スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している その19
サブタイのサブタイ
唇を奪ったキャッツ・メイド
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暴走しているファントム。かと思えば冷静に淡々と相手を殺す行動を取る。敵によって自分の行動を瞬時に変更する。確実に殺す一手を繰り出す。激しい攻撃を避けるのが精一杯だ。
ファントムの身体は今、【自我が消滅した静かなる殺戮者】に奪われている。ただ本来の発動条件と異なっている。発動条件が達成していないのに【自我が消滅した静かなる殺戮者】が起動している事実だけど、正直私は分からない。誰かの手が加わっているとしか現状考えられない。あれこれ考えるのは今はやめよう。目の前の敵に集中!!
隙を突いて、ファントムの顔面に私の蹴り攻撃が当たってから、ある程度時間が経過していた。
「これ......やっぱり燃えてるよね」
現在、私のアバターは全身に翠炎に迸ってる。上手に焼けました、って事ですか...!!?
先に発動した怒龍の籠手の【烈臥状態】。敵が【憤怒】の状態異常にかかってから100秒経過で発動できる。【烈臥状態】を展開すると付着された【憤怒】が解除されるのはテキストで確認済み。ただ【憤怒】で獲得した威力upがなくなったのは誤算。本来なら付着人数に応じて、パーティーメンバーのステータスが上昇するとなっている。が、ラキとクイーンは離れた場所にいるためステータスアップの効果範囲にいないので不発。
ナイフが飛んでくる。回避と怒龍の籠手で弾いた。
「くっ......!!」
うなりを上げる【自我が消滅した静かなる殺戮者】。血管が浮き出ている剛腕。敵である私を殴るモーションに入っていた。
「あっぶな......」
巨腕を防ぐ円型の大盾。銘は【黒緑】。怒龍の籠手の【烈臥状態】が発動中のみ展開が可能となる機構。怒龍の籠手の前腕部にひし形の宝石が内蔵されていて、宝石が大盾として変形。
盾を構える時間はなかった。でも、【黒緑】は自動的に使用者の護る様に設計されている。
「お返しだぁああ!!!!」
【黒緑】を掴み、フリスビーの要領で投擲した。剛腕に弾かれたが木々で跳ね返し私の元まで戻ってくる。【黒緑】を自在に操り、敵の猛撃を退いていた。
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憤怒:+1
00:01:41
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足の———転輪の翠蹴の【烈臥状態】が条件達成した。
「厄介ね......」
剛腕とスピードを得た攻撃。疾いだけじゃない。一撃一撃の重さ。攻撃威力の密度が高い。転輪の翠蹴の効果でダメージ量が軽減されているとは言っても、長時間の戦闘は不利。
「ピンチをチャンスに!!」
拳を振り上げる。足の裏と拳が接触。そのまま全力で振り上がった拳。上がる瞬間に後ろへ回転跳び。ショックを吸収して受けるダメージ量を減らした。転輪の翠蹴の【烈臥状態】を発動。両足のふくらはぎの半円形3層分が分離。全部足の裏と合体。外輪の球体が開き、ジェット噴射。
地面に落ちる事なく宙に浮いている。
拡張武装:【不死領域】こそが転輪の翠蹴の【烈臥状態】発動中に使用が可能になる機構。脛からふくらはぎを囲む円形は三層あり、外輪には等間隔に球体が埋め込まれていた。【不死領域】展開中は自由に円形を分離・結合・合体が可能となる。身体のあらゆる部位をサポートしてくれる武装機構。
「ウチのメイドが元気じゃないと困るのよ」
爆音が鳴る。着地に【自我が消滅した静かなる殺戮者】は反応できずにいた。足の裏と合体していた半円形は元のふくらはぎ部分に戻り、加速ブースターとしての役割と変わる。
【自我が消滅した静かなる殺戮者】に強化された上段回し蹴りが直撃。
爆風と衝撃で木々は薙ぎ払われる。起き上がる【自我が消滅した静かなる殺戮者】。殺すつもりで蹴った。咄嗟にダメージを軽減する手法でも取ったのだろう。後何秒だ............
「えっ!?」
ファントムの瞳に生気が戻る。
(自発的に戻れない......はず?)
発動条件が不達成による弊害? 障害が発生? 外部からの干渉?
10回以上検証して実験台になった私が保証する。
明らかに異常事態の現状に直面している......
生命の略奪者と青白い孤月から排出された大量のトランプ。自動で持ち主の元へ帰っていく。私にも5枚のトランプが。
ファントムは後ろへ倒れ込む。
「ありがとう」
そう一言私に言った。
「お礼を言われる覚えはありませんが?」
「僕の暴走を止めてくれたことに対しての感謝の気持ち」
「【自我が消滅した静かなる殺戮者】に身体を奪われた状態で私が逃げると他の生命体を次々と殺していくので応戦したまでです」
ファントムはハッとなる。思い出したかのような表情。
「ユミナちゃんの持つ【自我が消滅した静かなる殺戮者】。実は......」
何かを言いかけたファントム。が、次第に首を傾げ始める。
「どうしましたか?」
「え!? あーゴメン。忘れちゃったよ。アハハ」
へぇ~、NPCでも忘れる事があるのか。内容を覚えていないのなら追求するべきじゃないね......
私はファントムの前に手を出す。
「取り敢えず、ラキ達の元に戻ろう」
「ちゃんと師匠に言わないとね」
私とファントムは廃教会へ戻ることにした。
◆◆◆◆◆
ユミナとファントムの後ろ姿を観る人影。
「喋っちゃ、ダ・メ・よ!!!」
そう言い残し、リリスは静かに姿を消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごめんなさい」
ラキの謝罪。相手はファントムことデュオ。
「顔を上げてください、師匠」
ちゃんと前を見るラキ。
「道中、ユミナちゃんに聞きました。師匠の半生を......師匠の苦しみを解ってあげられず申し訳ございませんでした」
「デュオ......」
「師匠、今幸せですか?」
ラキは泣きながら笑顔で言った。
「はい!」
下を向くデュオの顔は静かな喜びに満ちていた。
デュオは悪魔———ヴァレフォールへ。
「決心した様だな」
「あぁ......契約を破棄する」
「少しの間だったが、楽しかったぜ......相棒」
デュオとヴァレフォールの契約は消滅した。
「ほれ!」
ヴァレフォールがデュオに渡したのはラバスト。あれって......悪魔の護謨?
なにこれ、と言った表情のデュオ。
じゃあデュオはヴァレフォールからかなりの好印象を獲得していたのか。初めに悪魔の欲板を貰い、悪魔の彫像もゲットしている。
「いつでも呼びたくなったら、念じろ。一度は契約した仲だ。少しくらいは譲歩してやるよ」
「サンキュー、相棒!」
私に指を指すヴァレフォール。
「オレは怪盗・泥棒の素質がある者としか契約を結ばない。ユミナ、貴様には素質がない。だが、ルールはルールだ。悪魔の護謨だけ渡しておく」
素直に喜べない......ま、貰える物は貰うけど
「......ありがとう」
なんだかんだで、初めての悪魔の護謨。
完全にラバストの見た目のアイテムだった。ガラスケースに保管した。
「そして......ラキ。悪いが貴様は対象外。品は渡せん」
「かまいませんよ」
「最後にクイーン様。貴女様には我よりも相応しき者がおります。ただ、規則ですので悪魔の欲板をお渡し致します」
「あ、ありがとう......」
何故、クイーンだけ丁重になるんだ?????? クイーンに相応しい悪魔って何者だろう......疑問は尽きない。
「では、さらばだ」
ヴァレフォールは消えた。
「デュオ。これからどうするのですか?」
一人去るデュオを呼び止めるクラス。
「怪盗は廃業だし......もう一度サーカスにでも入ろうかな〜」
「応援しています!」
「ユミナちゃん。師匠を頼んだよ。君なら任せられる」
「はい! 安心して余生をお過ごしください」
「お詫びと言ってはなんだけど......」
デュオが出したのは一枚の薄い板。現実で使われているスマートカードみたいな作りだ。
「これは?」
「僕は一応、天使だからね。天界に行ける通行証を上げるよ」
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・天界への通行証
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表示されたアイテム名。特に捻りのない名称だった。
「永久パスだから、有効期限は気にしないでね! で、場所だけど」
デュオが言いかけたのを阻止した。
「自分で見つける」
「............そっか。頑張って!!!」
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1.バアル
2.アガレス
3.ヴァサゴ
4.ガミジン
5.マルバス
6.ヴァレフォール→→契約破棄:半天使:奇術師:デュオ、提案中:プレイヤー名:ユミナ、交渉中:プレイヤー名:クイーン
7.アモン
8.バルバトル→→交渉中:プレイヤー名:アクイローネ
9.パイモン
10.ブエル→→提案中:プレイヤー名:タタコワサ
11.グシオン
12.シトリー
13.ベレト
14.レラージェ
15.エリゴス→→交渉中:昆蟲種:蜂族
16.ゼパル
17.ボティス→→交渉中:昆蟲種:蟻族
18.バティン
19.サレオス
20.プールソン
21.モラクス
22.イポス
23.アイム
24.ナベリウス→→交渉中:昆蟲種:鍬形族
25.グラシャラボラス→→交渉中:プレイヤー名:ユミナ、クイーン、カステラ
26.ブネ
27.ロノウェ
28.ベリト→→提案中:昆蟲種:蝶族
29.アスタロト→→交渉中:昆蟲種:蟷螂族
30.フォルネウス→→交渉中:真龍種:海荒狂う邪悪龍
31.フォラス
32.アスモデウス
33.ガープ→→交渉中:昆蟲種:蜘蛛族
34.フルフル
35.マルコシアス
36.ストラス→→提案中:プレイヤー名:ブッシュ、リズム
37.フェニックス
38.ハルファス
39.マルファス→→交渉中:プレイヤー名:秋天久茶、え〜ぴぃーだぶりゅー
40.ラウム
41.フォカロル
42.ウェパール
43.サブナック
44.シャックス
45.ヴィネア
46.ビフロンス
47.ウヴァル
48.ハーゲンティ
49.クロケル
50.フルカス→→提案中:昆蟲種:飛蝗族
51.バラム
52.アロケル
53.カイム
54.ムルムル
55.オロバス
56.グレモリー→→契約済:プレイヤー名:ユミナ
57.オセ
58.アミー
59.オリアス
60.ウァプラ
61.ザガン
62.ウァラク
63.アンドラス
64.フラウロス
65.アンドレアルフス
66.キマリス→→提案中:霊体種:亡霊の海賊王:ブルーハート
67.アムドゥスキアス
68.ベリアル→→交渉中:昆蟲種:兜族
69.デカラビア
70.セーレ
71.ダンタリオン
72.アンドロマリウス
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怪盗ファントムに奪われたスキルは全て持ち主の元へ戻っていった。騒動は治り、クイーンは普通に街中を歩ける様になった。
伸びをする。
「意外に疲れた」
「お疲れ様です、ユミナ様」
「ねぇ............良かったの? デュオはきっとクラスの事が......」
唇と唇が重なった。ラキに大切なモノを奪われた。人とネコ獣人のキス場面。周りいた人が釘付けとなる。
「ちょ、ラキ!?!?!? 街中!?!?!?!??!」
「油断しましたね、ユミナ様♡ それにご心配いりません。デュオは強い子です。私は一生ユミナ様にお仕えすると決めております」
「ハァ〜 わかったよ。これからもよろしくね!」
この話で【 スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している】終了です。
次話からも宜しくお願いします!




