廃墟(episode16)
金属バットで金稼ぎ!(作ってるのは金属バットだけじゃなくて違法改造の模造刀とかもなんですけど)
通信が切れるとタケルはこっちを振り向いて言った。
「聞いての通りだ。ぼくは自分の力で凪沙を守って伽藍堂に仕返ししたい。協力してくれないか、ティア、メイ」
そんなの答えは決まっている。
「お断りします」
「お断りしますわ」
どうやらメイとは同じ考えの様だ。奇しくも同じタイミングで秒で拒否ってしまった。
「えっ、なんで!?」
「私は四季咲に属しております。私が動く、というのはすなわち四季咲が動くということ。ですが、先程タケル様は奥様に助けを求めませんでした。ですから私は手を出せなくなったという訳です」
あ、私と違う理由だった。あー、貴族同士の戦いにお手伝いさんは手を出さないでしょみたいな話かと思ってたよ。いや、私的にはそっちの意見なんだけど。
「あの、ティアさんは?」
「貴族の家同士の諍いに部外者は口を出すべきではありませんわ」
「ティア、あなたは伽藍堂に狙われていたのでは?」
……そうでしたわ! 私もしっかり当事者でした! 協力しないもするも、巻き込まれてましたわ! なんでしょうこのどうしようもない感覚は。
「私自身に降りかかる火の粉は払いますが積極的には協力するのはどうかと思いますので」
「ティアちゃん、ありがとう」
「あ、もちろん凪沙の為なら骨身を惜しみませんわ!」
「何か差が激しくない!?」
仕方ありません。この八洲に辿り着いて最初にご飯を食べさせてくれたのは確かにタケルでしたが、それ以後の生活で色々助けてくださったのはオーナーと凪沙ですもの。
「それでタケル、どうするの?」
「こっちから攻め込む。あのバカの居る場所は分かってんだ」
「場所が分かってるのに放置してたの?」
「だってバカとは関わり合いになりたくないからね」
これ程言うという事はセイヤというやつはよっぽどのバカなのだろう。
「どこにいるの?」
「歓楽区の外れにある廃ホテル。伽藍堂の兵隊たちに嫌がらせされて夜逃げしたらしいよ」
「ろくな事しないわね」
「そういう奴らだからね。じゃあ行きますか」
タケルがなにかの鍵をちゃきっと取り出した。車、というやつらしい。それは知ってる。お客様が車で来てて駐車場の誘導とかもやったから。タケルも持ってたのか。
「いってらっしゃいませ。おかえりをお待ちしております」
メイが深々と頭を下げて見送ってくれる。本当に手を出す気はないみたい。私たち三人はタケルの運転する車に乗った。ちょっと狭い感じだけど三人だから乗れない事はない。
エンジンをかける(命を吹き込んでる訳ではないし、魔法の起動キーでもない)と車の中に何か音楽が流れ始めた。
「タケル、緊張感無くなるからアニソンはオフにして」
「いや、この方が高揚してこない?」
「気持ちが萎えるわ」
「……はい」
タケルがガックリしながら音楽を切った。そのまま車を走らせるとピカピカとした看板が眩しくこちらを照らして、私の身体が何色もの光に染められていく。車というのは馬車よりも随分早いらしく、色が変わるのも目まぐるしい。
そうこうしてると、少し寂しい地域に紛れ込む。光の色がピンク系になって、なんだかカップルで歩いている人が多くいる。そしてきらびやかなお城がいくつも立ち並び、そこに次々と入っていく。
「随分と城が多いですね。ここは貴族の邸宅が多いのでしょうか? しかし、邸宅だとしたら無意味に光り過ぎでは?」
私が疑問を口にするとタケルと凪沙は苦笑いを浮かべていた様だ。私だけ後ろの座席だからどんな顔をしていたかまでは分からない。
「着いたよ」
タケルが車を停めたのは看板が落ちかかってる城のような建物。さっき廃ホテルと聞いていたが、宿屋というのはこんなのでも人が入るものだろうか。いや、理由はともかくとして潰れたのだった。
「セイヤ、居るんだろう、出て来い!」
タケルがホテルの前で叫んだ。聞いたことがないくらいの大音声だ。
「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるぜぇ、ひょひょひょひょ」
ひょこっと二階の窓が開いて顔を出したのは気持ち悪い顔をした男だった。
「おお、愛しの凪沙ちゃんに、野良おっぱいちゃんまで。わざわざ連れて来てくれたのか? ありがとよ、タケルぅ」
そしてケヒャケヒャ笑ってる。すごく気持ち悪い。
「お前が二人に手を出せなくなるように決着をつけに来たんだよ!」
「お前が? オレに? バカかよ! 勝てるとでも思ってんのか? こっちは末席近くとはいえ、暴力の伽藍堂の端くれだぜ?」
「誰も肉体的な喧嘩でとは言ってないさ」
そう言うとタケルはタブレットという名前の端末を取り出した。何をするつもりなんだろう?
「セイヤ、お前の実家である伽藍堂の金属バット工場、材料が入らないように圧力を掛けておいたよ」
「なんだと!? そんな事出来るわけ……」
「ぼくを甘く見るなよ! これでもぼくはトレーダーなんだ。企業工作なんてお手の物さ!」
なんかよく分からないけどタケルが攻撃してるみたい。でも凪沙が「それって法律準拠なの? スレスレじゃない?」って言ってた。法律は難しそうだ。私らなんて殺すな、盗むな、犯すな、貴族に逆らうな、民衆をむやみに痛めつけるな、くらいだったもんね。
「おい、ふざけるな、オレに金が入らなくなるだろうが!」
「どうせ安く作った金属バットをガキどもに卸して武器として他のところを襲わせたりしてたんだろ?」
「ちっ、どこまで知ってやがる!」
「はぁ、情報は武器だよ。これでおしまいだ。封鎖を解いて欲しけりゃ二人に手を出さないと約束しろ!」
そうしたらセイヤとかいうバカは狂ったように笑い出した。
「仕舞いだ。お前を殺せば茶番は終いだ。ノコノコ出て来やがったんだ。ぶっ殺されるかもってのは織り込み済みだよなあ?」
セイヤが合図をするとそこかしこから眩しい光が照らされた。確かバイクとかいうやつの前についてる灯りだ。本当に眩しいから何とかして欲しい。そして二十人くらいの人が金属バットを持って現れた。




