スキルを盗む怪盗紳士は師匠を探している その9
オニキス・オンラインには【お宝】と呼ばれるアイテム品が数多く存在する。主に【ムートン】のオークションエリアで入手可能。定番の宝石は勿論壺や巻物から骸骨や毛髪など身体の部位迄様々な品がある。他にもモンスターから低確率でドロップするアイテムやフィールドに点在する隠しエリアに眠っていたり、最新アップデートで追加されたお宝の地図で出現するダンジョン内で獲得出来るとか噂になっていた。
「吸わせる? 防具に......?」
「おかしいでしょう。吸わせた直後に光輝き、元気になるのよ! 時間指定されていないが唯一の救い」
一回でも白銀の幻鍵に【お宝】アイテムを吸わせる業務を怠ると、強制デバフが掛かる。内容はスキルのリキャストタイムが10倍増加。状態異常に掛かりやすくなる。回復アイテムが12時間使用不可。
「呪いの防具の類だね......装備外しちゃえば?」
「一度装備を外して再度装備すると要求ステータスが倍になる」
倍かよ!!? やっぱり呪いの防具だ......
「ここまで聞くと白銀の幻鍵を装備する利点まったくないね」
「AGIが大幅に補正が入る。私の眼だけに敵の急所が表示されるんだ。【お宝】アイテムのドロップ率も羽上がった事で道端の石ころ並みに【お宝】アイテムが大量ゲット出きるんだ。定期的に換金しててお金には困らない生活をしてるよ。専用武器も付いてきたし、白銀の幻鍵のお陰でこの2種のユニーク武器も入手できた。マ、総じて良かったよ」
クイーンはタウロスに手渡しで破王双藍と金始刀【閃】を渡した。
一瞬タウロスが驚いた表情を出したが、数秒後にはいつも通りの顔に戻った。
「うんじゃあ、早速修理しますか」
製造の金槌を持ち、腕を回すタウロス。やる気十分の様子。
「あ、お嬢が女学園にナンパしていたから渡しそびれたよ」
誰が女性限定ナンパ師だ!!?
修理完了の捕食者の影爪が戻ってきた。
「あまり武器を無茶させるなよ。特に裁紅の短剣、賊藍御前、捕食者の影爪の三つは......」
「了解。肝に銘じておきます」
タウロスから『クイーンの修理&隠密アイテム製作に4時間くらい掛かる』と言われたので一度ログアウトして休息することにした。
ユミナとクイーンが鍛治室を出て行った。
タウロスは一人、鍛治場で作業していたが動きが止まっていた。
作業台に置かれている破王双藍と金始刀【閃】。メカメカしい造形のハンマーと太刀。リリ様から託された三種類の武器———裁紅の短剣、賊藍御前、捕食者の影爪。三つの武器以上に強い。タウロスは一瞥して破王双藍と金始刀【閃】は危ないと直感していた。武器の性能は勿論、ユミナに託した三種の武器よりも遥かに高スペックの武器。クイーンとは気心が知れた仲であり、主でもあるユミナと唯ならぬ関係なのは理解している。修理は完璧に熟す。が、鍛治師としてここまでの武器をただ修理するだけは無理な話。
タウロスは自分の机に散らかっている図面の数々に視線を向ける。一時期創作意欲が消滅していた。色々な出来事を経て、今ではすっかり元通りの生活を過ごしている。だが、主の今度の冒険に必要な武具が完成しない。焦ってはいない。しかし、納得のいく逸品が出来ず歯痒い気持ちが募っているのも事実。
「変形ギミックか......」
説明を読み、興味本位で変形起動コードを発したタウロス。が、反応がない。目立った動きを破王双藍と金始刀【閃】は見せない。タウロスの声では起動しない事が分かった。
「キャンサーの【プレセベ】みたいな機能持ちか」
テキストにはハンマーの破王双藍は刀身が長い双剣。大太刀の金始刀【閃】は銃に変形される。実際にこの目で見たかったがクイーンの声のみ反応するので断念するしか無かった。
ウラニアの指輪内部にも神代に使っていた素材が山のように存在する。ユミナに提供するのは問題がない。むしろ愛している主が使ってくれることにこの上なく嬉しい。懸念材料は、今の時代に代えの効く素材が一つもない事。神代製の武具プラス神化状態の武具の耐久値回復には使用した素材を使わないと回復しない。【高度生命工学ADAM研究所】の素材可能な材料では力が足りない。
「やっぱり......アクセサリーか〜 いや、武器案も......悩むぜ」
武具は耐久値がある。定期的に修理依頼をしないと耐久値がゼロ。つまり消滅する。
その点、アクセサリーは耐久値が存在しない。
顰めた表情で考え込むと、外廊下から声が聞こえてきた。
「ハァ〜 完全に誤解しているわよね」
「スコーピオンが端折るからです。アレでは完全に変質者です」
「アナタも中々変態チックな言葉を口走っていたけど?? なにが『ユミナ様の顔のサイズ採寸と唇の柔らかさ』よ!!? 完全にストーカーの類わよ」
「シンギュラリティはいつだって人知れず起こっている。それにスコーピオンの方が異常者の発言だぞ。結果的にユミナ様が居たからお叱りを受けたが、一般的に公衆の面前で主のスリーサイズを知りたいと叫ぶ奴がいるのか?? お前にだけは絶対に”ストーカー”、と言われたくない」
「アンドロイドが頭の悪い言葉を使ってポンコツに成り下がるとわね。回路がショートしているのね、100パーセント。もしくは錆だらけで動きが鈍くなったのね、きっと!! スパコン脳止めてブリキ脳にマイナーチェンジしな?」
「外見が完璧でも中身が社会不適合者にだけはポンコツ扱いされたくありません。コレが元女王様とは......住民はさぞかし呆れていたことでしょう〜」
「ほほ〜ん。言ってくれるわね、女王の力魅せてあげましょうか」
キャンサーとスコーピオンだった。声のトーンから主にお叱りを受けたようだ。徐々に口論が発展し戦闘開始一歩前。何故か自然と喧嘩腰になってしまうのが星霊の日常なので他星霊は基本スルー。数秒後沈静化された二人の会話は最初の話題へ戻っていた。
「それにユミナちゃんに全部話せないわ。まだ極秘プロジェクトだし......」
スコーピオンは修復したタブレットを弄り出す。多くのプロジェクトの中に【クイーン・システム】(仮)の項目が存在していた。今度の悪神との戦闘に役に立つ。悪神がいつ復活するのか不明な状況。1秒でも時間が惜しい。
「ユミナ様の従者に秘密を漏らす者はいませんよ」
「分かっているわ。でも技術漏洩は科学者が一番危惧しているのよ」
「まだまだ初期段階です。膨大なエネルギーを有している動力源の案は未定。機体製造に必要な素材は万物なる宝樹の種子では精製されませんでした。ラボで少しずつ製作し、折を見てユミナ様にご説明するしかありません」
「”核”を動力源にしましょう!」
「思いつきは賛成ですが、必要な機材が一つもありません」
「そうよね......仕方がない、キャンサー印のヘルメットに集中するしかないわね。機材はきっと”基地”にあるはずだし。基地に向かうためにエレベーターも見つけないと。やる事沢山......ハァ〜」
「『プレセペ』で捜索中です。座標は大幅に変わっていたので難航していますが、発見したら急ピッチで修復作業に取り掛かります。ヘルメットだけなら自動調整機能は大丈夫。本当はちゃんと生体情報を組み込みたい所ですが——————」
鍛治室の暖簾が上がる。
「タウロス、お疲れ様です」
スコーピオンとキャンサーは驚く。タウロスがいつに無く自分たちを凝視していたからだ。
「どうしたのよ??」
「............二人ともちょっと良いか」
タウロスの招きでキャンサーとスコーピオンは鍛治室へ入っていった。
クレオパトラの装備
〜装備欄〜
頭:絶世を極めし栄蠍
上半身:絶世を極めし栄蠍
下半身:絶世を極めし栄蠍
足:絶世を極めし栄蠍
右武器:万物の蛇蝎星鞭
左武器:
白衣はアクセサリー枠。万物の蛇蝎星鞭は蛇腹剣を鞭へ改造した専用武器。脊髄のような形状とムカデと蛇の身体を模した武器。先端は鋭い蠍の尻尾。胴体部分は一つ一つ分離してスコーピオンをサポートする役割を持つ




