第二百七十二話 多蛇
ちょくちょく出てくる教団。
『あなたのことを麓で見たという話が出ておりまして』
『ふむ?それはおかしいな。我はここ三百年くらいはこの火口からは出ておらんのだが』
おや? ということは麓に居たのはこのドラゴンではない? というか三百年とはねえ。
『えーと、麓にドラゴンが出たと騒ぎになっておりまして』
『少なくとも我や我が眷属の仕業ではないな』
メテオレインさんの言うことには、この火口から動いてないし、卵を産む様なこともしてないそうだ。というか、メテオレインさんみたいな上位竜と呼ばれる存在は子どもを作ったりしないそうだ。
肉体が朽ちるのはあるが、肉体を再生する為に卵を産む事はあるそうだが、オスとかメスとかそういう性別すら超越してるらしい。雌雄同体、イトウくん(カタツムリ)かな?
「キュー、キュー、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫」
「あれはヤバいよ。勝てるイメージが全くわかない。兄弟子や師匠でも多分無理。どうしようか」
「あ、うん、多分あの竜が犯人じゃないし」
「えっ、でもドラゴンなんだから」
タオには私がメテオレインさんとお話をしてる事はわかってないもんなあ。なんと説明すればいいのか。
『そこの娘に伝えるにはパスが足りんからな。どれ、お主は面白い精神構造しておるからそれを利用してやるか』
私の頭の中に何かを差し込まれた気がした。隣にいるタオから感情が流れ込んでくる。不安、決意、恐怖。
『はぁ!? 何これ!? キューの気持ちが伝わってくる! ええと、困惑? 恐怖とかないの?』
『ふむ、そろそろ良かろう。キューとやらの精神構造を利用してお主に話し掛けておる。火竜、メテオレインだ』
『ふぇ!? メテオレインって神竜って呼ばれた五竜の一角!?』
どうやらタオはメテオレインさんのことを知っているらしい。知っている、と言っても物語の主役としてみたいな話だ。古の神竜。この世界の昔話としてまことしやかに語られる。数々の国を滅ぼした魔獣と争いそれを退けたと。
『ふむ、あの戦いは確かに苛烈であった。まあ今となっては懐かしさしか感じんがな』
『本当のことだったんですね』
『昔の話だ。それより麓で見たというドラゴンの話だが』
そうでした。というかそれを解決する為にここに来た訳だけど。
『そもそも他の五竜の仲間はここには近付かんだろうし、眷属も同様だ。例え火竜たる我の眷属であろうと火口に我がいる限り、近寄れんのだ』
『でも麓にはドラゴンが出たって』
『ふむ、我には関与してないことながら、責任は感じるな。だが同族が入ってくれば挨拶くらいはあるし、挨拶をしなくとも精神波くらいは伝わってくるぞ』
ドラゴンが麓に来ればメテオレインにはわかる。でも麓での目撃談はあるのにメテオレインは把握してない。ということは麓で見たというドラゴンは偽物? いや、それを確認する為に私たちが派遣された訳だけど。
『じゃあとりあえず私らは麓をうろついてみますね』
『ふむ。そうしてくれると助かる。何か入り用なものがあれば我に出来ることであれば協力するが?』
伝説のドラゴンさんの協力ねえ。いやまあ相手がわかんないとなんとも言えないんだよね。
『それはまた相手がわかってからってことで。あ、パスはこのままでいいですか?』
『ふむ、そちらのタオという娘はともかくお主には女神様のパスが繋がっておるからな。容易くアクセス出来るというものよ』
うむ、たまにはあの創造神様もいい仕事をするものだ。私らはメテオレインさんの前を辞して素直に山を降りた。
「キュー、なんで火竜様と話せたの?」
「波長があったからじゃないかな?知らんけど」
「まあそりゃあそうだよね。高次生命体の考えることなんてわかんないか」
その意見には激しく同意しよう。さて、ということは相手は少なくともドラゴンではないということ。それを冒険者ギルドに伝えたところで「じゃあなんなんだ」って言われるだけだから正体を突き止めるまでは帰れないよね。
という事で山の麓で野宿です。と言ってもご飯は私のアイテムボックスにあるのでキャンプ飯では無いけどね。あ、今日は帰らないよ。冒険者ギルドの依頼を受けてる状態だから屋敷に帰ってられないんだよ。タオ一人になっちゃうし。
とりあえず夜の見張りは二人ともなんかあったら起きるでしょ、みたいな謎の信頼感があったので二人とも就寝。夜半に二人して目が覚めた時はお互いにやっぱりねっておもったよ。
さて、その目が覚めた理由だけど、何か大きなものが身体を引きずる様にして歩いている様な音だ。いや、歩くという表現すら合ってるのか疑わしい。大蛇、みたいな感じかな?
私とタオは気配の方向に向かった。目の前にいたのは巨大な蛇。頭はひーふーみー、八つかな? あ、ヤマタノオロチってやつ? 八洲神話かな?
「ヒドラ!?」
「知ってるの、タオ?」
「うん、かつて師匠に聞いたことがある。頭が多数ある蛇の化け物で、全ての頭を同時に潰さないと倒せないで再生するって」
「その師匠、《闘仙》のジジイはどうしたわけ?」
「師匠は分身して全部潰したって」
話を聞いてるだけで頭がおかしくなりそう。というか分身とか出来るの、あのジジイ?
しかし、こんなところにヒドラなんて化け物が何の脈絡も無く出てくるのはおかしくないかな? いや、火竜は山頂の火口にいるけど。もしかしてこのヒドラはチャレンジャー?
「むっ? 目撃者か? しまったなあ。これは消さねばならんか」
そんな声が聞こえた。見ると灰色のローブを着た男たちがそこに居た。もしかして、こいつら、教団の関係者かな?
「ここなら火竜を恐れて近寄らないと思っていたのですが。随分と命知らずがいたものですね」
「貴方は何者?」
「答える義理はありませんが、何も知らずにこのままヒドラの餌になるのも可愛そうですからね。私は教団の使徒、《灰蛇》。ヒドラを調教してるところですよ。以後お見知りおきを。おっとヒドラの腹に今からおさまるのですからお見知りおきは出来ませんねえ」




