【特別編】織姫と彦星、里帰り
七夕、滑り込みセーフ
時系列は気にしないでください!
7月7日。現実では七夕として広く知れ渡っている。ここオニキス・オンラインでも7月7日に特殊なイベントが発生していた。
「ねぇ、スコーピオン......」
サジタリウスの背中に乗っている私は隣を歩いているスコーピオンに声を掛けた。相変わらず身体にフィットした扇状的な服装を着ているな。確かスーピーススーツだったはず。これでいて白衣が妙に似合う。褐色金髪なのもズルい。まぁ、私の嫁なので独り占めするけど〜
スコーピオンが上を見上げる。
「なにかしら、ユミナちゃん」
「どうして私たち、軌道宇宙エレベーターにいるの?」
事の発端は、私、アクイローネ、ブッシュ、リズム。いつメンでオニキス・オンラインを遊んでいたことから始まる。今日が7月7日。つまり、七夕。リズム情報では和ノ國で徘徊モンスターの背中に生えている巨大な笹に、願いが叶うとされる特製短冊を結ぶイベントがあった。私たち4人も面白そうと思いイベントに向かっている最中に、血相を変えたスコーピオンとサジタリウスに連行された。用があったのは私だけ。でも私ある所にユニークがアリ。悪友たちは知っていたので同行してきた。
今私たちはスコーピオンとキャンサー謹製の宇宙エレベーターにいる。縦長のカプセルに乗車し、宇宙の旅行を楽しんでいた。現実ではまだ、一般人が宇宙旅行するのはまだ先となっている。なのでゲームとはいえひと足さきに宇宙旅行を満喫していた。
3人が宙を眺めている間に2人の嫁に事情を聞く必要があった。
スコーピオンが口を出す前にサジタリウスが口を開いた。
「すみません、ユミナ様。お詫びとして残業します」
「いや、良いよ。サジタリウスが仕事に取り掛かると何徹するか分からないし......」
「では腹を斬ります」
「やめろぉおおお!!!」
むぎゅぅぅううう!
後ろからサジタリウスの両胸を鷲掴み。
「こ、困ります、ユミナ君。このような場所で......」
頬を染めるサジタリウス。
「ユミナ様にご迷惑をかけてしまったわ。これも私がダメで役に立たない星霊だからですね......仕事しないと......証明しないと、私は仕事が出来る人材だと」
ブツブツ独り言してるサジタリウス。
「どうすれば良いんだ......」
「ユミナちゃん。サジタリウスのアホ言動は基本無視。そう結論出たでしょう〜」
「分かっているけど......じゃあ、代わりにスコーピオンが解説してよ」
「初めからそのつもりよ」
白衣の胸ポケットからメガネを取り出すスコーピオン。
に、似合う! 白衣の美女にメガネ。科学者でもあるスコーピオンにしか出来ない芸当だ。
カプセル内部の液晶モニターが作動する。
指示棒をモニターに差す。
「先ず。私たちの最終目的から話すわ。【織姫】と【彦星】を迎えること」
「......【織姫】と【彦星】って言った?」
私の質問に頷くスコーピオンと正気に戻ったサジタリウス。
スコーピオンの言葉に反応したのは私だけではなかった。
「えぇ!!!! 【織姫】と【彦星】、いるの!?!!?」
「やっぱり、ユミナについてきて良かった!」
「会いたい!」
ブッシュ、アクイローネ、リズムはスコーピオンに詰め寄る。かなり食い気味だった。
「【織姫】と【彦星】を迎えるのは分かった。でも何故2人が血相を変えていたのか分からないな〜」
「実はね、【織姫】と【彦星】は星霊王の娘と息子なのよ」
スコーピオンからの衝撃の真実。
「はぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!! あのクソジジイの子どもぉおおおお!!!!!!」
ブッシュ、アクイローネ、リズムは首を傾げハテナマーク。だが私や全従者で共有されているブラックリスト上位に君臨している星霊王の名前を聞き、発狂してしまった。
因みに”クソ”と呼ばれているのは後にも先にも星霊王、ただ1人である。今でも夢で私を嘲笑うジジイの顔が浮かぶのよ、悪夢......死すべし
「ハァ〜 やる気失くした。地上に戻して......」
「ハァ〜 ユミナちゃんの気持ちは100億%理解しているわ。でもね、安心して」
「安心できるかぁあああ!!!!! あのクソ野郎の子どもなんて厄介しかないじゃん」
「ハァ〜 ユミナ様。スコーピオンの言葉は間違っていません。【織姫】と【彦星】は常識人です。あのクソがおかしいだけです」
「サジタリウスまで言うなら......まぁ、信じてみますか」
怒りは鎮静化された。だがまだ油断はできない。警戒は怠らない。
「【織姫】と【彦星】はね、それぞれ宇宙を航海しているのよ」
「ヘェ〜 宇宙を航海か......」
「リリス様の命で別の惑星に棲む生命体とコンタクトを取り、集めた情報をリリス様に報告が2人のお仕事なのよ」
「リリス様なら自分で情報収集は朝飯前だと思ったけど」
「それがそうもいかないのよ......原因はクソジジイのせい」
「あーなるほど......」
「クソジジイの数々の悪行を幼少の頃から見てきた2人は、このままじゃダメ人間になってしまう。焦燥感に駆られ、リリス様に仕事をさせてください、と直談判したのよ」
「中々ガッツがある2人ね。少し好感が持てる。それでリリス様の為に宇宙を航海してるのか」
「強制家出ね。ただリリス様から約束事を取り交わしたの」
「”約束事”?」
「7月7日に惑星:オニキスに帰還すること。そして一家団欒で過ごすこと。これがリリス様が【織姫】と【彦星】と交わした約束」
「なるほどね。徐々に分かって来たわ。で、」
「”で”とは?」
「どうして2人だけ迎えに行くのよ」
「宇宙を航海している【織姫】と【彦星】が安全に惑星:オニキスへ帰還するには私とサジタリウスの黄道スキルが必要なのよ。後ユミナちゃんの【新時代の万有引力】。この三つを用意しないとダメなのよ」
スコーピオンが言い終わった時にカプセルは終着点まで到達した。
カプセルから降りた私たち。無重力空間なので少し私たちの身体は浮いていた。
「ねぇ、ユミナ」
「何、アクイローネ」
「ここ何処?」
「元星霊基地:コンステレイ・ステーション」
「え〜っと。2人の元住処?」
スコーピオンとサジタリウスはアクイローネの質問にうなづく。つまり肯定。
星霊基地はSFで登場する宇宙基地の内部を彷彿とさせる造りとなっている。
外を見るリズム。
「ねぇ、ユミナ。あれ何?」
宇宙に漂う衛星に指を指していた。
「私専用の巨大人工衛星:アレキサンドライトよ。宇宙から私に仇なすがある者を狙い撃ち♪ で、人工衛星とドッキングしているのがスペースシャトル:アメジストだよ〜」
初めての宇宙。初めての宇宙基地。平然と宇宙を漂う友人専用の衛星とシャトルに3人の脳はショートしていた。
準備を進める私たち。と言っても私はスキルを発動。スコーピオンとサジタリウスも黄道スキルを発動するだけ。
「それじゃあ、やりますか。準備はOK」
「いつでも〜」
「大丈夫です」
星刻の錫杖を装備。
「【新時代の万有引力】!」
「黄道スキル:【こと座】、発動」
「黄道スキル:【わし座】、発動」
本来なら他人のスキル同士は融合しない。でも、条件が揃った時に訪れる特殊モーション。三つのスキルが融合。
星々が散りばられた神秘的な渦が誕生した。
数秒もしない内に中から音が聞こえる。足音だった。
渦から出てきた宇宙服を着た男女。
宇宙服を脱いだ2人。同時に2人の頭上にネームが表示された。
【彦星】は黒髪に紫色のメッシュが入った爽やか長身イケメン。【織姫】は薄緑のメッシュが入った白に近いブロンドのロングヘアーの大人っぽい女性。
2人を見た率直な感想。
『あのクソジジイと似てねぇ!!? だった』
きっと奥さんの遺伝子が強かったんだろうな。
【彦星】は私の方へ歩いてくる。
「初めまして。当代の星霜の女王。私は彦星と申します」
丁寧でカッコいい。決してカッコ付けない普段から礼儀正しい真っ直ぐな青年の印象を受けた。
「初めまして。妹の織姫と申します」
心を撃ち抜かれた気分だ。オニキス・オンラインで色々な女性を見て来た私だから言える。織姫さん、マジ神! アイドルになったら天下取れますよ! 私が保証します!!
彦星と織姫がスコーピオンとサジタリウスへ。
「二人とも元気だった」
「えぇ、いつも通りよ」
「特に変わりなく過ごしています」
「リリス様から聞いたわ。色々と大変だったと」
「大変でしたが、今は幸せですよ」
そう言ったスコーピオンは薬指の指輪を前に出す。
「最愛の人と結婚できたから♡」
サジタリウスも嵌めている指輪を二人に見せる。
「生涯の忠誠はユミナ様に誓いました♡」
スコーピオンとサジタリウスの幸せな表情を目撃して微笑む彦星と織姫。
「良かったよ」
「お幸せに」
彦星と織姫が辺りを見回す。
「所であの人は......」
「まさかすっぽかしたとか言わないわよね、あの人」
あー二人も星霊王に思うところがあるのね。自然と父親を”あの人”呼ばわりしてる。しかも若干嫌悪感を出していた。
「特別室でお待ちですよ」
彦星と織姫が歩き出す瞬間に星霊基地:コンステレイ・ステーションが揺れた。
「敵?」
宇宙に漂う雲。
白一色で風船がひねられた全身、バルーンアートに近いかな。黄色の瞳。紫の唇は人々を嘲笑しているようだった。両腕を上へ振り上げ、仰ぐようなモーションを繰り出す。その影響で星霊基地:コンステレイ・ステーションが揺れていた。
「毎回こうなる運命だね」
彦星が少し呆れていた。
「本当にしつこいわね」
怒りMAXの織姫。
「二人は星霊王と会って来てください」
「ユミナさん......」
「家族とは会える時に会わないといけません......失った時に初めて気づきます。もっと会っておけば良かったと。今しかないのだから......」
「「ありがとうございます」」
二人はその場を後にした。
「で、スコーピオン。アイツ何?」
「彦星と織姫がオニキスに戻ってくる時に必ず出現するモンスター。7月7日になると雨を降らして二人の帰省を邪魔する悪い奴。家族団欒中は私たち星霊が対処していたのよ」
「絶滅しないんだ」
「実は雲に見える見た目は全て宇宙ゴミで形成されている集合体型モンスターです。時間経過で宇宙ゴミを集めて仲間を召喚します」
「隕石のモンスターで広範囲攻撃が得意。仲間を呼ぶ能力アリ。雨を降らす特殊効果付き、極め付けは戦闘フォールドが宇宙空間。まぁ、サクッと倒しますか! 3人も加わる?」
各々武器を取る。
「「「勿論!!」」」
こうして私、サジタリウス、スコーピオン、アクイローネ、ブッシュ、リズムでパーティーを組み、《デブリ・メテオール・レーヒゥンセイズーン》との戦闘を開始したのだった。
後日、クソジジイから久しぶりに子ども達に会えた感謝としてクソなイタズラを私たちに仕掛けてきた。勿論私たちは怒涛憤怒。総動員してクソジジイを葬ろうと断行したのは明白の事実だった。




