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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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051「ともだち(1)」

 風呂を終えると、強制睡眠が迫るハルカさんは、仮眠をとるため確保してくれていた民家へそそくさと行ってしまった。

 タイムリミットギリギリだから仕方ないが、ちょっと寂しい気がした。

 そしてふと気づいた。


「そういや、目的もなく一人って初めてかも」


 それで、何もしないのはあまりに手持ち無沙汰なので、残っていた兵士に話をつけて、とりあえず周囲の警戒のために村の周囲や近くの森の巡回に参加した。


 そして唐突に気づいた。


 考えてみると、この世界に来てから常に彼女が一緒で、彼女がオレをリードして、何をするのかを指示してくれていた。

 オレは、それに従い付いていくだけだ。何も分からないというのは言い訳でしかない。要するに、オレに主体性がないんだ。


 しかも彼女との出会いは単なる偶然だ。オレが神様とかに選ばれたり喚ばれたわけでは断じて無い。

 偶然ということが彼女の照れ隠しなどではないのは、この二週間の旅でも痛感させられた。

 たまたま彼女が、この辺りでモンスター退治までしていなければ、オレは初日でゴブリンに殺されてリタイアだ。


 他の『ダブル』はどうなのかはよく知らないけど、彼女がオレを見付けたのも本当に偶然だったのだろう。


 しかしオレは、この出会いは偶然ではなく必然だと思いたかった。

 単に美少女との友好的な出会いを喜んでいるのではなく、オレはこの世界に何かしらの目的や自らの役割のようなものがあると思いたかったからだ。

 だから初日でリタイアもしなかったのだ、と。


 漠然とそんな事を思っていたのを、今日目覚めて思い知らされた。要するにオレはしょーもないヤツのだ。



 昼も過ぎた頃、ちょっと鬱な事を思いつつ歩いていると、ちょうど街道に出たあたりで向こうから騎馬を含む一団がやって来るのが見えた。


 向こうもこちらを見つけたようで、先頭の遠目からでも他の人との違いが分る知り合ったばかりの人がいたので、手を振ってみた。

 向こうは立場上気軽な返事はしないが、こちらに目線を向けて小さくうなづいてくれた。

 そしてすぐにも近くまでやってくる。


「ご苦労様ですショウ殿。警備の巡回にまで加わっていただき、感謝します」


「手持ち無沙汰なだけですよ。それより、アクセルさんと皆さんもお疲れ様でした」


「何の。こちらは務めに過ぎません。ショウ殿の方こそ、概要は既にお聞きしました。たった2人で廃村一つの亡者を完全に鎮定までしてしまうとは、このアクセル感服です。

 それにこの度は突然の頼みを聞いていただき、本当に感謝の言葉もありません」


「凄いのはルカ様ですよ。オレは少しお手伝いしただけです」


 一緒に村に戻りながら、しばらくアクセルさんと外向け言葉で話す。

 そしてちょうどいいのでオレも村へと向かう道すがら、今回の事件の経緯をかいつまんで教えてもらった。


 この近くで三ヶ月ほど前に戦争があって、攻められた側の国は完全に滅び、攻め込んだ国の幾つかも攻め込んだ軍隊に大きな損害を受けて大混乱となった。

 すぐにも亡者や魔物が溢れて、滅ぼされた国を併合や合併することも出来なかったほどだった。


 国と言っても、この辺りの国の多くは人口は十数万人ほどで、現代日本なら地方自治体程度でしかない。江戸時代で言えばちょっと大きな大名程度だ。


 しかもいまだ原生林の多い辺境地域のため、極端に国が隣接しているわけではない。戦争相手の国の幾つかなどは、海の向こうから攻め寄せていた。


 それで二ヶ月前に、戦争の影響で溢れた難民、難民を狙う盗賊、盗賊化した敗残兵や難民、仕事にあぶれた野放しの傭兵、そして不安定化に伴って出現し始めた魔物を何とかするため、アースガルズ王国が「取り分」の領土併合の準備を進めるという理由もあって国境線の辺境部を鎮定した。


 それで安心と思っていたところに今回の事件だ。

 アクセルさんたちも、これほどの規模は珍しいらしく、また時間が無かったので苦戦を強いられたそうだ。


「そう言えば、お二人が鎮定した村の付近で非常に大きな爆発があったと聞き及びましたが」


「あれは、ルカ様が大規模な儀式魔法を使って起こしたものです。強力な爆発の魔法で村から溢れたアンデッドじゃなくて亡者を一掃しました」


「それは凄い。是非この目で見たかったですね。それで、ルカ様は村の中ですか?」


「さすがに魔力を消耗されたので、仮眠をとられています」


 オレの言葉に、後ろに続くアクセルさんの部下たちが驚き感心している。

 100体を一撃とか、普通は考えられないらしい。まあ、そうだろう。


 それにしても丁寧言葉でのやり取りはやりにくい。

 だから、村に入ってようやく他の人たちとは別れられると、ハルカさんの寝ている家まで様子を見に行くという口実でアクセルさんたちから離れた。


 家の者によると、まだ寝ているだろうとの事だ。だからそのまま居間で待たせてもらうことにしたところで、アクセルさんがやってきた。


「ルカ様のご様子は?」


「まだ就寝中です。多分、夕方くらいまで起きないのではないでしょうか」


 そう言うと、ほんの一瞬顔をしかめる。

 それを咎めようかとオレが視線を送ると、慌てた様に両手を胸の前で左右に振る。


「起きられていたら、部下の治癒をお願いしようと頼みに来ただけです。魔法は魔力を消耗しますから、十分休まれた後の方がよろしいでしょう」


「すいません。誤解しかけました」


「私の方こそ誤解を招く仕草をお見せてしまい申し訳ない。私もまだまだだ。……それではショウ殿、せっかくなので二人で少しお話ができませんか?」


 と、この家の主に視線を送る。

 そうすると、家の者は簡単な飲み物だけ置いて家の主は外へと出ていく。


 そして用意された椅子に、二人してどっかりと座り込む。アクセルさんもお疲れのようで、常に仕草が洗練されているのと違って今はかなり人間臭い。


「話って何ですか? オレ、こっちの事は何も知らないので、話せることもあんまりないと思うんですけど」


「単に私が少し休憩したかっただけだよ。口実にしてしまって申し訳ない」


「一人で休憩する方がいいんでは? 他人が居たら気使うでしょ」


「あちらの世界の方は、形式にこだわらないので利用させてもらったんだ。部屋で二人で話をしていると言えば、緊急時以外は従者や直近の部下も入って来ないからね」


「ああ、なるほど」


 オレが納得してると、アクセルさんはクスクスと笑う。


「ごめんごめん。けど、普通は納得するより不機嫌にならないかい?」


「いいえ、全然。それにオレも形式ばった言葉使いってやつ? アレ苦手なんで助かります」


「なるほど、ショウにも利益があったわけだ」


「なくても気にしませんよ。けど、そういう事にしときます」


 そう言うと本格的に笑い出した。

 正直、アクセルさんの笑いのツボが全然分からない。


「いや、ごめんごめん。この世界というかボクの周りは格式ばって形式ばって回りくどいから、すごく気持ちが楽なんだよ」


「騎士や貴族って、面倒くさそうですもんね」


「全くその通り。そうだショウ、唐突だけどボクと友人になってくれないかい?」


 本当に唐突だ。

 それ以前に、リアルで改まって友達になろうと言ってくるヤツなんていないので、軽く戸惑ってしまう。

 そうした感情が、顔に出ていたのだろう。


「ボクは本気だよ。少し話しただけだけど、ボクはショウのことをかなり気にっているんだ」


「ボクはまだアクセルさんの事あまり知りませんけど、いいですよ。これから仲良くなればいいだけですし。あー、理屈っぽいですね、ご免なさい」


 そんな言葉にも、アクセルさんは好意ありげに笑みを浮かべるだけだ。

 何か理由でもあるんだろうかとは思うけど、それは詮索する事でもないだろう。


「じゃあボクも少し理屈っぽく。そうだな、ショウは自分のことを全然誇らなかっただろ」


「そりゃあ、大したことしてませんから」


「大した事はしているよ。ルカが亡者の半分以上倒したと言ったけど、残りはショウが倒したんだろ。たった2人で数百体の亡者の相手なんて、普通聞いただけで逃げ出すよ」


「ハルカさんがいたから出来ただけですよ」


「うん。そうなのかもしれない。けどルカだって、ショウを信頼しているから、準備に時間のかかる大規模な儀式魔法が使えたんだ。ショウは、もう少し自分の事を評価していいと思うな」


 そうなのだろうかと、アクセルさんの顔を見ていると思えてくる。

 まあ、友達になるのに変な理屈はいらないし、オレもこの人の事は好きになれそうだから、それでいいと思う事にした。


「わかりました、そう思うようにします。あ、話逸れてましたけど、なりましょう友達に。けど、滅多に会えないだろうし……とりあえず文通でもしますか?」


 この世界でできそうな交流方法を提示したのに、アクセルさんがまた笑う。今度はかなり大きな声だ。


「ああ、済まない。こちらの世界で文のやり取りは、高貴な男女、特に若い男女の間でするものだけど、いいのかい?」


 思わず『げっ」という顔をしてしまう。本当にオレは何もかも知らなさすぎる。

 またアクセルさんは笑っている。


「とりあえず文通はなしで。そういう趣味はないんで」


「それは良かった、ボクにもないよ。それで我々には、友誼の証として何か同じものを交換するという風習があるんだけど、何かあるかな?」


 その言葉に少し戸惑う。

 何せオレは、物持ちじゃない。


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