表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/118

069「滅びた都への道(1)」

 オレの『アナザー・スカイ』復帰から三日後、ようやくノール王国の王都ウルズを目指す旅が始まった。

 三日もかかったのは、オレの身体が本調子になるまで待ったのと、旅の準備を整えるのに意外に時間がかかったからだ。


 アクセルさんは世話好きなのか心配性なのか、色々なものを用意してくれたし、わざわざ取り寄せてくれたものもあった。

 中には高価な魔法の治癒薬まであった。


 そしてアクセルさんの屋敷で過ごした3日間だけど、今までの巡察の旅と比べると格段に快適だった。

 衣食住は全部向こうからやって来る状態で、一瞬にして退屈な日常になったほどだ。


 そこで調子を取り戻すため、体を色々と動かしてみたり、ハルカさん、アクセルさんと剣の稽古もしたりした。

 そしてアクセルさんには、爽やかな笑顔でかなりボコボコにされてしまった。

 ハルカさんと二人掛かりでも、対等にすらならなかった。


 と言ってもアクセルさんは領主なので、朝食と夕食、そして少しの時間の稽古以外は姿を見せず、オレとハルカさんはほぼ今まで通り二人きりで過ごした。

 それにアクセルさんが妙に気を回してくれたせいか、使用人の人も必要最小限でしか接触しない。



「なんか、せっかく戻って来たのに、一気に退屈な日常になったなー」


 言いつつ、椅子の背もたれに「ぐーっ」と倒れかかって身を反らす。

 そんなオレをハルカさんが呆れた様に見ている。


「巡察中も移動中はたいてい暇だったでしょ」


「そうかもだけど、移動すらしてないんだから違うと思うな」


「そうかもね。けどショウは、まだ本調子じゃない筈だから、ちゃんと静養してなさい」


 二人して部屋でくつろいでいるが、オレが『アナザー・スカイ』に復帰してから、ハルカさんのオレへの態度は少し変わったように思えた。

 単に「君」付けしなくなっただけでなく、さらに二人の間の距離が縮まったと思うのはオレの願望上の感想だ。


 とはいえ、今はこうして一緒の部屋でくつろいでいるが、眠る部屋は別々になっているので、むしろ物理的な距離は開いたと言えるかもしれない。


 そんな事を思いつつ、カップを口にあてながら彼女の様子をうかがう。

 彼女はオレの対面で、この世界ではまだ珍しいというコーヒーを美味しそうに口にている。


「? どうしたの?」


「改めて思うと、カワイイ女子とのんびりお茶してるのが夢みたいだなーって」


「そう? ただの夢なら、今飲んでるコーヒーの味もしないと思うけど」


 オレのカワイイ発言は完全スルー。まあ、彼女なら言われ慣れているからだろう。

 それにこうして彼女がお澄まし顔だと、距離は縮まったと思うのもオレの錯覚に思えて来る。

 けど今は、こうして再びハルカさんと何でもない話が出来るようになった事が素直に嬉しかった。



 一方、現実の方だけど、一時的に夢を見なくなった事は誤摩化して、巡察が終わってアクセルさんの屋敷に戻るも、ありきたりな日常が続いている事にした。

 そしてノール王国を目指すのは、アクセルさんからの調査依頼という事にしておいた。


 けど、何かを察したタクミにだけは、オレ以外の個人情報が関わるので話したくても話せない事があるとだけ伝えておいた。

 シズさんの話を聞いた天沢も巻き込む事になるので、タクミでも話せる筈もなかった。


 当然だけれど、ドロップアウトしかけた事についてはだんまりなので、天沢と二人だけの秘密も守られている。

 それ以外で、この一週間ほどは現実で事件らしい事件は無かった。

 常磐さんもといシズさんには、天沢からこれから始める旨を伝えておいてもらったくらいだろうか。




 そうして旅路へと就いたが、取りあえずは平穏で空を見るゆとりもあるが、そこはやはり異世界だった。


「あの鳥、なんか変じゃないか?」


 少し遠い場所に鷹か鷲が飛んでいる。

 羽の色は一般的な茶色じゃなくて、白か灰色だ。飛んでいるとかなり見つけ辛い。

 しかし違和感を感じたので、馬を横に並べてハルカさんに聞いてみたのだ。あっちのオレだったら気付かないか、見えていても違いが分からなかったと思うと尚更変に思えた。

 オレと同じくらいに視力はいいであろう彼女も、視線をオレが指差した先に向け、少し目をすぼめる。


「遠いわね」


「なのに、それほど小さく見えてないと思うんだ」


「普通の鷹や鷲じゃなくて、巨鷹おおたか巨鷲おおわしかも」


「ジャイアントイーグル? 疾風の騎士シュツルム・リッターの?」


 疾風の騎士は、巨鷲を駆るネット上で『ダブル』がなれる最もレアな職業の一つだと言われている。

 そしてハルカさんは、その存在を肯定していた。

 

「ええ。……神殿の伝書使かも」


「伝書使?」


「神殿が雇ってる、まあ郵便屋さん。イーグルより小柄のホークの方が多いわね」


「そういや、ネットでもそういうの見たな。本当にいるんだな」


「ええ、『ダブル』にもいるわよ。ノヴァに行けば、空中騎士団を作っている連中もいるくらい」


「へー、一回見てみたいな」


「そのうちね」


 遠くの巨鷲とやらは、オレたち気づくこともなくそのまま空に消えていった。

 そしてそんなのんびりとした会話をしながら、オレたちは旧ノール王国内を進んでいる。


 亡者と化した魔女がいるウルズへの旅だけど、行くのはオレとハルカさんだけだ。

 事情を聞いたアクセルさんは部下や従者共々、自らも調査を名目に同行を申し出てくれたが、彼らには村を治めそして守る義務などがあるので、主に彼女が丁重に断った。


 その代わり軍馬や旅の道具を揃えてくれた。

 また、アクセルさんからアースガルズ王国が調査を依頼したという体裁をとってもらうことにもなった。

 ただ、アクセルさんの国の中で書類のやりとりなどが必要なので、事後承諾という形になるので当面はあまり関係ない。


 また断った理由だけど、今回は様子見で行けるところまで行って状況を確認し、さらに必要な物などを確認するのが目的だからだ。そういう意味でも、調査というのは間違っていない。

 そしてそうしなければならないほど、いまだ混乱が続く旧ノール王国内は王都に近づけば近づくほど情報が少なかった。


 なお、ランドールを出て、そのままランドールが属するアースガルズ王国マルムスティーン辺境伯領を抜けるのは、馬で四半日程度しかかからない。

 平地沿いの街道沿いには幾つか小さな村が連なっているが、旧国境まで宿などのある村はない。


 そしてアースガルズを超える国境には、戦争中に作られた急造の小さな砦がある。今までは国の関所だけだったものだ。

 今はその先もアースガルズ王国の占領下、というか新たな領土になる。その向こうに見えているノール王国の関所は、戦争で焼け落ちてそのままだ。

 アースガルズ王国も、ノール王国と戦争をしていた何よりの証だ。


 そうした場所へのオレたちの表向きの旧ノール王国入りの目的は、アースガルズ王国が依頼した神殿としての現状把握だけど、書状などなくても特に疑う者はない。

 こういうところからも、神殿はかなりの影響力や社会的信用を持っている事がうかがえる。

 冒険者をしている『ダブル』からも、神官の同行が求められる理由の一つでもある。


 そしてハルカさんがかなり高位の神官で、アクセルさんがくれたマルムスティーン家の紋章入り身分証と通行証があるので、秩序が維持されている場所で通行を妨げられることはない。

 それどころか、道中の村や関所などでは情報が入手しやすかった。


 一方で、ハルカさんの身分に比べると同行者が少なすぎると心配され、場合によっては護衛を申し出たりされたりするほどだった。



 ちなみに、前の戦争で滅びたノール王国は小さな国で、総人口は10数万人。都市国家程度の規模しかない。

 オレたちの世界で言うスカンディナビア半島南部の一角にある国で、平地は少なく森と低高度の山、そして湖が国土の多くを占めている。このため人口に比べて、国土は意外に広い。


 王都ウルズは、この国最大の湖に面する一角にあり、古いが石造りの堅固な城と人口1万人ほどの城下街を形成していた。


 短い川で湖と外海が結ばれた交易の要衝で、水堀が城壁の前に深く掘られており、街の中にも水路がたくさん通っているので水の都としても知られていた。


 この世界は潮の満ち引きが大きいので、海に面した港町よりは少し内陸の利水の便がいい場所が、港町として好まれているので、この近辺ではかなり大きな港町でもあった。


 けど、北の山間部以外の三方を他国と隣接しており、先の戦争ではその3国とさらに海を越えた大陸の国や都市国家などと戦争を行っている。


 そして戦争で、国土の大半が荒廃して国は滅んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ