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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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101 「王宮の間での戦闘(1)」

 王宮の間の中は、まるで空焚きのサウナのようだった。


松明のように燃える元人間だったものが何体もあるが、灼熱地獄というほど炎で満たされているわけではない。

 もともと、以前の火災で可燃物の殆どが燃え尽きている以上、基本的に燃えるものは人間くらいしか残っていない筈だった。


(つまり、魔力で強引に熱や炎を起こしているのか)


 そう思ったが少し違うようだ。


 部屋に入って分かったが、中の温度がかなりの高温だった。入ってすぐにも暑さで汗が噴き出してくる。

 鉄のスタッドが付いた革靴の底も、革の部分がシューっと音がして少し香ばしい匂いがした。


 さらに臭いが酷かった。

 いや、酷いという言い方は少し違う。

 何かの肉を焼く臭いがしているのだけど、その発生源が理解出来ると感情が拒絶して吐き気を催してしまう。

 その発生源となる元人間だった物が、すでに10体以上床に転がっていた。

 豆腐メンタルの頃だったら、この時点でグロッキーだっただろう。


 他にも亡者だったと思われる砕けた骨の固まりが、5つほどあった。骨と鎧、骨と燃えていない高価そうなローブがセットのものも幾つかある。


そして大きな広間全体が、サウナどころではなくオーブンのような感じになっていて、空気そのものが発火点に近いのだと分かった。

 さっきから、髪の毛の末端がチリチリと焦げているのも分かる。

 痛みを感じる体ではないが、露出している皮膚や喉がちりちりする感覚は感じられる。

 呼吸も少し辛い感じがする。


 中は大きな教会に近い構造の縦長の大きな空間を持つ大広間で、可燃物が全て燃え落ちているので黒こげで遺跡か廃墟一歩手前だった。


 そしてその部屋の中心に視線を据えると、さっきと同じようにファンタジーな格好をしたシズさんが冷静に戦闘をしていた。

 しかもシズさんを中心に魔法陣が常時4つ、それ以外にも別の魔法陣がその時々に浮かび上がっている。


 けど、彼女自身が激しく動いているのではない。

 彼女の周囲2メートルほどには、見えない力場のようなものがあって、恐らく『帝国』軍らしい十名近い兵隊達の激しい攻撃は、あまり意味をなしていなかった。

 剣や魔法が全て防がれているわけではないが、例え体に命中しても半透明の体を素通りするだけだった。


 それでも全く無駄ではなく、魔力で構成されたであろう体が攻撃されるたびに少しだけ煌めいているので、ダメージを与えているのだろう。

 しかし、なまじ無駄ではない事が、戦闘を続けている理由に見えた。


一方、シズさんが睨み付けたり、手を振るうとその都度巨大な火焔が起きたり、炎の槍が人を串刺したり、人が発火して断末魔の声を上げる暇もなく燃え盛る。

 兵隊達も炎の魔法に対する何かしらの防御方法を持っていて、防いだり弾いたりもしているが、空間全体を含めた火力が勝っていて防ぎきれていない。


 この空間自体が、炎の効果を高めるようになっているらしかった。


 一方で、高い効果を持つ魔力を込めて発動する魔法物品が使えるのは、基本的に魔力の恩恵を受ける一部の者だけだ。

 いかに『帝国』軍でも、精鋭全てをそうした魔力持ちで固めることは無理なようだ。

 魔石式の装備しか持たないような装備の劣る者は既に倒れている。


 そしてまた一人、炎に飲み込まれた。

 可燃物のない中で、どうやってこれだけの炎を作り出しているのか見当もつかない。

 この世界の魔法は、ファンタジーでお約束の地水火風の精霊とか魔法元素は、関係どころか存在しないとされている。


 魔法自体は、魔力だけを単純な力や力場として使う魔法、温度を操作する魔法、気圧を操作する魔法、癒しの魔法、知覚を拡大する魔法などに分けられる。

 それでも、魔力だけで炎や爆発などの現象は比較的簡単に作り出せるが、通常の自然現象、化学現象を起こす方が効率はずっといいらしい。


 そのことに気づいたのは『ダブル』の魔法使いたちで、研究の結果化学現象を組み込んだ「オリジナル・スペル」を生み出すなどの成果を出している。

 しかし温度を操作するだけで、これだけの火焔が作り出せるとしたら、それはすごすぎる事なのではないだろうか。

 この熱空間自体が圧倒的な魔力の産物と思うと、なおさら凄いと思える。



 気温の高さだけが原因でない汗をかきながらも、オレは柱など遮蔽をつたいながらシズさん、いや恐らく『魔女フレイア』に近づいた。

 そして大広間の二割ほど進んだ位置、あと十メートルほどで、『帝国』軍の後衛が陣取っている辺りで不意に『魔女フレイア』の目がオレを捉えた。

 そして軽く、あまりにも気軽に右手を挙げる。


「思ったより遅かったな」


 まるで現実世界で待ち合わせでもしていたかのような気軽さだった。

 口元には微笑みすら浮かんでいるように思える。

 あまりの場違いさにオレが呆然としていると、シズさん、いや『魔女フレイア』である筈の者が続ける。


「どうした、私だ。……フム。今の私の姿はあちらとは随分違うのかな? まあ、少し待っていてくれ。すぐに戦闘を終わらせて説明するよ」


(いやいやいや、その日常過ぎる穏やかな態度が、マジ洒落になりません)


 オレがドン引きしている間にも、見る間にまた一人が生ける松明となった。


「まあ、確かに暴走してるのかもな」


 辛うじてそれだけ呟くと、とにかく初志貫徹する事にした。

 『帝国』兵には悪いが、シズさんと戦うのならいつでも出来ることだ。


「し、フレイアさんなんですね。今助けます。待っていてください!」


「ああ、済まないな。それは助かる。では、後ろのヤツらを頼むよ。そっちにまで、なかなか手が回らなくてな。それとショウの少し後ろにいる3人は味方でいいのかな?」


 全部お見通しだ。しかも二人のやり取りで、オレたちも『帝国』兵にみとがめられた。魔女と会話している時点で敵認定確実だろう。

 そしてシズさんもしくは魔女の言葉に反応して、すぐにも後ろから隠れ気味に近づいてきていた3人も並び互いに目配せする。


「まずは『帝国』兵を倒そう。ヤツらには悪いが、状況を整理しないとまともな話しになりそうにない」


「そうね。じゃあ私は右を」


「いや、私が真ん中、ショウが右、あとは臨機応変でいこう。ルカとレナさんは、後ろで支援を頼みたい。ルカ、そういう約束だろ」


 前衛に出たがるハルカさんに華麗にウインクすると、アクセルさんが鎧の重さを感じさせず風のように駆け出す。

 一瞬遅れてオレも違う方へと突進する。後ろでは、ハルカさんが支援のための魔法に集中するのも分かった。

 それよりも早く、ボクっ娘の矢が魔法の煌めきを引きつつ左奥の敵へと吸い込まれていく。


 オレの相手はいわゆる魔法使いっぽいやつだったので、切り結ぶのは簡単だった。

 もう人と戦う事にも躊躇ちゅうちょはなかったので、ハルカさんの援護魔法でおなじみの防御魔法『防殻』をもらうと、自分の防御を気にせず大上段から一気にいった。


 そして既にこちらを振り向いていた『帝国』魔導兵とでも言うべき相手だけど、基本的に後ろからの攻撃に備えがなかった。

 また、武器らしい武器も持っていなかったようなので、オレの動きに能動的な対応が出来ていなかった。


 それでも何かの魔法を咄嗟に放ってきたが、避けられる魔法だったので何とか回避し、すぐに体勢を立て直して一気に剣を振り下ろす。

 そして防御魔法の一種らしい防護壁か結界のようなものの中から動けないらしく、オレの黒く輝く両手直剣がまともに捉えた。


 床に描かれたサークルの延長線上で一度障害物に当たったような感触はあったが、予想した大きな衝撃や衝突はなく抵抗はごく僅かだった。

 だから余計な勢いが付いたまま、一気に丈夫そうなマントごと中の肉体を切り裂いた。


 生き物の肉と骨を断つ鈍い感覚がオレの両手を捉えたが、今は気にせず一気に下まで振り下ろす。

 すると相手は、そのまま人の形すら保てない状態で崩れていった。魔法の防護壁のようなものもは、オレの剣が接触した段階で消えていたみたいだ。


 隣では、アクセルさんがオレの相手と同じような姿の敵を、防護壁ごと華麗に一撃で胸の真ん中を貫き通していた。

 何度か稽古で手合わせして思ったが、やっぱりスゴイ腕と力の持ち主だ。

 自慢の剣は先端部が輝いて見えるが、自身で魔力を込めているのか、武器に魔法が封じられているのだろう。


 ただ、オレの時に無かった何か固いものを砕く音が、少しばかり気にかかった。それに防護壁が消えるか崩れるパターンも違う。

 敵が使っていた魔法が違うのだろうし、どうやらアクセルさんの相手の方が強いのだろう。


 また一番遠くにいた魔法使いっぽい敵には、ボクっ娘の矢が続けざまに殺到する。

 それでも1発目は魔法の防護壁のようなもので防がれたが、そのすぐ後ろを2射目が追いかけるように射掛けられ、剣など弾く手段を持たない敵を見事射抜いた。

 しかもさらに3射が追い打ちをかける。


 全てが一瞬に近く、フォローのため待機していたハルカさんの魔法も必要なかった。

 ヴァイスがいなくても強いのは確からしい。

 しかしこちらも、敵の防護壁の崩れ方がオレのとは違っていた。


 その間、ボクっ娘の相手も魔法で反撃をしていたが、ハルカさんが一時的な物理的な壁を作り出す魔法で、完全に防御できていた。


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