
『この世界の私がナンパを撃退してね』
「どの世界でも白陽姫ちゃんは怖いね......」
『大丈夫だろうけど、私は31人を守ると決めてるわ。報復されないように部下を使いました』
「アハハ......ナンパさんたち、ご愁傷様」
悪魔が弱肉強食の世界の住人。屈強な筋肉男達が部下にいる。アイツら、筋肉で詰まっている身体の癖に、頭脳はインテリなんだよね〜
どうせ直属の部下。筋肉モリモリな上に黒サングラス、黒スーツ姿で、ナンパ数名を取り囲んだでしょうね。うわぁ〜 想像しただけで気分悪くなる地獄絵図。
『うん? そういう灯は何処に居るのよ?』
「えっ!? 青奈ちゃんと黄ちゃんの墓参り」
『......ごめんなさい』
「初手謝罪はやめてよ!? 地球が変わっても、命日は今日だから。消える前に三人で見つけた大樹。お墓としてはもってこいだもん! 白陽姫ちゃん......今更だけど、先日はゴメン」
『私も灯を分かってあげれなかった。私の方こそ、ゴメン』
「そうだ! この世界の白陽姫ちゃんと......弓永せつなに会ったよ、たった今」
『はぁ!?』
「良い雰囲気だったよ。着実に恋人道を歩んでるって感じ〜」
『何よ、恋人道って』
灯はソドールマガジンを2本取り出す。”55”と”56”の番号のストレージ。
「今、幸せってこと」
『............そっか』
「白陽姫ちゃん自身は、この世界の白陽姫ちゃんに会えない。会ったら、この世界に巌瀬白陽姫が二人存在する事になる。タイムパラドックスに似た矛盾が生じる。最悪、地球が滅亡する」
『灯が会って無事なのは、元は私の人格だからだね』
「そう! ”天織灯”は作られた存在。あらゆる世界に存在しない人間......今は悪魔だったね。私は干渉を受けない」
『ま、最終的にクロが何とかしてくれるでしょうね』
「そうだね。クロの本来の力は全部、戻った訳だし」
駅が見えてきた。
「じゃあ、切るね。今日の食事当番、私だから、早く帰ってきなよ」
『わかったわ、楽しみ!』
次話、シーズン4 悪魔は嗤い、被造物は踊る 【3章:再起の女王】
『私が、王に成ったのは......ジョブだからじゃない。本当の動機は―――』
『お前の悪夢は、私に出会ったことよ!』
『行くよ、みんな!!』




