今年最後の眠りに就く前に2016
上海へきて二年経った。
最初は小さなとまどいがいろいろあったけど、住めば都というか、住んでしまえば慣れてしまう。
日系スーパーやデパートがあちらこちらにあるから、日本の食材や調味料を入れるのに苦労しない。今日も勤めの帰りにスーパーに寄って、年越し用の蕎麦やらを買い込んできた。日本料理のレストランもいろいろある。蕎麦屋、うなぎ屋、寿司屋、日本風スパゲティ屋、カレー屋、お好み焼き屋とさまざまな専門店があるから、時々行って舌鼓を打つ。洋食だっていろいろある。上海は東京みたいな街だ。なんでもそろっている。ほかの中国の街ではこうはいかない。上海だけが特別便利なわけだけど。
今年の中国はずっと不景気だった。とはいえ、日本の景気に比べればずっとましだ。数年前までが高度成長で儲かりすぎていただけのこと。今は安定成長といえるのだろう。
日系企業は事業撤退や縮小を考えるところと安定しているところの二通りにわかれるようだ。僕の勤め先は手堅い業界に属しているから、華やかな話もないけれどそこそこ手堅く稼いでいる。五六年前の破竹の勢いだった頃と比べればぜんぜん物足りないし、つまらないのだけど、まあこんなものかなと思う。
日本のネット雑誌の記事を読んでいると、中国経済が今にも崩壊しそうな論調で書いているものがあるけれど、あれはさすがに大袈裟だと思う。今のところ、そのような兆候はない。ただ、中国社会や中国経済が大きな問題をいくつも抱えているのは事実だから、これからの発展はなかなかむずかしいだろう。目ぼしい公共投資はほとんど終わり、地方都市の地下鉄建設が残っているくらい。工場は建てすぎて余っている。余っているどころか、高くなった人件費を嫌って、他の国へ行った工場も多い。腐敗の問題も深刻だ。ある時、家で景気の話をしていたら、
「国は、観光産業、金融、ネット通販に力を入れるっていうけど、これじゃ実体経済がないじゃない? こんなので本当に発展できるの? この先どうなるのよ?」
と上海人の家内は言った。まことに彼女のいう通りであって、製造業などの実体経済が発展しなければ、一国の経済の全体的な発展はない。日本のバブル経済の頃も観光産業や金融に力を入れるといっていた。日本はその先の経済政策を誤り続け、失われた四半世紀になってしまったわけだけど、中国も下手をすればそうならないとも限らない。どこの国もそうだけど、製造業が一通り発展してしまった後の経済運営は舵取りがむずかしい。
アメリカの大統領選挙は、トランプが勝ってほっとした。
ヒラリーはアメリカの軍産複合体の代理人だ。軍産複合体は戦争をしないことには儲からない。儲からないどころか、行き詰ってしまう。だから、彼女が大統領になれば、大きな戦争が始まる可能性が高かった。そして戦場になるのは、中東か南シナ海だ。
もし南シナ海でアメリカと中国が戦争を始めれば、日本も巻き込まれ、日本の自衛隊も中国と戦う羽目になる。そうなれば、僕はもう中国にはいられない。今の暮らしを奪われてしまう。もちろん、戦争になれば、僕だけではなくて大勢の人々の命や暮らしが奪われてしまう。
トランプは、中国と喧嘩はしても戦争はしない。彼は、アメリカにはもうお金がないから大きな戦争はできないとはっきり認識している。アメリカが世界の警察官を務めることもできないから、それもやめる。四度も破産しながら億万長者になり、大統領にまでのしあがったトランプは喧嘩の仕方を心得ている。彼は他の国々と上手に喧嘩しながら協力すべきところは協力して、衰退したアメリカの国力を回復させようとするだろう。ただ、日本は独立心に乏しくてアメリカにひれ伏すことしか知らないから、喧嘩上手のトランプにすっかり軽蔑されてひどい目にあわされるかもしれない。
十一月二十二日に福島県沖で起きた地震はひやりとした。メルトダウンを起こした原子力発電所の建物が倒壊したり津波が襲いかかったりすればどうなるのだろうかと思った。幸い、なにもなくてよかったけど、福島第一原発の事故が収束するまでには少なくとも何十年もの歳月がかかり、百年以上経っても収束していないおそれだって十分あるから、ひやりとさせられる地震が幾度となく起きるのだろう。
最近、『チェルノブイリの祈り』という本を読んだ。チェルノブイリ周辺の住民、事故処理に当たった人々やその家族などへのインタビューをまとめたものだ。ひどい話や悲しい話が次々と出てくる。似たようなことが福島で起き、それが今も続いているのだなと思うと胸が痛くなる。地震や津波はどうしようもないとしても、原発事故は防げた。そもそも原発を作らなければ、爆発もメルトダウンも起きないのだから。事故の責任を取るべき人は責任逃れを続け、ごく真面目に暮らす大勢の人々の人生が損なわれ続けている。
今年もお読みいただいてありがとうございました。よいお年を。




