ご褒美のキス!
未来予知があるのに、私の攻撃を回避行動ではなく、弾いた。自分が敵の攻撃を弾くと能力が発動できる。
1回弾いた分、数秒後の未来を先取り出来ると思う。で、これは仮説だけど、敵の攻撃を自分が弾いた手段、ストック可能かもしれない。理由はある。
私との戦闘中に発動した未来予知。数が合わない。恐らく私と戦う前、【断抹魔】のPKプレイヤーと戦闘していたから、そこで少し弾く行動を取って回数を得ている。
先ほど、私の攻撃を弾いたのは、ストック分が無くなったから補充した証拠。【殺戮刀】は、武器威力上昇とウィークポイントにヒットすれば、ダメージ量が増加し、【出血】の状態異常を付着させる効果。【殺戮妃】はHP消費に応じて斬撃数が変わる。四方八方に斬撃を放てる効果。斬撃を受けた敵は【恐怖】の状態異常を付与させる効果もある。
濃藍の矛で1回。鉄藍の刀だと恐らく5回は弾いていた。合計6回の未来予知が可能になったか......マンテラーは。これを好機と呼ぶのか絶望と呼べるのかは私の心次第......ね。
回避されるなら回避させればいい。自由に未来を変えれるなら変えさせる。永続ではないなら私に勝機がある。
後はタイミングね。私がマンテラーの能力のカラクリを見破ったと勘付かれないように行動しないと......
「くっ......」
私の視界を覆う怪人。跳躍し、一気に攻めてきた。鎌を横薙ぎに動かしていた。斬撃。濃藍の矛でギリギリ防いだ。成功はした。が、愉悦に浸っている場合でじゃない。右側から迫るカマキリのカマ。鉄藍の刀で防御———!?
鉄藍の刀の刀身をすり抜ける。いや、鎌の軌道を少しズラしたんだ。
「刺サラナイ」
自分の鎌。鋭利さはある。敵の腹部に深くグサリッと刺さっているはず。服の前で止まる。先に進まない。
先端をせき止めている箇所。色が剥がれる。きらりと光沢のある銀色だった。自分の鎌では破砕できない。
「策は常に仕込んでる」
マンテラーは後退する。後ろへ蹴り出し攻撃を回避していた。マンテラーがいた場所。振り下ろされた銀色の剛腕が触れた。力加減は調整されちる。船首の床が抜けることはなかった。
「っち」
背中から伸ばした銀色の剛腕を引っ込める。着地したマンテラー。すかさず私に向けて、前へ飛び出す。鎌を振りかぶった。
金属音が響く。マンテラーの両腕を防いだのは大盾。【パンドラ】の扇形の盾。
重い。全体重が乗った一撃。踏ん張っていた私の身体。圧力に耐えれなくなり、滑る。身体が崩れる。このままではマンテラーが上を支配する。転倒を避けるには背中に無数の【パンドラ】の手を生やした。
盾にしようした分の【パンドラ】量以外全ての【パンドラ】を背中に集中させた。私の身体を、私にのしかかるマンテラーに押し潰されない様に【パンドラ】が耐えてくれる。左に持つ鉄藍の刀を投げる。
時間もない。いくら【パンドラ】でもこのままだと破壊されてしまう。そうなれば液体金属量がゼロで星王の創造は使用できなくなる。チャージはタウロスに預けないといけない。
投げられた鉄藍の刀は宙で回転。主の元へ帰ることはなく、床に転がっていく。
残った濃藍の矛。濃藍の矛の持ち手に設置されている引鉄を引く。
離れている鉄藍の刀が自動的に稼働。濃藍の矛の方へ全速力で飛んでいく。
マンテラーは攻撃をキャンセル。鉄藍の刀はマンテラーを直撃出来ず、濃藍の矛と合体。私は重きがなくなり、体勢を整えた。液体金属を全て引っ込めた。賊藍御前を構える。
マンテラーの鎌捌きを賊藍御前でいなす。人声は辿々しいけど、戦闘能力は確か。賊藍御前を大振りモーションを取る。遠心力が加わる。同時に鉄藍の刀の柄のトリガーを引く。発射された濃藍の矛は大砲の如くマンテラーへ一直線。
切り離された濃藍の矛が鉄藍の刀の動きに連動。空中で移動を繰り返す。通常の回避と未来予知による回避に明確な見分けが付かない。でも、予測不可能な賊藍御前の飛び回る攻撃。数回は使用している。
賊藍御前を回し、横薙ぎを一振り。真横から弧を描いて飛来する鉄藍の刀。マンテラーは鎌で防ぐしかなかった。強く打ち据え、凄まじい衝撃が襲った。
(あれはパリィ判定ではない!)
鉄藍の刀も攻撃を防いだと思うが、推し負けて足が少し後退していた。
僅かな隙。【加速スキル】......【勝利翔】、【宵明星】、【嫦娥】を発動。視認できない速度で走り続ける。マンテラーのカマは上へ広げられている。仰け反っている。胴体がガラ空き。左手で鉄藍の刀を持つ。
「【血海】」
マンテラーの胴体が切り裂かれる。上から斜めへ深い切り傷。攻撃がヒットし、付属効果も発動。無数の血の矢が刺さる。
食いしばった歯。荒い動き。点々と浮かぶ胴体。【血海】の効果で血液エフェクトが刻まれている。
【血海】を解除。鉄藍の刀と濃藍の矛を構える。
「【海女神】」
無数の剣撃を四方八方から受けるマンテラー。攻撃を喰らい、激しく吹き飛ぶ。背中は船首のデッキの壁へもたれかかるように打ち付けられた。
歩む。大ダメージを至近距離から受けた。速攻で立ち直す余力はない。
「キサマ、名ハ」
「ユミナよ!」
「ナカナカに 楽シメタ」
亀裂が生じる。
「サラバだ」
マンテラーの身体は砕け散る。カマキリの戦利品が落ちた。
「ふぅ〜」
突然の昆蟲種の襲来。船がリリクロス近辺にいたから発生したイベント。悪魔の能力を得たMob。未来予知能力なんて、熟練の戦闘経験者なら私は立ち向かうことが出来なかった。あ、でも......ヴァルゴも予測できるんだっけ。訓練で取り入れて貰おう。
「昆蟲種か......」
「ユミナ......」
振り返る。アシリアだった。
「アシリア!」
私に抱きついてきた。少し気恥ずかしい。
「......ダメでした?」
「いや、全然!」
アシリアがかかとを上げる。私の唇と、アシリアの唇が重なる。
アシリアは笑顔で首を可愛く傾げながら言った。
「妻からのご褒美です!」
無事に脅威から救えて良かった!!!
次話、注入された人を自分の意のままに操る。『力を与える代わりに人間を殺して♡』




