逃げられるとでも
星霜の女王専用スキル。【自我が消滅した静かなる殺戮者】には隠しパラメーター【感情値】により、威力の強弱が変動する。下限が0%、上限は100%となる。
【自我が消滅した静かなる殺戮者】を発動するには以下の手順が必要となる。
①:星刻の錫杖を装備者が立っている地を叩く。
その行為、祈り。持つ手の柄が使われることが多いが、どこの部分を叩いても発動には問題ない。地面だろうと床だろうと装備者が立っている場所なら何処でも適用される。地を叩く行為。
それは『神よ、貴方が創造した生き物を............これから多くの人に酷い事します』。と祈りに等しい所作。
②:殺害する対象者の名前が必要。
真っ先に殺す対象。今回を例にすると、個体名:ジャーク。NPCアイコンで名前が露出しているので簡単に名前が手に入る。
仮に殺害する人に星霊を選んでも対象外になる。理由は星霊の名前は正式な名称ではない。襲名された名だから。
各星霊の真名を発言すれば、星霊も【自我が消滅した静かなる殺戮者】の殺害対象になる。
③:30秒以内に他を言えば、次の殺害対象者になる。
他に恨みを持つ者が居れば殺しのターゲットになり得る。次に殺される殺害対象者に関してはちゃんとした名前はいらない。
今回を例にすると、『アニモシティに属する全員』という漠然とした言葉になっても適用される。発動者の半径5kmに存命の対象者を殺す。②で発言した個体名がスキル起動10分以内に殺されれば、残り時間で次が殺しのターゲットに変わる。
仮に、②で発言した個体名が10分生き延びれば、③で指定した対象者は殺しのリストから排除される。
④:スキル名を言う。
全ての手順は終わり、発動者の意識はなくなり、身体の主導権を奪われる。
星刻の錫杖は装備者の手から離れ、身体の意のままに能力を解放する。
【自我が消滅した静かなる殺戮者】発動中の【星刻の錫杖】は『特殊武装』扱いとなり、装備していなくても専用スキル・魔法が発動可能となる。両腕は別の武器を装備可能。
補足事項がある。③で次の殺害対象者も殺し、スキルの起動時間が残っていた場合、周りにいる全ての生命体(機械等も動いていたら適用可)を見境なく殺しまくる。
最下層エリアは戦火の渦中にあった。
着地するスコーピオンとキャンサー。
「は、はぁ......援護して」
白衣から注射器を2本取り出す。
「分かった」
七式戦術白刀とゴールドシザースをウラニアの指輪内へ収納。代わりに別の武器を装備。
右手に破断用モジュール:【CW-007】:ハイネ、真っ赤なチェーンソー。左手に破砕用モジュール:【CH-13A】:ミョルニル、焦茶色のチェーンアレイ。
婥約水月剣の刃をチェーンソーで防ぐ。
右腕に装着されたチェーンソーの鋸が回転する。回転に巻き込まれた婥約水月剣は持ち主の手から離れた。
攻撃の手を緩めない。背面に生えている色取り取りの伸びる腕。一本一本に属性魔法が付与されている。耐性がない者が触れるだけで大ダメージを受ける。
キャンサーはチェーンアレイを投げる。先端の鉄球は【ユミナ】の【パンドラ】に当たる事はなく宙へ。
だが、これはキャンサーの作戦。鉄球は円を描くように落ちる。鉄球とキャンサーの左手に装着されているガントレットを繋ぐ鎖。鎖も鉄球の動きに同調し、曲がる。ガントレットを操り、鎖を誘導。
【パンドラ】は一本に収束した。振り解くには時間を有した。
隙を待っていたスコーピオン。【ユミナ】の首に、心臓に注射器を一本ずつ刺す。
「っ......!?」
隙を待っていたのはスコーピオンだけではない。敵が近づくのは分かっていた。
至近距離からの星刻の錫杖。『輝を射抜け、真なる青よ』は無常に発射された。
「策は順調ですか?」
「一本だけ......」
『輝を射抜け、真なる青よ』の攻撃を回避していたスコーピオン。
「【エジプト】が二機大破したけど」
万物の蛇蝎星鞭に付属してあるムカデ型の武装名は【エジプト】。『輝を射抜け、真なる青よ』が発射されたと同時に【エジプト】がスコーピオンを助けた。結果、スコーピオンは生き残った。
「貴方が空間把握を怠ると思えませんでしたが」
「......原因はユミナちゃんの憤怒」
「怒りで周りに注意を向けれなかった、ですか」
「貴方こそ、オーバーヒートしてるんじゃない?」
「少々、熱っぽいですね」
スコーピオンは錠剤を、キャンサーは背後に冷凍庫:広範囲冷凍モジュール:【F-3-D-2】:フリーズドライを出した。
各々が状態異常:憤怒を解除していた。
「ありがとう、リブラ」
二人は振り返る。杖を構えて歩き出すのはリブラだった。後ろを浮くキューブ状の監獄は異様だった。
「脚力に自信がないので遅れました」
二人が状態異常を解除するのに時間的余裕があったのはリブラのおかげ。リブラは精霊魔法と捕縛術、空間魔法に長けていた。
全身拘束され、動けないユミナ。もがけばもがく程キツくなる魔法の縄。
「時間が過ぎるまで此方の【ヘルズ・ゲート】に収監しましょう」
「それが妥当ね」
「あの監獄なら、リブラが許可しない限り、誰も脱出不可能だし」
調停者の巫星杖を動かすリブラ。魔法の縄と一緒に監獄へ向かわれるユミナ。
下を見るユミナ。表情が変わる。
3人は恐怖する。不気味な笑み。
にぃ、と唇の端を上げていた【ユミナ】。
上から振動。天井が破れる。上から降ってきたのはユミナの使い魔たち。
稀代の女王に必要な魔術本以外の全ての厄災魔獣が降ってきた。【ユミナ】が魔術本に注ぐMP量によって使い魔のサイズも変化する。
降ってきた使い魔たちは床をぶち壊すには十分過ぎる質量を有していた。
使い魔たちも何か分からずにいた。主ではあるが主ではない何者かに強制召喚されたのだ。
このまま使い魔たちが落ちてきたら下層に巨大な穴が誕生する。穴から海水が侵入し、沈没する。アクエリアスを待っている余裕はない。
「『逮捕-鎖』」
「【エジプト】」
「凍らせ、フリーズドライ」
使い魔は捕縛され、落下を防がれ、冷凍保存された。
急ぎ【ユミナ】の行方を探す2人。遅かった。リブラの腹部に【ユミナ】の足が突き刺さっていた。
転輪の翠蹴と、拡張武装:不死領域によってリブラに肉薄。使い魔の床に着地させている最中に攻撃を受けていた。無事に使い魔たちは着地に成功したものの、リブラは壁へ吹っ飛び叩きつけられる。
調停者の巫星杖がリブラの手から離れた。【ユミナ】の身体を拘束していた縄は消え去った。
逃げ出そうとするユミナだが、足に違和感があった。
「舐めないでください」
【ユミナ】の足に魔法の縄が絡みついている。足一本ならどうって事ない。その認識したのか、不死領域を蒸す。上昇する。
浮きリブラの身体。踏みとどまるリブラ。
「返せぇええええ!!!!!!!!!!!!!」
身体の向きを変える。後ろに振りかぶり、勢いよく前方へ振り抜いた。釣竿のルアーと化した【ユミナ】は飛ばされる。そのまま各階層をぶった斬ったまま堕ちた。
フラフラで歩き出す3人。目的地はユミナが倒れていると予想される場所。
「スコーピオン、あの注射器は?」
「一本は強力で即効性の鎮静剤。まったく効果がなかったわ。だからもう一本を打った」
「なんですか?」
「今のユミナちゃんの戦闘データを得るためにナノマシン投与......ね」
「どうしてそのような行為を?」
拳を握るスコーピオン。
「私が......超える。あの人を」
「貴女があの人と呼ぶのは一人しかいません......プロフェッサーR」
「師匠を......リコさんを超えてみせるわ! リリス様が創造した【自我が消滅した静かなる殺戮者】を制御する方法を模索していた。リリス様は友人の師匠の行動を咎めなかった。だったら私たちが同じ行動を取っても処刑されない」
「無謀ですが......やる価値はありますね」
リブラの【ヘルズ・ゲート】
リブラは裁判官として主に活躍していた。【ヘルズ・ゲート】は刑が執行された囚人を収監する謂わば刑務所。収監された者は基本的にリブラの許可がない限り、永遠に出ることは出来ない。
囚人は凶悪な犯罪者が多く、中には訳あって匿われている英雄や偉人等、様々な種族が収容されている。
【ヘルズ・ゲート】の囚人の能力を使うことが出来る。




