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第二百五十六話 挨拶

ぶっちゃけこの冒険者たちが束になってもキューには勝てません。

「あ、その、立ち寄ったのでご挨拶に」

「ギルドカードはお持ちですか?」

「あ、はい、これ」

「(ちっ、カッパーかよ)ありがとうございました。ご依頼を受ける予定はありますか?」


 今、小声でなんか言わなかった? 私は幻聴なのかなって思って耳を疑ったんだけど。


「あ、いえ。その、旅の途中ですので。あ、でも、ゴンドザまで行きますので手紙とかあったら預かりますよ」

「そうですか。まあゴンドザ方面はあまり行く人居ないですからね。明日までいらっしゃるならお願いするかもしれません」

「分かりました。失礼します」


 その場を辞した。あの受付のねーちゃん、すごく感じ悪そうな雰囲気が漂ってたなあ。やっぱり荒くれ者の相手をするには一癖も二癖もある人が必要なのかなあ。


 さて、気を取り直して商業ギルドの方に。こちらのオッサンはなんか不景気そうな顔をしている。いや、商業ギルドが不景気そうで良いのか?


「……何の用だ?」

「あ、その、旅の途中なんでご挨拶に」

「そうか。まあなんもない街でな。商売してくれるなら良いんだが」


 そしてはあ、とため息をつかれた。いやまあ確かにあまり産業も無さそうな街だけど、それでも商業はそれなりなんじゃないの?


「あの、この街の主要産業って?」

「ふん、まあ昔はこれでも服飾産業が盛んだったんだがな。 服飾産業の要となるスパイダーシルクが採れ無くなっちまってよ」


  スパイダーシルク? 蜘蛛の絹? なんか蜘蛛型モンスターから採取出来そうな感じだね。ええと、なら冒険者ギルドに依頼して採りに行ってもらうとか?


「黙れ!」


 それを言ったらこのオッサンはドンとカウンターを叩いた。黙れドン太郎とか名付けてやろうか。


「……いや、すまんかった。あんたにゃ関係なかったな。スパイダーシルクが採れなくなったのは冒険者ギルドのせいなんだよ」


 あ、謝れる大人だ。こういう人は嫌いじゃない。ならば詳しい話を聞くのみ。まあ聞いてどうこう出来る話しでもないんだけど。


 昔は冒険者ギルドに蜘蛛の糸を採取に行ってもらってたんだそうな。そのうち、儲けを独り占めしようとした冒険者ギルドは蜘蛛の個体数を「蜘蛛が増えすぎたから」みたいな理由で駆除していったんだそうな。


 で、商業ギルドに蜘蛛の糸を卸す時に値を吊り上げたんだそうな。うわっ、卑劣。当然ながら商業ギルドはその値上げに応じなかった。物には適正価格があるし、それを超えたら商人としてはアウトだもんね。


 で、値上げに応じて貰えなかった冒険者ギルドが何をしたかっていうと、なんと蜘蛛の魔物をそのまま全部討伐したんだそうな。ちなみに蜘蛛の魔物はそこまで危険性はなく、温和な種族だったそうな。


「それで蜘蛛の糸が手に入らなくなっちまって閑古鳥が鳴き、一人、また一人と辞めていき、商業ギルドもギルドマスターの俺一人になったって訳だ」


 あ、この人ギルドマスターだったんだ。いやまあでも酷い話だよね。冒険者ギルドが街の基幹産業潰したんでしょ? それって街を治めてる人が怒らないの?


「ここの冒険者ギルドのマスターは貴族様の五男とかいうやつでな。その貴族様の位がこの街の領主よりも偉いんだとよ」


 うわぁ、こんな所にも貴族社会の弊害が。全く貴族というのはろくな奴が居ない。あ、公爵家は別だね。テオドールはバカだけど良い奴だし、エドワード様はとても顔がいいし、ヒルダ様は年齢不詳だし。あ、関係ないか。


「おやおや〜、どうやらボクの噂をしてるみたいだねぇ?」


 そんなことを言いながら冒険者ギルドの方からこっちに近寄ってきたのは白いスーツを金縁で飾ったクソメガネ野郎だ。


「何の用だ?」

「いやぁ、商業ギルドに珍しく客が居るもんだからびっくりしてねえ」

「誰のせいで客が居なくなったと!」

「スパイダーシルクを買わなかったキミ達の先見性のなさだろう?」

「テメェ!」


 商業ギルドのオッサンが今にも殴りかかろうとしていたのでしっかり止める。どうどう。


「ふん、で、キミは?」

「私? 私はキュー。旅の途中で立ち寄っただけよ」

「そうかいそうかい。薄汚れた冒険者にしては悪くない顔立ちをしている。なんなら妾程度にはしてやってもいいぞ?」


 ………………は? いや、好みの男にならそう言われたら満更でもないかなって思うけど、それでも妾は無いわ。旦那様には私だけを愛して欲しい。うーん、少女マンガ読み過ぎたかな?


カッパー級程度にしかなれない冒険者なんかやめてボクの情けに縋るといいよ」

「うわっ、気持ち悪っ」


 思わず口をついて出てしまった。言葉は口から出たら取り消せないよね。まあでもエドワード様と比べたらこの男は単なるスッポンにすらなれない甲羅だ。


「いい度胸をしてるね。どうやら痛い目を見なければ分からなそうだ。お前たち!」


 冒険者ギルドマスター(ボクちゃん)が号令を掛けると冒険者ギルドの方でたむろしていた荒くれ者たちが立ち上がってこっちに来ている。受付のねーちゃんはざまぁみろみたいな顔してんな。すっげぇムカつく。


「うちのギルドマスターに随分な口を叩いてくれたじゃねえか」

「顔は可愛いもん持ってるからじっくり可愛がってやるぜ!」

「おいおい、ギルマスに差し出すんだろ? じゃあ乱暴には出来んぞ」

「構わんよ。もういい。好きにしてくれ」


 どうやら私の一言はボクちゃんの機嫌を大層損ねてしまったらしい。これはやるしかないか。まあ見たところシルバーになったかならないかくらいのやつだろう。グスタフさんやタオみたいな「覇気」みたいな威圧感はない。あ、弾箭ウィリアムさん? あ、うん、戦闘中は威圧感あったんじゃないかな? エレノアさんの前だと全然だったけど。


 さて、ここで大変に重大な問題があるんだけど。私はどこまで抵抗したらいいのかな? 下手に手を出すとボクちゃんの親とかいう貴族が出てきちゃう可能性もあるんだよね。とりあえず冒険者だけは片付けとくか。殺したらその分責任取らされそうだから殺しもダメだろう。やりにくいなあ。

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