「ねぇ、カプリコーン。前に言わなかった!」
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無数の足音が地下道に響く。
カプリコーンと100名のアグネス女学園の生徒だった。
カプリコーンは先頭ではなく、後方を走っていた。理由はある。敵が牢屋の状況を見れば追いかけてくる。自分が迎え撃つ為に後方にいる。では前方は?
カプリコーンは生徒を調査していた。中には【監督生】や【生徒会】メンバーに肩を並べれる生徒もいた。幸運にも100名の中に実力者が複数名存在していた。彼女たちと作戦を考え、前方を任せた。
各々の武器は学園にある。が、今は携帯していない。いくら実力者であっても丸腰では太刀打ちできない。だが捕まった者たちの中にカプリコーンがいた。ウラニアの指輪から武器を取り出し、生徒に提供した。
走り続けるが違和感があった。進んでも出口がない。
複雑な道ではない。薄暗いが一本道の洞窟内。
走っても走っても辿りつかない出口。誰かに監視されている気配。
嫌な予感がする。カプリコーンの直感は直ぐに来た。
後ろから二人現れる。レイチェル・ライラックとシャリー・エラーブル。
二人の姿を見て、歓喜する生徒たち。中には二人の方へ歩き出そうとする者もいた。
だが、カプリコーンが静止させた。
カプリコーンは熾星の細剣を構える。
「やはり、お二人は既に......」
空中で立位体前屈姿勢になり、背中から水の身体を持った怪物が生えてきた。
生徒たちの歓喜は悲鳴に変わる。
襲いかかる【願き者の源水】。迎え撃つカプリコーン。
「なるほど。コイツらが攻撃中、他部位の防御力が下がっている」
数回の戦闘で敵の弱点を見つけ出したカプリコーン。
「加えて、【炎聖の帝王】」
シャリー・エラーブルの【願き者の源水】に直撃した突き技。内部まで到達した熾星の細剣。
水が蒸発していく。蒸発したことで【願き者の源水】の水状の身体が減少していく。
「アナタが耐えれない火属性の攻撃を与えれば、戦闘に使う分の水エネルギーも減る」
カプリコーンが次攻撃を繰り出す瞬間に———
『きゃあああぁぁぁぁぁっ!』
複数の少女の悲鳴が響く。後ろを見ると。
「なんで......」
言葉を失うカプリコーン。
先の光景。水の触手が無数。生徒が次々捕獲されていった。
戦う者もいた。だが敢えなく敗れ、触手に捕獲された。
「やめろぉぉおおおお!!!」
絶叫と同時に2体の【願き者の源水】を倒す。触手が群がる方向へ駆けた。
斬った。斬り続けた。四方八方向かってくる触手を。
生き残っている生徒を守りながら。
「ッ!!?」
身体に触手が絡みつく。振り解こうとするがより一層触手がまとわりつく。巻き付かれた触手が鞭のように動く。風を切り、触手は宙を舞う。勢いのまま地面に叩き付けられた。
「がっ」
水触手は相手の生死関係なく暴れた。地面に、壁に。何度も......何度も..................
「......ハァ、ハァ...ハァ......」
カプリコーンの呼吸は荒くなっていた。【山羊の執星】に傷はない。が、土などが大量に付着していた。
「みんなを......解放しろ」
今尚生徒を捕まえる仕草を見せていた水触手が全て停止した。
「私が代わりに捕まる。私の命を好きにしろ」
ジリジリと近づく水触手。全部カプリコーンに集まっていく。下にいる生徒と目を合わせる。
生徒たちはカプリコーンの意図を理解し、涙を流しながら走り去った。
全員ではないが逃がした。後は私が時間を稼ぐ。
カプリコーンは自分を犠牲に多くの人間を救った。
悔いはない。ただ......最後にもう一度、自分が愛した人に会いたかった——————
「ユミナ様......」
飛んでくる触手は束になった。水触手が迫る。獲物を狩る獰猛な肉食動物のように。
ガラスが割れる音。ガラス片が宙を彩る。
「【天照神】!!」
束に纏まっていた水触手が一気に蒸発し出す。灼熱の拳が直撃する。
カプリコーンは目を見開く。
「ッ!?」
「ねぇ、カプリコーン。前に言わなかった!」
拳から双剣に切り替える。
「【海女神】!!」
カプリコーンを拘束していた触手は綺麗に細切れになった。再生は出来ず、敵にエネルギーを奪われた。
落下するカプリコーンを少女は抱き抱えられていた。
桃髪に赤と緑のオッドアイ、カプリコーンに勇気をくれた大切な人。
少女は着地する。
「『自分の命を大切にしなさい!!』、って」
カプリコーンは呆然と主を見る事しか出来ない。
「............ご主人様」
少女はカプリコーンに顔を向けて笑顔で言った。
「頑張ったね、後は任せて」
カプリコーンを端に置くユミナ。
再び婥約水月剣を装備。
「よくも人の女を辱めたな、覚悟しろよ」




