ゲーム、しましょうか!
スコーピオンは手摺りに体を預けていた。中間層は吹き抜け構造となっているので上下階層の景色が見える。
「ハァ〜 思い出したら、気持ち悪くなったわ」
吐きそう......
先週、ユミナが作った、魚介とホイップクリームが融合したクリーム入りシュークリームを食べて死ぬ思いをしたばかりだ。強烈な生臭さと甘さの合わせ技。女王として君臨していた時や星霊として活動していた時、長く生きてきたが、未開の味だった。研究者として研究材料にする好奇心はあったが、あまりに刺激的な味で研究は断念してしまった。
「癒されるわね〜」
スコーピオンは周囲の人々を観ていた。
「......私に何かご用かしら?」
後ろを振り向くと一人の男が立っていた。ポンチョを着た愉快な顔をしていた。
名は、フーセッツ。PKギルド【断抹魔】に所属するプレイヤー。
ニヤつきながら喋り始めるフーセッツ。
「いや〜〜オレは運が良いぜ〜〜〜!」
「豪華な客船に乗れたことかしら」
「貴女に会えたことだよ」
「初対面でいきなりナンパ? 身なりを整えてから出直したら?」
「アンタ程じゃないぜ。少し前まで奴隷だった分際じゃねぇか〜」
スコーピオンはため息を吐く。
「そう言えば、そんな時期もあったかしら。生憎ここ1ヶ月ほど刺激的な毎日を送ってたから記憶から消えていたわ」
「ユミナよりも俺の方が、もっと刺激的な日常を贈らせてヤるぜ」
「............ヘェ〜」
目がまったく笑っていないスコーピオンが口を開く。
「わーい。嬉しいわー......ここじゃ周りの迷惑になるわ。人気のない場所に移動しましょう」
「へぇー 中間層にこんな場所があるなんてねー シラナカッタワー」
「俺は気に入ってる」
商人たちの倉庫として活用されている区画。広大なエリアに搬入された物資が整理整頓で保管されている。
「ねぇ、アナタの名前、なんでしたっけ?」
「フーセッツだ」
「そうだったわ、フーセッツね。で、フーセッツ......私とゲームしない」
「ゲームだぁ?」
「ルールはシンプル。私に勝ったら、アナタの女になってあげるわ!」
豪華客船、インペリアル・アペクス号は全域戦闘可能だ。海の上を移動しているだけの箱。例え船内で戦争が起きても、ゲーム内の仕様である。
「良いぜ、来いよ!」
武器を構え、臨戦態勢のフーセッツ。
「はい、ブーッ!」
手でバッテンの構えを取ったスコーピオン。予想外の行動に呆気に取られたフーセッツ。
「誰が戦闘するわよ、と言ったかしら?」
「はぁ!!? じゃあ、どうすんだ」
「私がアナタに一発、攻撃する。攻撃を受けた後、立ってることが出来たらアナタの勝ち。立ち上がれなかったら私の勝ち」
「俺は黙って攻撃を受けるのか......」
「一発攻撃を受けるだけで私が手に入るのよ〜 安いと思わない?」
フーセッツはスコーピオンを見詰める。褐色美人。白衣に扇情的な服装。そして種族:【星霊】。意外なプレイヤー同士の対決で暴露された新たな種族。全員が容姿に優れ、能力面も優秀なNPCと周知されてしまった。対決したプレイヤーたちの会話から、恐らく星座をモチーフにした種族だと考察されていった。黄道十二星座の内、11人が判明された。フーセッツが所属する【断抹魔】と同じPKギルド【ゴースト】のリーダー、バシャも星霊を所持していた。一度だけ戦闘を見たが、星霊が1人いるだけで【オニキス・オンライン】でトッププレイヤーに君臨し続けれる破格の性能キャラ。のも関わらず11人の星霊全て1人のプレイヤーが従者にしているのが現状。見つかっていない残りの1人を探すべく躍起になるプレイヤーも多い。
「そうね〜 アナタの女になったら、ナンでもしてあげるわ」
「な、ナンでも......」
「どんな命令も拒否しないわ」
興奮した笑み。
「OKだ。お前の攻撃、耐えて見せるぜ」
「男気あって、大変よろしい」
スコーピオンはフーセッツに手を差し出す。
「攻撃するに当たって、アナタの武器を貸して」
「俺の......武器?」
「私の試練で必要なのは武器。素手の攻撃は不可」
そう言って、スコーピオンは自身の専用武器、万物の蛇蝎星鞭を取り出す。蛇腹剣を鞭へ改造した専用武器。先端は鋭い蠍の尻尾、脊髄のような形状とムカデと蛇の身体を模した武器となっていた。
「どうして俺の武器が? 自分の武器を使えば良いじゃねぇか......」
「だって嫌でしょう? 仮に私が勝っても『武器の性能が良かったんだ』とか色々難癖付けてくる可能性が高いわ。なら、相手の武器を借りれば、例え相手が負けても納得するでしょう」
「相手は自分の武器に負けた、か。なるほどな......」
「武器種は何でもいいわ! 一応全ての武器種は扱えるから」
フーセッツは自身のステータス画面から武器欄を選択。スクロールして目当ての武器を顕現させた。
そして、武器をスコーピオンに投げた。
「鞭ね......それも初心者が使う粗悪な鞭」
「何なら別の武器に替えても良いんだぜ!」
「良いわ。これにする」
お互い少し間を空ける。スコーピオンは白衣のポケットからコインを一枚出す。
「このコインが地面に着いたら、攻撃するわ」
スコーピオンの親指を強く上に向けて、コインをはじく。コインは回転しながら上へ昇る。一定距離まで飛んだコインは次第に威力がなくなり、ゆっくりと落ちていく。お互いの体を抜ける。
コインが地上に触れた——————




