魔女(episode271)
本当に諾子さんは何をやったのか。
「という訳で一億ドル必要になったんだけど」
「どういう事かな?」
「一億ドルですか。パラソルでもすぐに動かすのは……いえ、パパが動けば何とか」
社交界参加組が口々に言う。やっぱり一億ドルとか大金だよね。とか思ってたらサクヤちゃん。
「えー、それって現金? 小切手じゃダメなの? 結構重いよ?」
「一億ドルだから一トンくらいじゃない? もちろん容れ物も必要だからそれの何十倍とかになるだろうけど」
無理! いや、アイテムボックスに入れれば何とかなるけど、それは「積もう、肘の高さまで」とかいうレベルじゃないよ! 私は単純に「一億ドルなら一万ドルが一枚一グラム程度だから十キログラムくらいかな」って思ってたけど、一万ドル札ってのは無くて、百ドルが紙幣の最高額なんだってさ。いや、知らんがな! まあ、金貨の上に白金貨とかあったからそういうのがあるかと思ってたんだけど。
「どうしよう、サクヤちゃん」
「うーん、小切手でも良ければ簡単じゃない? 何せ四季咲の小切手だよ? 意味合いは現金とほぼ同じだって」
栄枯盛衰、盛者必衰、驕る平家も久しからず。望月は欠けるもの。もちづきさんは食べる人。最後のは関係ないか。まあ、あれだよね。世の中の権勢が移り変わろうとも四季咲の権力はあのジジイが生きてる限りは大丈夫。まあ、ちょっと前は死にかけてたけど。
とりあえず、現金は百万ドルほどにしといて、残りは小切手でいこうということになりました。とりあえずサクヤちゃんも着いてきたいと言うので同行を許しました。
ヴァニィさん、ジョキャニーヤさん、メアリー嬢、アンネマリーはお留守番。アンネマリーはゆっくり休みたいとか言ってたな。まあとりあえず手に持ってる酒瓶は置いとけ。
ジョキャニーヤさんを連れて行かないのはまあなんかあった時に殺戮の宴を始めそうだから。いやいや! メアリー嬢のボディガードだからね! ほら、パラソルグループのお嬢様がマフィアと繋がりがあるとか分かったらヤバいし。
そうそう、ノストーラってのはマフィアなんだそうな。元は移民の互助組織みたいなものだったけど犯罪に手を染めるようになったとか。まあ綺麗事だけじゃやっていけないよね。
「来たか。アンネマリー女史の顔が見えんようだが?」
アンネマリーならお家でお酒飲んでますとは言えない。まあ今回はアンネマリーは特に要らないからね。
「お初にお目にかかります。古森沢サクヤと申します」
「新顔だな。お前もフルモリサワか」
「はい、古森沢では末端ですが」
それを聞いてあからさまに顔を顰めるハワードさん。
「どういうつもりだ? 妖世川を不参加にして取るに足らない木っ端を入れたのか? 貴様らワシを舐めているのか?」
ギラギラした目を向けてくる。当然ながら威圧込みだ。サクヤちゃんは……平然としている。ジジイで慣れてんのかな? いや、あのジジイが身内にそんな視線向けるわきゃねえか。
「随分と手荒な歓迎ですね」
「ふん、ビビらん程の胆力は持ち合わせて居るようだな。まあいい。それで金はどうした?」
私らがジェラルミンケース一つしか持ってないことを訝しんで来た。いやまあ確かに一億ドルはここには入り切らないけど。
「こちらは現金の百万ドルです」
「百万ドルで我慢しろというのか?」
「そうではありません。現実的な重さとしてこれくらいの量が持ち運べる限界ですね。ほら、私たちか弱い乙女なので」
まあガンマが居るからもっと運べるとは思うけど、ガンマは重いもの持ちたくないとか言ってたことあるからなあ。
「なるほどなあ。ならば足りん分はお前たちの身体で支払ってもらうということか?」
「まさかあ。それならティアお姉様一人でお釣りが来ちゃうじゃないですか」
なぜ私? というかサクヤちゃん、私を売り飛ばす気なの? 自分たちはノータッチ? あ、いや、もしかしたらボディのメリハリのせい? いやまあ確かにアンネマリー居ないから一番のおっぱいは私だけども。
「ふむ、ジョークを言える余裕はあるか。では残りは?」
「どうぞ」
そう言ってサクヤちゃんは小切手を取り出した。そしてそこに金額を書き込む。ワンハンドレッドミリオンダラー。つまり、一億ドルだ。
「はい、どうぞ」
「小切手だと? たかだか八洲のフルモリサワごときのモノがこのステイツで通用するとでも……」
言いながら固まるハワードさん。驚愕の表情でサクヤちゃんを見る。そんなに見つめちゃイヤイヤってやつかな?
「四季咲の小切手、だと? しかもこれは一族にしか許されないというプラチナチケット! お、お前は、一体……」
「私の母は古森沢諾子。旧姓は四季咲諾子です」
「! 四季咲の魔女!? ま、まさか、結婚して子どもまでいたなど。いや待て、あの女の遺伝子が後世に残るだと? ダメだ、ダメだダメだ! ステイツが勝てるわけが無い!」
あれれー? おーかしーぞー? なんか諾子さんの名前を聞いたらハワードさんがブルブル震えている。あの、もしかして、今になって八洲侵攻とか言い出したの、諾子さんが確認出来なくなったからだったり? 本当に何やったの、あの人?
「お分かりいただけましたか? ご覧の通り四季咲の支払い保証済みです。現金と同様と考えていただいても良いですよね?」
「ひっ!? いや、いや、こっ、こちらの非礼は謝る。金額もこの百万ドルだけで構わない。だから、だから努努報復などは……」
「いやだなあ。四季咲はきちんと約束は守りますよ。これはビジネスなんですから。ご安心を」
金を出す方がニコニコしてて、金を受け取る方がガクブルしている。いや、この子、確かにあのジジイの孫娘だわ。正直、この子が四季咲の後釜に座った方が上手くいくんじゃないかな?
そんなこんなで小切手を無理やり受け取らせ、以後、八洲への侵攻協力はしないということ、ゲオルグへの報復に助力する事を約束させてハワードのところを後にした。




