アニモシティ家のボス
廊下には襲撃者が倒れている。全員アニモシティ家の組員。NPCだ。裏社会に属するアニモシティ家はゲーム的には賞金首の位置付けになってる。戦闘不能にし、各街の衛兵NPCに引き渡せば、報酬が貰えるシステムとなってる。
最近リリクロスにもお尋ねモンスターなる存在が実装されたそうだ。邪龍も同じカテゴリーに含まれていた。
今船の中。引き渡せる状況ではない。
「私とリブラで下層にある牢屋に運ぶね〜」
万物の蛇蝎星鞭が分離。百足の胴体と蠍の尻尾がSFチックに変貌した武器が二つに分かれた。ムカデ部分は切り離されても自由移動していた。主人の考えを感知し、倒れ込んでいるアニモシティ家の組員へ。脚が伸び、組員を確保。背中に乗せていた。
「残ったのリブラ、よろ〜」
リブラの調停者の巫星杖から光の球体が生まれた。飛び出す鎖。残ってる組員に巻きつく。決して解けない強固な捕獲。鎖もまたリブラの考えに同調。宙に浮く。
「では、主様。先に失礼します」
二人の星霊に連行されるマフィアNPC。
「アシリアの所に行きたいんだけど......」
私は床に視線を向いた。先ほどまで倒れていたアニモシティ家の組員は誰もいない。が、ナニカが大量にあった。
薄い膜が張られた球体。中が蠢く。生きていた。球体の脈動が早くなる。周囲の同じ球体もシンクロする。亀裂が入った。
「破れる......!?」
タマゴが還った。黒いケムリが噴く。ケムリは徐々に形を成す。
「ヒヨコ??」
孵化した。
しゃがみ、両手で拾い上げた。掌に乗っている生き物の見た目は普通の雛だった。黄色と黒色が入り混じっていた可愛らしいヒヨコちゃん。
「あっ!!?」
両手に乗ってるヒヨコが飛んだ。着地し、ヒヨコは周りを確認。突然一匹からの鳴き声が鳴る。一匹、また一匹と鳴き声を発する。けたたましい音。至近距離で、爆音が鳴り響く。
耳を抑えても無意味だった。
歩き出すヒヨコたち。
角から人影。
「ラッキー・アニモシティ......よね」
スキンヘッドの巨体男性。肥満体を覆うのは上質なスーツ。左手には杖。高級感あふれる杖を突きながら廊下を歩いていきた。
「簡単な仕事の筈だったのだが」
渋い声。ラッキー・アニモシティから出た声だ。
「あの聖女も面白い娘を人生の愛に決めた様だな」
「ありがとう! 鳥に担がれて、帰ってくれると嬉しいんだけど」
ラッキー・アニモシティは肩に乗ってるコウノトリを可愛がっていた。ペットのコウノトリも貴族の風格を宿していた。
「戯言を」
杖を投げ、指を鳴らすラッキー・アニモシティ。
「ここまでコケにされたんだ。私自ら相手してやる」
「あーもしかして、部下の殆どが捕まったことを言ってる? 船内で私の従者が秘密裏に迎撃したのバレてたか〜」
船内にいた数日間。私とアシリアに護衛している従者以外は密かに組員を倒して回っていた。
今残っているのも、先程片した分だけだろう。
「ふざけた娘だ......だが、ここまでだ」
肩に乗ってるコウノトリが鳴く。反応する大量のヒヨコ。
「合唱コンクールなら、他所でやって欲しんだけど〜」
「安心しろ、貴様の為に用意した悪魔組曲だ」
「わーい。めっちゃ感激ー」
ラッキー・アニモシティは戦闘できるNPC。攻撃方法はシンプル。自身の肉体を使う。見た目だけなら肥満体の巨体に見えるが、スーツの奥に隠れているのは全身筋肉。お相撲さんみたいなキャラだ。ラッキー・アニモシティも賞金首扱いとなっているが、未だに捕まっていたのは知略と肉力の実力で勝ち続けてきた。
賞金首だけを狙うギルドがあるらしいけど、プレイヤーは全員ボコボコにされたと掲示板で確認されている。
『君があの女を契約したのは、知ってる』
「しゃ、しゃべった......?」
コウノトリが人語を話す。
次話、18時頃投稿します




