スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している その10
サブタイのサブタイ
「イケませんユミナ様、こんな往来で」
◇◆◇◆
クイーンはタウロスのアクセサリーが出来上がるまで一度ログアウトした。で、私は——————
「この紅茶美味しいですね!」
満足そうな顔のクラスを眺めながらコーヒーを啜った。
今私とクラスは【サングリエ】のカフェにいる。オープンカフェも完備している。テラス席で街ゆく人々を観察していた。カフェでゆったりしつつ情報収集も並行で行なっている。
「ユミナ様......妙に視線を感じるのですが」
道行く人々。プレイヤーやNPCはテスラ席で優雅に紅茶を飲んでいるクラスに釘付けだった。
綺麗なパープル色の髪が良く似合うクラス。紅茶を飲む佇まいも高貴な存在感を発している。にも関わらずロングドレスのメイド服を着用と私。美人のメイドNPCさんはやっぱりユミナのモノか。案の定の表情を出されて私の方が居心地が悪かった。
見かねたクラスは歩いている人々に視線を向け、手を振る。所作もさることながら気品溢れる微笑に全員メロメロ状態。対面に座っている私の存在は完全に空気へと変わっただろう。
「これで少しは大丈夫かと」
「クラスも星霊たちと同じだね......手慣れているというか」
「【星霜の女王】になる前は貴族でしたので、良く領民の皆さんにも挨拶はしていました。【星霜の女王】の場合は注目度は桁違いで疲れる事が多かったですが......」
「奇術師じゃなかったっけ?」
「奇術師よりも前です。もう歴史から消えた家...残っているのは恐らく私だけ」
「ごめん。嫌なことを思い出させて...」
「ユミナ様が謝ることではありません」
夜空を見るクラス。
「一度だけ旅するサーカス団が領地に来たんです。お忍びで私も拝見しました。あの衝撃は今でも覚えている。両親の反対を押し切って家を飛び出し、奇術の世界へ入りました。令嬢として過ごしてきた私には見るもの全てが新鮮で......習ってきた価値観が違いました。身分を偽っての生活は苦労しましたが、それでも私は奇術の世界に魅了された。だから後悔はしていません」
「本当に好きなんだね」
「はい!」
「じゃあ奇術師として成功してから【星霜の女王】に?」
「リリス様からの神託でした。直接訪問してきた時は身体中の震えが止まず、立っているのがやっと、でした」
ま、あの宇宙神が降臨したとなれば誰だって驚く。いや、もし失神し倒れこみ、その行動が不敬だと感じたらリリス様の手で惑星オニキスが消滅していたかもしれない。
「さすが......リリス様」
下を向くクラス。
「選ばれたのに私は......裏切ってしまった」
私は口を出せなかった。当時の状況は私は知らない。クラスが逃げ出すまでに絶望的な世界。悪神がいつ復活するか分からない。今度は私が受け持つことになる。
「リリス様に”永遠の命”の刑を受けて......スラカイト・リリクロス大陸を旅しました。時間だけは沢山ありました......珍しい子を弟子にした時期もありました」
「”弟子”?」
「私の奇術に惚れた男の子です。彼は楽しく修行をしていました。ですが......当時の私は無感動で機械のように生きていました。刻獣を成長させる為に見捨ててしまった」
「そうなんだ......」
「その後、弟子がどうなったのか分かりません。最近になって思い出しました......酷い女ですね」
「過去は変えれない。でも、未来は変えられる。これからが大切じゃない」
微笑するクラス。
「ユミナ様の従者になれて良かったです♡」
「ほれ、私を崇め讃え祀れ!!」
私たちは笑い、会話を続けた。
私たちは2時間位談笑してからカフェを退店した。
「結局、それっぽい人物いなかったね」
「黒の怪盗服に捉われているかも知れません」
「どういうこと?」
「変装している可能性があります」
「マ、話題沸騰中の怪盗さんも四六時中身に纏っている訳じゃないか」
「相手のスキルを奪うなら近しい人に化ける。仮にも怪盗。変装はお手のものかと」
歩いていると後ろから走る音が聞こえてきた。振り向くとヴェインさんだった。
「あ!!? ヴェインさん」
「探したよ、ユミナ。で、どうだ?」
「あー心配ないですよ。今は私の城にいますので」
安心し切った顔を出すヴェインさん。私たちの間で分かる会話だ。”クイーン”の名前は極力出さない。誰が聞いているか分からないからだ。
「えっとーそちらのメイドは?」
ヴェインさんの視線の先。私の隣に立っているクラスに注がれていた。
「私専属のメイド」
「初めまして、クラスと申します。ユミナ様のメイドを務めております。以後お見知りおきよ」
お辞儀するクラス。つられてお辞儀するヴェイン。
「ユミナは凄い従者も居るのに、メイドまで」
「あはは......成り行きと言いますか。それはそうと、走ってきたのは緊急な要件が?」
「彼女は無事かの確認。捜索中の怪盗は見つからずの報告。あとはお礼かな」
「”お礼”? 何かしましたっけ?」
「彼女の依頼。引き受けてくれただろう」
「あーあれですね。”悪魔関連”と”邪龍関連”。あれくらいしか情報を持っていないので役に立ったかわかりませんが」
「”邪龍関連”は他のトップギルドよりも情報を得た。これで先んじて行動が取れる。一応聞いておくが、私たちが遭遇しても討伐して良いよな」
「はい! 私が独占できる代物ではありません。じゃんじゃん討伐してください!!!」
「そ、そうか......変に笑顔なのは訊かないでおこう。で、”悪魔関連”の方も悪魔攻略が進みそうで助かったよ。実際に悪魔と接触した彼女の情報と照らし合わせて乗り出すつもりだ」
「頑張ってください!」
「邪魔したね。デート楽しんで」
「デートじゃありません!!?」
「そうです。私とユミナ様はイケないメイドさんプレイをしているだけです」
オイぃ!!? アンタは口を閉じろ。後誤解を招く言い方するなぁあああああ!?!?!
「あはは......ま、あとは若いお二人でごゆっくり」
ほらぁ!!? ヴェインさんが顔を引き攣ってるじゃん......
私は後ろ姿のヴェインさんに質問した。
「そう言えば、ヴェイン」
振り返るヴェイン。
「どうした?」
「今更ながら謝罪を。以前私が悪魔のマスクを被ったままクイーンとイチャイチャして、ギルドに迷惑を掛けてすみませんでした」
「............気にしなくて良いよ。代わりに多くの情報を貰ったことだしね〜」
「ありがとうございます。では、私たちは失礼します。ちょっとクラスくん。奥でお話ししましょうか」
”イケませんユミナ様、こんな往来で”じゃねぇえぇええよ!!!!!!!!!!!
来いっ! 君にはじっくり聞きたいことがあるんだ。逃げるのは許しません。




