巣穴(episode265)
やっぱりスキンヘッドだよね、ボスは。
横殴りにいきなり吹っ飛んだ男にびっくりしたのか、チンピラその二は焦ってナイフを出した。いや、風槌はそれじゃあ防げまい。
一人欠けたから残りは四人。ナイフを持ってるこの男がリーダーなんだろうか。ナイフを持ってない方の手で何やらハンドサインを送っている。訓練されてなくてもこれくらいのことは出来るみたい。まあ割とぶっつけ本番でも何とかなりそうだけどね。
一人が左から、二人が右から回り込んで来ようとする。右のうちの一人は後ろに回って来ようとしてるのかもしれない、ナイフを持ってるのは一人だけみたいだ。みんなに持たせとけよ。
まず左に移動していた一人がこっちに向かってきた。とりあえず降りかかる火の粉は払わねばなるまい。まあ一人くらいなら体術で何とかなるし。足を引っ掛けて転かせたところに顔面に膝蹴りをかました。
「ぶぎゃっ」
小さく悲鳴をあげてその男はその場に蹲った。通行の邪魔じゃない? 鼻血まで出てるし早く病院連れてったら?
「シット! 良くも仲間を!」
よくもとか言うくらいなら最初からけしかけてくんなよとしか言えないのだが、まあナイフの男がけしかけたので、言ったやつとは別なんだが。
そのシット君は右から後ろに回り込もうとしていたみたいで、移動中だったんだけど、私があっさり左側を処理したから後ろに回れなくなって向かって来た。
この様に半包囲状態で包囲が完成されてない場合は絶好の各個撃破の機会となるって銀河の歴史の一ページに刻まれてると思う。いや、戦力差がそもそも違うんだけど。
まあ向かって来たなら包囲が崩れるというか包囲を諦めたってことだし、別にいいよね。私は向かってくるやつの顎に石を飛ばしてヒットさせた。よし、ピンポイント石弾!
向かって来たやつはそのままガクンと膝から崩れ落ちた。本当に足に力が入らなくて膝が落ちてそのまま前に倒れるんだなあってちょっと感動。いや、そういう感じで殺られるのはあるあるだけどね。
「次はどっち?」
「ひっ!?」
ナイフを持ってない方のやつが懐からなにか取り出した。黒くて光るパスポート、いや、コルトでは無いと思うけど。どっちかというとサタデーナイトスペシャル? まあ五十ドルくらいで買えちゃうような粗悪品だろうと思う。撃てりゃいいってか? いや、この場合はもしもの時の護身用に持ってただけかも。なお、サタデーナイトスペシャルってのは粗製濫造されたもの全般を指すので銃の形が決まってるわけではない。
「ああ、銃ね。多分無駄だと思うけどやってみる?」
「バカにしやがって、バカにしやがって、バカにしやがって!」
ガクガク腕を震わせながらこちらに銃口を向ける。いや、そんなガタガタだと照準合わなくない? 暴発には注意だけどまず当たらないし。
「うわぁー!」
「〈龍水防御〉」
銃口から放たれたはずの銃弾は私に届くことなく水の壁に流された。まあ念の為にね。ちなみに放っておいても当たってなかったと思うよ。
「なんなんだ、なんなんだよ、お前ェ!?」
「なんだかんだと聞かれたならば答えてあげるが世の情け」
「ロケット団!?」
おお、さすがは世界に冠たるピカ〇ュウ。米連邦でも大人気だ。いや、ロケット団ちゃうけど。
「まあとりあえずそのまま寝てて」
石弾を腹に撃ち込む。ちょっと胃の内容物がリバースしかけたけど不可抗力だよね。
「さて、残るはあんただけね」
「へ、へへっ、俺に手を出そうってのか?」
「手を出せない理由でも?」
「ああ、そうだ! 俺はなあ、この辺り一帯を締めてるギャングの構成員、いや、幹部だ! どうだ、怖いだろう?」
ギャングの構成員ごときを恐れる私では無いし、そもそもギャングというのが何を指してるのかすらあまり把握してない。ロケット団とは違うんだよね?
「ふーん、じゃああんたらのボスのところに案内してくれない?」
「はあ? ボスに何の用だよ。殺されたいのか?」
「いや、ナイフ持ってるあなたに言われてもねえ。それに銃撃ったりで殺しに来てたでしょ? 殺していいのは殺される覚悟がある人だけだよ?」
いや、殺される覚悟があっても殺しはまずいと思うんだが、私のいた世界は盗賊とかになるなら自分の生命は捨ててるってのが多かったからね。
「てめぇ、後悔すんぞ?」
「後悔するかどうかは実際に会ってから考えるよ」
「ちっ、良いだろう。ついてこい」
どうやらチンピラリーダーは私をボスのところに連れて行ってくれるみたい。それはいいんだけどあそこで転がってるみんなは放置しといていいの? ほっとけ? いやまあいいならいいんだけど。
「ここだ」
着いたのは地下に続く会談。どうやらライブハウスの様な場所らしい。ワンドリンク制かな? いや、なんでもあのワンドリンク制というのは飲食店として許可取った方がライブやるのに簡単だからって話を聞いたことある。まあ少なくともドリンク代で収入保証されるからね。
カツカツと前の男について行きながら階段を下りる。木製のドアを開くと凄まじい光と音が感覚を刺激する。どうやらライブをもうやってるみたいだ。
「入れよ」
男に促されてドアをくぐる。光と音、そして何やら変な臭い……これ、もしかしてそういうオクスリ? うん、とりあえず私には効きにくいのはわかってるけど念の為に体内を浄化継続状態にしておこう。
「へっへっへっ。お嬢ちゃんにはちぃと刺激が強すぎたかねえ?」
先程までのビビリはどこへやら。ナイフ男が舌なめずりしながら私に絡んでくる。私は身体が動かないふりをしている。いや、キスとかされたらぶっ殺すつもりではいるけど。
「おいおい、なんだ、その女は?」
奥の方から声が聞こえた。演奏は中断されたのか静かになっている。そのまま歩いて来たのはスキンヘッドにヘビかなにかのタトゥーが入った大男である。まあ筋肉はかろうじて合格点かなあ。両脇には女性を二人侍らせていた。




