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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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099「王都侵入(1)」

 翌朝早く、まだ朝焼けが始まる頃に起き、すぐにも行動開始する。


 その前に朝一番のミーティングで、オレが向こうで得た情報を伝える。

 マリアさんたちにもすでに大まかな事情は個人情報抜きで話してあったので、情報の出処で変に疑われたりすることもない。


 それでも情報は完全には程遠いので、まずは先発でボクっ娘がヴァイスで近くまで飛んで空中から偵察する。

 残りはその間王都への距離をつめて、少しでも近づいておく。


 昨日魔物をかなり倒していたおかげか、道中に魔物に出会うことは殆どなかった。一度少数の魔物との遭遇戦があったが、戦力差は歴然としていたので一蹴出来た。

 このため道中確保の必要性はないだろうと結論し、マリアさんたちもそのまま王都まで進む事になる。


 そして午前8時くらいに、レナが俺たちに合流する。巨大な鷲がすぐ側に降り立つ様は、その風圧もさることながらかなりの迫力がある。


「王都はどうだったー!」


「トカゲはいなかったー!」


 ここでヴァイスが側に降り立ったので、地上組が近づく。


「マジかー。『帝国』兵は?」


「わざと王都の高い建物が残っている辺りまで降りてみたけど、攻撃されるどころか影も形もなし。港に無事な船もなかったよ」


「他には?」


「アンデッドは強そうなのは見かけず。魔物は王都内にちらほら。でも、王宮は遠目に見ただけだから」


「リョーカイ。じゃあ、王都に入るまでは空からの見張りよろしく」


「オーキードーキー!」


 そう言うと再び飛び立ち始めるので、慌てて離れる。

 そしてヴァイスは、今度はオレたちの少し前を中心にゆっくりと旋回するように飛行する。

 城壁のある王都前までこの警戒を行って、その後はヴァイスを単独で安全な場所に行かせて、レナは合流することになっている。


 そして小一時間も進むと、ちょうど目印になる大きめの木があったので、そこでボクっ娘と合流する。

 しかし巨人鷲のヴァイスはそこで安全圏に向けて飛ばしてしまい、一応飛び去ったように偽装する。

 地上を乗ってきた馬からもそこで降りるが、つないだりせずにその場に残す。


 マリアさんの乗っている騎龍はCランクに相当する魔物な上にかなり頭が良く、番犬や牧羊犬のように馬の番をすることができるし、馬を連れて逃げたり馬を守ったりもしてくれるからだ。

 おかげで、安心して馬を置いておくことができる。ぶっちゃけ、一般兵より頼りになるそうだ。


 そしてそこから30分ほどかけて慎重に徒歩で進むと、王都の外周を囲む深い堀と城壁へ到着する。



「まったく出迎えなしとは、逆に不気味だな」


 全員の盾として一番前を進むジョージさんが、王都の外周の堀を前にして呟く。

 他の者もある程度間隔を開けて続くが、『帝国』兵が待ち伏せている可能性が高そうな城門とそこに繋がる石造りの橋が眼前に広がっている。


 橋は岩で頑丈に作られているので、先だっての戦争でも落されることはなかった。

 けど、城門の方は半壊して門扉もない。

 城門近辺の城壁も、激しい戦いがあったことを伝えるように、そこかしこが壊れたり焦げたりしている。


「近くに生物も魔力も反応なし。隠蔽や妨害されてないならって前提になりますけど」


「めぼしい亡者もいないわ」


 魔法使いのサキさんが、周辺を探る探知魔法で確認する。同じくハルカさんが、神官の魔法でアンデッド探知を行う。

 結局、弓や魔法で援護する体制で、二回に分かれて一気に王都内へと入る事にする。


 もっとも、堀にかかる石造りの橋も城門も何事もなく渡ることができた。

 『帝国』はすでに用を済ませてしまったのか、オレたちの事を考慮しなくても良い状態なのか、それとももう構っている場合ではないのか。考えられる可能性は色々ある。

 しかし、妨害がないのは事実なので、ここで小さな問題が発生した。


「オレら道中の確保って事になったけど、このまま王宮まで行けんじゃね?」


「まあ、ラスボスに戦力集中ってのもセオリーの一つだしな」


「油断禁物。後で退路断たれたらどうするの。『帝国』兵がいなくても、魔物やアンデッドはいるし、前も酷い目にあったのに」


「そうね。本当に何も出なかったらそのまま進むけど、私達はあくまで道中確保の優先でいきましょう。退路の確保は重要よ。それとハルカたちは、間に入って戦力温存忘れないでね」


「うん。頼むわね」


 マリアさん達4人の会話だけで話は決まり、覚えている限りの情報を頼りに進む。

 基本的にジョージさんを全体の前衛として、広範囲魔法や飛び道具を警戒して密集しすぎない陣形で、斥候担当のレンさんが少し前で探りながら進む。


 一国の都と言っても人口1万人ほどの街だったので、現代の日本の街並みに慣れているオレたちの感覚では、それほど大きくは感じない。道幅も狭い。


 それでも各所に堀や運河があるので、空間や間隔はかなり広く取られている。

 木造建造物は全て焼け落ちているが、石や煉瓦で壁を作っている建造物が多いので、町の原型はほぼ保たれていた。視界もそれほど開けていない。


 目指すべき場所は王宮と決まっているので、余計な寄り道さえしなければ、城門から大通りを数百メートル進めば貴族街の城門へと差し掛かる。


 そしてその先さらに200メートルほど進めば王宮だ。

 そして貴族街に行く手前に街の広場あって、石造りの凱旋門のようなものも見られる。


 街の構造は、基本的に十字路で作られていて、 街の外周の城門からまっすぐに王宮へと伸びている。

 湖に面した小高い場所にある王宮は城門をくぐる前から見えており、立派な石造りの威容は落城しても十分形を留めていた。



「ズンっ!」


 街の中央広場まで進んだ時、かなり大きな地響きがした。

 発生源は、いまだ偉容を保っている広場前の神殿。

 王宮の次に大きな建物で、パッと見た限りはそれほど大きな被害は出ていないように見える。


 それでも広場に面した大きな正面扉は焼け落ちているので、街を覆った大火事で中は焼けてしまっていると思われる。

 しかしこの時重要なのは、その神殿の正門から地響きを響かせるほど大きな固まりが出てきた事だった。


「おおっ、ボスキャラだぜ!」


「神殿内は魔力遮断できるから、何かいると思ってた」


「場所から考えると中ボスですね」


「やっぱり、素直に通してはくれないみたいね」


 ジョージさんの言葉を皮切りに、マリアさん達が共通の認識を言葉で確認する。

 こう言うところも、チームワークがとれていると思える。


「けど、あれくらいなら何とでもなるな。めっちゃ中途半端なドラゾンだ。魔力が低いし、気配がアンデッドのくせに全然腐ってないぞ」


「じゃ、いっちょうやりますか」


 神殿から出てきた翼の片方がなくて、各所が不自然に折れ曲がったりしているドラゴンゾンビに、すぐにもマリアさん達が臨戦態勢にはいる。

 オレたちも同時に臨戦態勢へと入ろうとするが、マリアさんに軽く手で制される。


「ハルカたちは先に進む。これが作戦でしょ」


「けど、全員で一気に倒せば、全員王宮に行けるわよ」


「あいつだけって保証はないでしょ。突入までに魔力の消耗は避けるべきよ」


「分かった。じゃあ軽く一発お見舞いしておくから、あと任せるわね」


「任されたわ」


 言うなり、ハルカさんはマジックミサイルの準備を始める。

 連携して、同じ呪文が使えるマリアさんとサキさんも魔法の準備に入る。

 さらに弓を主武装にしているボクっ娘とレンさんが弓を引き絞る。


「一斉射撃の後、ボクを先頭に一気に走るよ」


「見届け人が前に出てどうするんですか」


「ボクはこの装備で足が遅いから、合わせてもらう為さ」


 オレの言葉に陽気に返すアクセルさんだけど、確かに歩調は合わせる方がいいかもしれない。

 周囲を見ると、うなずくなり視線を向けて同意している。そしてマリアさんたちと目があうと、特に男組が元気な笑みを浮かべる。

 けどそこで終わらず、続いて軽く二人で視線を交わす。


「なあ、この次俺が言ってもいいか?」


「あっ、俺も言いたいかも。でも、忙しいから今回は譲るよ」


「では遠慮なく。……『ここはオレ達に任せて先に行け。なあに、すぐに追いつくさ!』 一回言ってみたかったんだよなー」


 それらしい仕草で満足げに台詞を言い終えると、ジョージさんは上機嫌だ。言い終えると、やり遂げた感の笑顔でサムズアップもしている。

 そしてここは応えねばならないだろう。


「ああっ、必ず追いついてこいよ!」


「おっ、返答せんきゅー! 任せとけ、兄弟!」


 ジョージさんがめっちゃ嬉しそうな表情だ。

 オレへの呼び方まで変わっていて、こっちまで笑ってしまう。


「何言ってるのよ。私たち、追いついちゃダメでしょう」


「しかもそれ、確か『死亡フラグ』ってヤツよね。バカジョージ」


 魔法を準備しつつ、マリアさんとサキさんが呆れ返えっている。

 それにジョージさんを返そうとした刹那、一気にマジックミサイルと矢がドラゴンゾンビに殺到する。


 威力マックスのマジックミサイルが11本に、魔力の込められた特殊な矢が2本、それぞれ軌跡を引きながらドラゴンゾンビの大きな体の各所に突き刺さる。

 普通ならそれで倒せそうなものだけど意外に元気で、死んでいるのに凄く痛そうな絶叫をあげてのたうっている。


「なあ、これで倒せたらちょっと笑うよなー」


「だな。でも、流石に無理っぽいぞ」


「ドラゾンは、体力お化けが多いって言いますからね」


「さあ、今のうちに叩くわよ!」


「「おっしゃー」」


 そんな言葉を聞きながら、一気に大広場の脇を駆け抜けて行く。

 確かに倒すのは無理だったみたいだけど、大ダメージを受けているのは間違いない。

 相手が人や人程度の大きさの魔物なら10体以上倒せる打撃を受けて、のたうち回っている。

 早くも体の一部が崩れだしたりもしている。


 それでも倒れないのだから、ドラグーンだった時の飛龍より強いんじゃないかと思える。けど、倒すのではなく退路確保が最優先で不必要に頑張らない事も確認してあるので、任せておいても大丈夫だろう。

 それよりも、オレたちの方こそこれから気合いを入れるべきだ。


 戦闘の音を背中に聞きながら、オレたちは一気に駆けた。

 広場の方では派手な炎が巻き起こっているのが分かったが、ドラゴンはゾンビ化したら炎は吐けなくなるし、そもそも飛龍は炎は吐けないので、マリアさんの魔法剣だろう。

 その証拠に、ドラゴンゾンビが痛そうな叫び声を上げている。


 その間オレたちは神殿のある広場を抜けて堀を超えると、すぐにも間取りの大きい貴族街に入る。そしてその先に、昼間だというのに王宮が不気味に鎮座している。


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