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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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091「再前進(1)」

「呆れた。偵察が終わったからって、そのまま戦闘してくるなんて」


「えーっ。トカゲ野郎を4匹も落としてきたんだよ。大戦果だよ」


「本末転倒じゃないの?」


「空中哨戒の網は確実に粗くなってる筈だから、ボク的には十分な成果もあったと思うけどな。ここには連中の拠点とかないだろうから、増援や補充は無理な筈だし」


 戻って早々、ハルカさんとボクっ娘の応酬がしばらく続くが、ハルカさんは言葉に反して非難というより心配しての事だ。

 それは顔や態度、声色を見ていれば分かる。それでも注意せざるを得ないのが、真面目キャラのハルカさんだ。


「それも一理あるね。レナの予想通り10騎も龍騎兵がいて、何も分からないまま行ってたら、追いかけまわされて近づけなかっただろう」


「それにしても、ドラゴン10体に特殊部隊か。『帝国』軍は、あの王宮によほどのお宝があると見てるのね。それとも魔女の亡霊自体が目的なのかしら」


 屋敷での報告には、ハルカさんとアクセルさん以外にマリアさんも加わっている。

 他の3人は、呼び集めている『ダブル』たちが到着した時に備えて、村の方で待機している。


「とにかく急いだ方がいいでしょうね」


「そうかな? ボクはしばらくトカゲ狩りに精を出そうと思ってたんだけど。3日もあれば、空を丸裸にして悠々乗り込めるよ」


「そう簡単にいくわけないでしょう。相手は『帝国』軍よ」


「でもさ、今日の奴らは大したことなかったよ」


 ボクっ娘の何でもないといいたげな言葉に、マリアさんが目を丸くしている。

 アクセルさんも、笑顔のポーカーフェイスが少し崩れていた。


「『帝国』軍のドラグーンを大したことないって、凄いわね。ちなみに、今までの空中戦の……えーっと、撃墜数は?」


「トカゲの撃墜数なら、今日の分入れて野良のやつ込みで12。全部中型の飛龍ね。『帝国』軍のトカゲは初めてだったけど、意外に弱くてちょっと拍子抜け」


「その数って撃墜王エースとかじゃないの?」


「ノヴァの認定だと、5機でエース、10機でダブルエース。これでボクもダブルエースだよ」


「けどそれって、証拠がいるんでしょう」


「本当は龍石やツノとか欲しいけど、空中戦はこのマジックアイテムに相手した魔物の魔石の反応が自動登録されるからノープロブレム。そういや、飛龍の死体回収してるだろうなぁ。バラせば高く売れるのに」


 首もとから、小さなプレートの付いたネックレスを取り出して見せ、そのままトントンとテーブルを軽くネックレス本体のふちを机で小突いて少し残念そうにしている。


「レナは恐れを知らないね。何にせよ、ボクも急ぐのに一票だ」


「ショウから見てどうだった?」


 ハルカさんから突然ふられたが、オレはあれが初体験だし他に比較対象もないので思ったままを口にした。


「ホントに不意打ちであっという間。一方的だったな」


「空の戦いは、不意打ちの一撃離脱が一番効率いいからね」


 そう言って、ボクっ娘がない胸を反らす。


「次は待ち構えているだろうから、もう不意打ち無理でしょう」


「その代わり、こっちを待ち伏せする為に高い空に位置するだろうから、地上にまで目がいかないよ」


「何にせよ、準備して前進になるわね」


 ハルカさんのその言葉で、出発を急ぐことになった。

 とはいえ、陸路だと最短で2日はかかるので、空からの偵察は1日お休みにして、明日の朝から陸路での前進を開始することになる。


 すでにアクセルさんの方は、王都周辺の魔物鎮定のための兵士は集めて準備も進めているので、明日でも十分に対応できる。

 しかも既に一部の補給物資を載せた馬車とかは、先発して進んでいるそうだ。

 アクセルさんは仕事が早い。


 一方マリアさん達『ダブル』の方だけど、今日も何人か到着する予定なので一度村に様子を見に行くことにする。

 ボクっ娘はヴァイスの世話、アクセルさんは明日の準備など、ハルカさんは今日いっぱい血と体力の回復に努める為に静養続行になったので、マリアさんにはオレが同行する。

 その道すがらの事だった。


「ねえショウ君、ハルカとの関係、聞いてもいいかしら?」


「関係? 一応先に言っときますけど、男女関係ならないですよ。従者ってのも、オレが最初に大怪我した時に癒しやすくする為だったし」


 最初にいらない事を言われない様にしたのだけど、マリアさんの視線と表情は逃してくれそうに無かった。


「鵜呑みにしろと? ちょっと年寄りっぽい言い方だけど、若い男女二人が一ヶ月以上も一緒に旅をしてるのに?」


「それりゃハルカさん綺麗だし頼りになるし、今以上に仲良くなれればとは思うけど、なんていうか、恩人だから」


「その言葉を信じてあげるなら、君はかなりの律義者。それと朴念仁ね」


「違いますよ。ただのヘタレです」


 と、オレ的には冗談と真面目を半分ずつ込めて返してみた。

 そうすると一応社交辞令で笑ってくれた。


「まあ、紳士な人と思っておくわ。ハルカも頼りにしているみたいだし」


「頼りにしているのはオレの方ですよ。こっちに来てから面倒見てもらいっぱなしで、どうやって恩を返せばいいかって悩むほどだし」


「けど、ハルカから聞いたけど、ハルカの秘密も知ってるんでしょ」


 探るような視線だ。なるほど、だから関係とか聞いてきたのだ。しかし逆にオレも思うところがある。


「あ、マリアさんも知ってたんですね」


「どちらかと言えば、それはこちらのセリフよ。知り合って2か月も経ってないんでしょう」


 少し呆れた感じの声色だ。


「ですね。けど、すげー濃い毎日な気がします」


「そりゃ、この辺の村を巡って魔物を掃除して回ってれば、そうなるでしょう。この辺じゃ、けっこう有名になってるわよ」


「え? マジっすか」


 特に自分の情報に興味がなかったので、これはちょっと驚きだ。思わず素に戻ってしまう。


「マジよ。村の治療と魔物退治して回る慈善家とか、こっちの神官でも普通ありえないわよ。どこの聖女様って感じね。

 だから、ちょっと離れていた私の耳にまで入ってきて、何しているのかを仕事のついでに様子見に来たのよ」


「そう、なんだ。ハルカさんはけっこう普通っぽくしてたのに」


「まあ、ハルカはここの領主やこの国に恩義があるからじゃないかしら。で、ハルカの物好きに無条件で従ってる君も、相当だと私は思うわ」


「良い事してるんだから、別に問題ないでしょう」


「稼いだり出世したりに興味ないの?」


 こっちを見て話しかけてくるが、興味深いと言うより確認をする感じだ。


「稼ぐのはともかく、こっちで出世とかしてもなあ」


「要するに脳筋系ってこと?」


「まあ、そう思っててくれればいいですよ」


「ふーん。けど、そんな淡白だと、いつかドロップアウトするわよ。ハルカの側にずっといる気なら、もっとこの世界に対してガッついた方がいいんじゃない?」


 そうだった。この世界での成すべきことがないと、一定の年齢が来たら強制ドロップアウトになってしまう。

 軽く焦ったオレの顔を、マリアさんは興味深そうに見てくるが、それ以上何かを言ってくれそうにない。



 そしてそのまま沈黙している間に、村の中心部に出た。

 噴水のある広場には、レンさんたちと他見知らぬ人が数人いる。


「マリアさん、話があるんだけど」


「全然集まってないわね。そのこと?」


「ええ。どうにも『帝国』軍の噂が出回り始めているらしくて、尻込みする奴が続出で。こいつらも、断りのためにわざわざ来てくれて」


 その言葉にマリアさんが、小さくため息をつく。


「多少は覚悟してたけど、無理ないわよね。わざわざ来てくれただけでもありがとう。今日の宿代はこちらで持つから、気にしないで」


「ありがとうございます。あの、王都以外でのモンスター狩りくらいなら、懸賞金出るなら加わっても構わないんだけど」


「なるほど、その手もあるか。あとで領主に聞いてみるわ」


 そこで少し間が空いたので「あのー」と小さく手を挙げる。

 全員の注目が集まったを見計らって聞いてみた。


「『帝国』軍ってそこまでヤバい奴らなのか?」


「当たり前だろ。てか、あんた誰? 新入り?」


「いいえ、違うわ。彼は今回の協力者よ。それと『帝国』軍相手にすでに一戦、いや二戦やらかしてきた人でもあるわね」


 「マジか」と、3人いたオレにとっての新顔の人たちが驚いている。

 そして軽く説明すると、ほとんどドン引きしていた。


「あんたは色んな意味ですごいんだろうけど、オレら無理だから。悪いな」


「まあ、オレは構わないですけど、マリアさんたちは大丈夫なんですか?」


「私はハルカが行くというなら協力するわよ。その為に来たようなものだし」


「俺らも、ハルカさんには治してもらった恩があるから、できる限りはさせてもらうぜ。それに出来るならリベンジしたいしな」


 マリアさん達の返事はブレがない。


「ありがとうございます。けど、作戦と戦力見積もりを考え直さないといけませんね」


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