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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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037「チュートリアルの終わり(1)」

「ショウの冒険は、相変わらずイベントだらけだなー」


 今日はオレの教室の前で待ち構えていたタクミの暢気な声が、旧校舎の廊下に響く。

 一緒に教室を出た天沢もいっしょで、数日前だと想像すらできなかった情景だった。

 もしかしたら、クラスメートが意味ありげに視線を向けているかもしれないとか、自意識過剰になってしまいそうになる。


「で、でも、神官戦士さんは大規模な儀式魔法使えるってホントに凄いね」


「えー、ボクは強制退場の話の方がショックだけどな。マジなのか?」


「マジだって。まあ、目覚めるかどうかは、今晩というか明日にならないと分からないけど」


「目覚めたら、かつての敵が友になる、みたいな展開になるかな?」


(タクミの中で、あの盗賊はどういう風に設定されてるんだ?)


「いや、ないだろ。ていうか、こっちからお断りだ、あんな奴」


「そんなに酷い人だったの?」


「女の子の髪引っ張るわ、マジで殺そうとするわ、ダメダメだろ」


「そ、それ酷い」


「確かにドン引きだなー」


「おい、『アナザー』リア充。話は部室でしてくれ」


 雑談も副部長のお言葉で中断。ただ、『アナザー』リア充はない。確かに美少女と一緒だけど、ハルカさん結構厳しいし。



 軽くご機嫌斜めになりつつ部室に入ると、相応に人数がいるのが目に入る。しかも口々に「昨日の夜はなにがあった」など聞いてくる。


「で、今日のお題はなんだ?」


 オレの件でリーダー格となっている鈴木副部長も容赦ない。


「お題はないでしょう。毎日ネタがあるみたいじゃないですか」


「けど、お前らのさっきの話し振りからしたら、あるんだろ?」


「まあ、ありますけど」


「なになに?」と他の部員数名も興味津々だ。


「えっと、昨日話した治癒の儀式魔法で、大勢の村人をいっぺんに癒しました。あと『帝国』があるって話が出て、……それから街道で盗賊に襲われたんですが、その中の一人がどうやら『ダブル』みたいでした」


「しかもそいつ悪事を働いたから、その場で世界から強制退場させられたんだってさ、ヤバいよな」


 タクミが間の手を入れると、強制退場で場が一気に盛り上がる。噂すら少ないネタだからだ。

 もしかしたら、タブーなネタだったのかも知れない。


 そんなこんなで今日も部員から根掘り葉掘り聞かれたわけだけど、話のネタはあったけどそろそろみんな慣れ始めていた。

 ようするに、タクミのような一部熱心な者以外は、そろそろ毎日でなくてもという雰囲気だ。

 よく見れば人数は減っている。


 そこで鈴木副部長の発案で、来週からオレから話を聞くのを希望者のみで週2回にしようということになった。

 そういえば今日は週末の金曜だ。


 タクミも反対するかと思ったが、強かなタクミは話の主導権を徐々に握って自分のバイトの日を外した曜日を指定する事に成功していた。

他の部員も、塾やバイトの都合がだいたいいい感じだったので、月曜と木曜の放課後に聞く事に決定した。当然だけど、オレの意思は介在していない。


 加えて、2ヶ月に一度、当面は内覧用の会報をとしてまとめることになる。第一号は、一学期の終業式までに発表予定だ。

 そしてオレは、その監修役を押し付けられた。


 それでも今日は意外に早く解放された。これもみんながマンネリ化を感じていたせいだろう。他者の妄想かもしれない独演会など、すぐに飽きてくるのは当たり前だ。



「やれやれだ」


「おっ、なんだ、主人公気取りか」


「えっ、なんで?」


「ホラ、昔のラノベに『やれやれ系主人公』っていただろ」


「オレがそんな奴なわけないだろ。話し疲れただけだよ」


「まあそうだな。お疲れ様。で、今から時間あるか?」


 野郎からデートのお誘い。当然拒絶だ。

 やる気のないように、手をヒラヒラしてやる。


「えー、こっちで『ダブル』探ししようぜ。何人か目星ついているし、もしかしたら連れ添ってる人も見つかるかもよ」


「『夢』で出会う人は近くにいる可能性が高い説か?」


「そうそう。今までもいくつも報告あがってるし、検証してみようぜ」


「嫌だよ。その説が正しかったら、昨日襲ってきた奴と会うかもしれないだろ」


「いやいや、それはない。近くにいる説は最初に出現する時限定だから」


 しかしオレは首をひねる。


「つまり神官戦士の人が、オレの近くに住んでるって言いたいんだろうけど、それはないな」


「なんでさ?」


「神官戦士の人は移動してばっかりで、たまたまオレの出現先に移動してきただけだからだ」


「そうかもしれないけど。なら、襲ってきた奴とも会わないんじゃないのか」


 まだ諦めきらめないらしい。ならば。


「タクミの説だと、数日前にオレと一緒に発病した奴が近くにいないと、探すだけ無駄だろ」


「そうかもしれないけど……分かった諦める。その代わり」


「その代わり?」


「土日のどっちか、できれば両方少し会えないか?」


「月曜日にみんなに話すからいいだろ。もう面倒だよ」


「えー、ショウのケチ」


 リアクション大きく抗議してくる。タクミは、オレが押しに弱いのを良く知っている。


「ケチ以前に、オレ得する事ないのに。……しゃーない」


「お、会ってくれるのか?」


「いや、何か大きな事件あったら、朝連絡する」


「おーけー。イベントなしでも連絡な」


 タクミには叶わない。奴の顔を見ると、これ以上は譲れないと書いてある。オーケーサインを出すしかないようだ。


 するとそこに、話すオレたちの横を天沢が通り過ぎて行く。すれ違い様にごく微かにオレに視線を送ってるのを、オレ様のアイボール・センサーは見逃さない。


「じゃあな。また来週」


「ちゃんと連絡くれよー」


 言いたい事は言うが、オレが天沢と一緒に帰る事には何も言わないでくれる。

 タクミはこの辺は出来た奴だ。まあ、オレより天沢の事を気遣ってだろうけど。


「なんか、待たせてた?」


「ううん。私も他の娘と話してたから」


 そう話す天沢だけど、今までは部員と話す事はあまりなかった筈だ。

 共通の話題が持てて話すようになったのなら、オレの『尋問』も多少は価値があるのかもしれないと思えた。


「なに話してたの?」


「週末、オレに会いたいって言い寄られた」


「仲いいね」


「間違っても、腐った方の婦女子が大好きな関係にはなりたくないけどなー」


 そういうと、天沢は顔を少し赤くする。

 自分で言っといてなんだけど、天沢が腐った婦女子の事が理解できるのは軽くショックだ。


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