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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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112「蘇生(2)」

「畏まりました。復帰を実行します。なお、復帰をもちまして、私は一旦休眠させていただきます。魔力回復次第再び目覚める事になりますが、今回は短時間で済むと考えられます」


 それだけ言うと沈黙し、黒キューブが強く輝きはじめる。

 まずは全ての面に彫り込まれていた文様が浮かび上がり、そこから光が増してどんどん広がる。

 光で包まれるとオレの手から少し浮き上がり、シズさんに光が伸びていって、シズさんが輝きだして徐々に淡い光に包まれいく。


 光は半径一メートルほどの球形をなし、シズさんを完全に包み込んでしまった。

 それは巨大な魔力の奔流で、輝きや動きから、これが本来の機能や能力なのだと自然に理解できた。

 色々疑問はあるが、クロの本来の能力は破壊ではなく創造なのだ。


 光の中では、徐々に実体を持つシルエットが形作られていく。

 最初は小さな点だった。それは少しずつ大きくなっていった。

 そしてそれが何なのかを理解した時、大きな驚きとある種の感動が体を突き抜けた。

 オレたちは、生命創造を見ていたからだ。

 しかし、生命創造であって生命誕生とは言い難かった。


 本来なら、映画やアニメで見たことあるような受精卵から成長する過程を超早送りのように成長するのを思い浮かべるが、光の中のシルエットから分かる光景は、いきなり成人の姿を創っていた。

 しかも骨格が形成され、それに徐々に肉がついていく感じだ。


 すべて光の中のシルエットなので細かいところは分からなかったが、それはそれで圧倒される光景だった。

 現実世界で直に目にするには、科学技術がもっと進んで人工的に人を産み出すような技術が開発されない限りあり得ないだろう。


 そしてやはり生命を作り出す光景なので、どこか荘厳で神秘的ですらあった。

 ただし、ファンタジー的かと言われると、どちらかといえばSF的情景なのだろう。



 そして光が収まると、一人の少女が静やかに立っていた。


「お帰りなさい」


「ああ、ただいま。……また、この空を生身で見る事が出来るとはな」


 シズさんが改めて、現実世界とは違う天を仰ぎ見る。当然というかマッパだ。服は用意されていなかった。

 まるでヴィーナスの誕生のようだとでも表現したくなるほど、清らかで生まれたてな感じがする。

 けど、それよりもオレの興味を引くものがあった。


「えっ? 耳と尻尾?」


「突っ込みたいのはボクも一緒だけど、ショウはあっち向く。ポリースメンに突き出すぞ」


「そうね。女の子の裸をガン見するなんてドン引き。多少は上がった好感度落ちまくりよ」


 ハルカさんとボクっ娘が、着ていたマントや上着を脱いでシズさんの体をおおっていく。

 オレの身体も、二人の視線に操られるかのように後ろ向きにさせられた。

 お約束で殴り飛ばさないだけマシだったけど。


「ああ、ゴメン、ゴメン。めっちゃ奇麗だからマジ見とれたよ。それより、耳と尻尾が……」


「何? ショウってケモナー?」


「違うけど気になるだろ。シズさんは、もともとそうだったんですか?」


「何の話だ? そういえば音の聞こえ方が少し変だな」


 そう言って本来の耳の場所に右手をやり、サッと顔色が変わる。

 そしてゆっくりと両手が頭の上へと上がっていき、とんがった獣っぽい耳へと至って、手と耳が両方反応してビクッと動く。

 そしてオレの言葉を思い出したのだろう、慌ててお尻の方へも手をやる。


 触れるや否や、こちらも尻尾が動いた。

 毛が逆立つようになっているので、相当驚いているのだろう。当人の顔色はさらに青くなった。

 しかも尻尾の数は1本ではない。


「な、なぜ? どう見えている?」


 そう言って、焦った顔で3人に順番に視線を向ける。

 ハルカさんは少し困り顔、ボクっ娘は面白いものを見つけた顔、オレはどんな顔をしているんだろうか。困惑していると思いたい。


「尻尾がまんま狐だね。耳も尻尾と同じ銀色っぽい黒だよ」


「目というか瞳も金色で瞳孔が縦長で獣っぽいです」


「なんか肌も色白で、天然の化粧した感じもあるよね。獣人より妖怪っぽいかも」


「一応聞くけど、元々は無かったものなのよね」


 言葉を聞きつつやや呆然としていたが、ハルカさんのごくまっとうな質問に、ようやく反応を示した。


「当たり前だろう。普通に人だ!」


「じゃあ、クロが間違えたとか?」


「間違えたで済むか!」


 だんだんとキレ始めている。ごもっともな感情だけど、何が原因なんだろう。


「じゃあ、クロが活動してた時代に召還された人の姿が、今のシズさんみたいなんじゃあ? 獣っぽい人型の種族がいたり、記録があったりってなかったか?」


「獣人は普通にいるわよ。獣度合いは色んなパターンがあるけど、狐の種族もいたし今のシズのパターンもいるわね」


「でも、尻尾って複数だったっけ?」


「能力や魔力の強い高位の種族や個人にいたわ。知り合いにいるもの」


「ハルカさん交友関係広いねー」


「ちなみに、その尻尾ってそれぞれ動かせますか?」


 オレがそう言うと、シズさんは困惑顔のまま意識を尻尾に集中する。

 そして数秒すると、最初はゆっくり一斉に動いていたものが、徐々に個別に動き始める。その数5本。

 バラバラに動いたおかげで、大きなフサフサの尻尾の数も正確に判明した。9本だったら伝説の妖怪になるところだった。


「色んな種族を見た事あるけど、尻尾5本は初めて見るわ」


「尾てい骨とかどうなってるんだろうな」


「確かに尻尾も気になるけど、私、前々から人に近い獣人の頭蓋骨の形に興味あったのよね。特に耳の付け根の辺り」


「うわー、シズさん器用だねー。触ってもいい?」


「ダメだ。こう言うお約束で、尻尾は敏感とかの設定があったらどうする!」


「……設定って。自分で確かめなさいよ」


 ハルカさんは妙にマニアックな事に興味を持ったようだけど、すぐに呆れ始めているのかジト目に近い。このオタクどもめとでも思っているのだろう。

 そして軽くため息をついた後、シズさんに真面目な目線を据える。


「シズ、とにかく肉体が戻っておめでとう。その体の事は、後で調べるか考えましょう。先に後始末と、獣人のシズがなぜこの場に増えているのかの言い訳考えないと」


「ハァ、確かにそうだな。とりあえず、無粋な魔導器にしては粋な計らいということにしておこう」


「それでいいんじゃない」


 ハルカさんとシズさんが短く笑いあう。それで雰囲気もほぐれた。


「けど、生まれたてみたいで、すっごくキレイ。お肌もちょースベスベ、羨ましい」


「ホント、思わず頬ずりしたくなるわね」


「あ、ボ〜クも」


「しているじゃないか。わっ、止めろ、どこを触ってる。止めろ、くすぐったい。だから、尻尾や耳に触るな! 肌よりそっちが目当てだろ!」


 三人の少女がじゃれる姿が、戦いの幕となった。

 オレは置いてけぼりだったけど。


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