そうだ! プレイヤーキラーを狩ろう!!
ヴァルゴは船内を駆けていた。船内に飛び交う魔法弾。それら全てを回避していた。
「アシリア。少しスピード上げます」
ヴァルゴの腕の中で縮こまってるアシリア。彼女はお姫様抱っこされていた。しっかりとヴァルゴにしがみつく。
「お、お願いします......」
床を蹴り、光速で上がる走り。床を、壁を、天井を、縦横無尽に船内を駆け回る。
二人を襲うのはPK集団。一人、二人と増え続ける黒ローブの集団。数分で40人近く集まっていた。
アシリアは少し開いた瞼で前を見る。前方に見える夜空とガラス張りの壁。他に道はない。完全な行き止まりだった。だが、アシリアは直感した。自分を運んでいる女の行動を———
慌てるアシリア。
「ま、待ってください!?!?!」
更に加速する。
「遅いです」
ヴァルゴはガラスを割り、外へ跳んだ。
満月を背に、宙を舞う悪魔。着地したのは船首デッキ。
「ぞろぞろと......ずいぶん暇な方々のようですね」
デッキに居た人々は逃げ惑い、代わりに静かに侵入してきた集団。
「聖女を殺して、意味があるのですか? こんな虫も殺せぬ娘を」
アシリアを下ろし、ヴァルゴは剣を抜く。
集団の頭たる存在の男が現れた。
「資料にあった......サタン、でしたか」
一切の乱れのない黒髪は固めているプレイヤー:サタン。
「こちらもクエストなので」
爽やかな声で笑うプレイヤー:サタン。
「初めて名を聞いた時は耳を疑いましたよ」
歪んだ笑みを浮かべるヴァルゴ。
「アイツも舐められているな、と」
「アイツ?」
「お前たち旅人がお熱の悪魔の事情。気にしないでくれ」
「情報では、貴方も悪魔でしたね」
「『元』ですが。それが?」
プレイヤー:サタンが手を伸ばす。
「聖女を見逃す代わりに、僕の悪魔になれ」
「え、無理」
予想はしていたが、即答には少し動揺していたプレイヤー:サタン。
「生憎、私はお嬢様の永遠の悪魔。お前如きに仕える必要性も費やす時間も見出せない」
優に百を超える【断抹魔】のプレイヤー。全員が武器を構えていた。
「この数、勝てると思うなよ」
怪しい笑顔。大気を震わせる濃密な黒くて赤い威圧。
「勝てますよ......ですが」
上を見るヴァルゴ。喜んでいた。
「お早いですね!」
月明かりに照らされた獣。口から放たれた台風。巻き込まれ、散っていくプレイヤー。
『ベス!』
魔術本から召喚された厄災。煉獄猟犬戦争【魔術本:No.3】。地獄の番犬、ケルベロス。全てを焼き尽くす黒き炎は3頭から発射されたものだった。プレイヤーは焼かれ断末魔が夜を奏でる。
降り立った獣は雄々しく、敵へ鋭い眼光を放つフェンリルとケルベロス。
ウルウルから降りると、ヴァルゴが跪いていた。
「お待ちしておりました......」
タウロスに耐久値全快してもらった品々を装備。ウルウルでグロッキー状態のタウロスを船首の床に下ろした。
「だらしないですよ、タウロス」
ヴァルゴが倒れ込んでいるタウロスを叱る。
「気分......悪い」
「後ろでアシリアを守りなさい」
「それくらい、お安いご用......うぅ......吐きそう!」
炎神の星槌を持つタウロス。顔は今だに青白しかった。
「ウルウル、ベス。タウロスと一緒にアシリアを守ってね!」
遠吠えが鳴る。雄叫びを上げる2匹の獣。向かう敵を惨殺する準備は出来ている。
星刻の錫杖を装備。満月の下、より一層輝きを魅せる。
「君だけ星霊も、聖女も独占。目障りなんだよ!!」
本音を漏らすプレイヤー:サタン。
「上手くいかないから八つ当たりはやめてくれない」
怒り始めるプレイヤー:サタン。
「じゃあ、証明してよ......星霊って、強い奴に靡くの。お前たちが私を倒せば、好感度上がるんじゃない」
星刻の錫杖をプレイヤーたちに向けた。
「雑魚に構っているほど、暇じゃないのよ」
【断抹魔】のプレイヤーたちは口を開くのをやめた。代わりに各々武器を再び持ち構えた。私とヴァルゴに狙いを定めていた。
「私は、更に上を目指してるのよ。平凡、眼中なし!」
「行け! お前ら! コイツらを殺せ!!」
「お嬢様、行きます!」




