元聖女は、奇跡の子
本日2話目です
アリエスは周りを見る。その後、向かってくる【ユミナ】を見た。
「みんな......後はお願いします」
9人の星霊は目を見開いた。絶望的状況、身体は何もかも欠損している。この状況では諦めるのも無理はない。けど、アリエスは違う。まだ諦めていない目。同時にこれからアリエスが何をするのか9人は理解していた。
「よせっ!」
「や、やめろ......」
誰もが中止を説いた。だが、一切聞き入れないアリエス。
息を吸い、言葉と一緒に吐いた。
「【接触禁止】」
◇◆◇◆◇◆
少女は奇跡の子だった。生命復活を除けば、あらゆる奇跡を人々に与えた。戦争で失った身体、難病を治す。それだけに留まらず、飢餓が絶えない地域を復活。雨の降らない場所に雨を降らす。何百年も続いた戦争をも終結させた。生きとし生ける者に安年と平和を与えた。だが、奇跡は万能ではない。必ず返しがやってくる。
少女の身体に生まれながらに刻まれた呪い。他者に幸運を与える代わりに身体の呪いが少女を蝕んだ。呪いを払い除ける手段はない。少女は耐えるしかない。”奇跡”を使わなければ呪いは進行しない。でも、人々は少女を聖女として祭り上げた。誰かの救いとなるならこの身が朽ち果てようとも。
少女は”奇跡”を使い続けた。人間としての寿命が尽きかけていた時、神が降臨した。
神の手を取り、星霊として、再び少女の姿となり、第二の人生を歩んだ。が、呪いは星霊になっても解けなかった。神———リリス様の力で星霊でいる時だけ、【呪いの救護】の進行を抑える施術を施してくれた。99パーセント。リリス様の力を持ってしても完全なる除去は無理だった。
【呪いの救護】は星霊時は自分のみ、効果が発動する。己が受けた傷、欠損、病気などを完璧に完治する能力。
星霊が持つスキル、【接触禁止】。起動すれば、星霊になる前の種族と力を使える。星霊になったことで封印された己の力も復活させることができる代物。アリエスも例外なく、【接触禁止】を有している。リリス様が呪いの進行を遅らせたのは、あくまでアリエスが星霊である時だけ。人間時代の、奇跡の子として生きていた状態では【呪いの救護】の呪いの進行が加速する。
◆◇◆◇◆◇
衣服が再構成される。純白を超えた極光の如き修道服に頭を覆う頭巾状。背には様々な動物が、花が、陶器めいた石像として浮遊していた。
ゆっくりと手を出すアリエス。無から有。白い球体が姿を現す。
「うっ......」
苦しみ出すアリエス。奇跡を使った時も、星霊として何度も使っていた時は今は違う。完全に弱体化しているアリエス。進行していく呪い。
「ハァ......ハァハァ」
膨らむ球体。身体に刻まれる黒の刺青。呼吸が荒い。
「お前に......み、みんなを殺らせない。アタシの大切な......友を、愛した人をこれ以上、傷つけさせない」
星光の祝杖を掲げる。【ユミナ】を見るアリエスは笑っていた。
「【呪いの救護】!!」
球体は開花した。奇跡の花。花は変え、光の粒へ。花火のように散る。降り注ぐ癒しの雨。
触れた者は、何もかも元通りとなる。
全員の完治を見て、満足したような表情でアリエスは前へ倒れ伏せた。




