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信長物語  作者: 楠乃小玉
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二人の約束

今回も織田信康と青山信昌の話です。


 ある時の事である。

 吉法師が父である信秀を鼻で笑った。

 怒った信秀が懲らしめてやろうと隣の部屋にいる吉法師の処に走り込もうとしたが、

 部屋の境に文机が置いてあり、それを乗り越えた時に障子に桟に顔をぶつけてうずくまった。

 吉法師は逃げてしまった。

 それを聞きつけた弟の信康が那古野城にやってきた。

 信長は高価な蒔絵を施した障子に錦絵に金箔を張り付けた刀の鞘でついたてをして信康が

 入ってこれないようにした。

 すると信康は躊躇なく障子を刀で切り裂いて部屋に入ってきた。

 まさか高価な障子を台無しにするとは思っていなかった吉法師が目を丸くしていると

 「長幼の序は国のもとい決して疎かにするものではないぞ!」

 と大声で怒鳴った。これには吉法師もしょんぼりするしかなかった。

 「まあ、まあ、このような高価な障子をもったいない」

 騒ぎを聞きつけた女房たちがやってきて、その有様を見ながら呆れていた。

 「なあに、教えを疎かにして国を傾けることを思えば、障子のごとき安いものじゃ。

 敵に攻め取られれば障子もくそも無くなる」

 信康はそう言って平気な顔をしていた。

 「こ、これは我が殿が大変な粗相をいたしまして、すべてはこの青山の責にてございまする。

 どうかこの青山を罰してください」

 青山与三右衛門が部屋に走り込んできて信康の前に平伏した。

 「ほう、いい家臣を持っておるの、吉、大事にいたせ」

 そう言って信康は部屋を出て行った。 

 「殿、怖かったでございましょう。遅参いたしたること、なにとぞお許しくださいませ」

 「そなたは悪くない、我が短慮であった」

 「おお、そこまで領分をおわきまえになるとは、さすが殿は聡明にございまするな」

 青山がそう言うと吉法師は口をとがらせて何もいわず、あらぬ方向の一点を凝視しつづけた。

 青山もそちらの方向を見る。

 「なにか見えまするか」

 「……」

 吉法師は自分が悪いことをした事が分かっているのに

 青山がやたら褒めるのが居心地が悪いだけだった。

 しかし、青山は何かにつけて吉法師のやることを深読みしようとする。

 「もしや、この方角は京の都。おお、天下を見据えておいでか」

 青山が大きな声をあげた。

 「うむ」

 吉法師が答えた。答えておかないと、そのあとも色々連想してうっとおしいことが

 分かっていたからだ。

 「やはり、殿は聡明なお方じゃ、なんたる吉祥、我は天下人の家臣でござる」

 「ああ、うっとおしい、そとに出るぞ」

 吉法師はその場を出た。

 「ああ、そうでございますな、お部屋を片付けなくては。

 そこな女房ども、早々に部屋をか片付けるがよい」

 青山は吉法師のあとについていった。

 吉法師と青山が出かける後を小者が釣り竿とと針と魚籠をもって追う。

 しばらくしてエサをもってもう一人小者が追いつく。

 青山と吉法師が出かけるとなれば、いつも釣りと決まっていたからだ。

 出かけてしまた手前、吉法師も浜に行って釣りをしたが、

 信康に怒鳴られたのがシャクでずっと上の空だった。

 「疲れた。帰るぞ」

 吉法師がそう言うと青山が少し狼狽する。

 「おお、お疲れでございましたか、これは気がつかず、申し訳ございませぬ」

 そう言うと青山が吉法師の前に回り込んでしゃがんだ。

 どうぞ、某のお背中を。

 「何だ」

 「おんぶでございまする」

 「……いい、べつにそのようなこと」

 吉法師がそう言うと青山の顔が曇る。

 「某では役不足でございましょうや」

 「そういう意味ではない。ああ、面倒だ、乗る乗る」

 そう言うと、吉法師は青山の背中に乗った。

 青山が吉法師をおぶってとぼとぼと那古野にむかって歩いて行く。

 「あと何年、こうやって殿を背負うて歩くことができることでしょう」

 「そなたは武辺ゆえ何年でも担げようが我がはずかしいわ」

 「ならば、此度はまことに良い機会を賜りました」

 「であるか」

 「はい」

 青山は吉法師をおぶってとぼとぼと歩いて行く。

 その後ろを小者たちがついてゆく。

 遠くの方にかすかに山が見える。

 「じい、あの山はなんという」

 「恵那のお山でござる」

 「ではあの山は御嶽でございましょう」

 「その山の向こうには何があるのだ」

 「さて、じいはあのような遠くには行った事がございませぬゆえ」

 「ならば、我がいずれ連れて行ってやる。先だって熱田で大きな船を見たのだ。

  鉄で大きな船を作って異国にも行くぞ」

 「ははは、それは剛気じゃ、じいは楽しみにしておりますぞ」

 「そなた、鉄で船を作ると言うても我を嘲笑せぬのか」

 「殿の事でございます。何かしら深いお考えがおありなのでしょう」

 「うむ、試しに熱田の鍛冶に小さな船を作らせたのだ。船の中に空洞の筒を作れば

  鉄でも水に浮くぞ。何も試さずに大人どもは我の言うことを嘲笑しよる」

 「まこと、殿は立派な殿様でございまする」

 「我はよくも賢き家臣をもって果報者じゃ」

 「これは恐れ多きことでございまする」

 夕暮れ時、笑顔の二人の顔が赤く染まっていた。

 


熱田の湊は織田信秀の家の大きな財源でした。

この他にも熱田の副港として大江湊を持っていました。

吉法師がよく釣りに行く山崎の岩場は大江湊を守る防衛上の拠点です。

現在は干拓が進み、山崎は完全に陸地になっていますが、

今でもその小山は現存しており、お寺と神社があります。

 その小山には小さな砦が建てられており、佐久間信盛がそこを大幅に改築して山崎城を建てます。

 その城があった場所の横には今でも佐久間信盛が建立した神社があります。

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