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恐怖の催眠術


 夜、寝苦しくてぼんやり眼を明けると、上海人の奥さんがなにやら僕に話しかけている。ぐっすり寝ているのに奥さんが話しかけてくるものだから、僕は夢うつつのうちに反応しようとして、それで苦しくなってしまったのだ。

「野鶴さん、のづるさん、あなたはまだ前に付き合っていた女の子と連絡を取っているの?」

「ええ? なんのこと?」

「だから、前の彼女たちと連絡しているの?」

 奥さんはとてもにこやかだ。が、にこやかだからこそ、危ない。奥さんは僕に催眠術もどきをかけて、真相を聞き出そうとしているのだ。べつに秘密があるわけではないけど、うかつなことは話せない。言葉を間違えれば、余計な誤解を招いてしまう。僕はますます苦しくなってしまう。

「取っている人もいるし、取っていない人もいるよ」

「わたしが知りたいのはあなたが広州で付き合っていた子のことよ」

「それなら、もう連絡なんてしてないよ」

「ほんとなの?」

「ほんとだよ」

「まあ、いいわ。絶対に連絡しちゃだめよ」

「しないってば」

 ようやくこれで眠れる、とほっとしたら次の質問が飛んでくる。

「野鶴さん、のづるさん、あなたは日式カラオケ(日本のカラオケセットが置いてあって女の子がついてお酌してくれるカラオケ)でなにをしているの?」

 僕は時々、歌仲間と日式カラオケへ歌いに行く。隠してもしょうがいないというか、あとでばれるとよけいに厄介なことになるので、最初からカラオケへ行くよということにしている。

「そりゃ、歌いにいくに決まってるじゃない。歌が好きなのはお前もよく知っているだろ」

「歌いに行く? よくそんなウソがいえるものだわね。女の子はなにをするの?」

「お酒をついで、リモコンで歌を入れてくれるだけだよ」

「嘘ばっかし。女の子の手は触るの?」

「まあね」

「それで手を握るのね」

「うん。――ねえ、僕は寝たいんだけどさあ」

「だめよ。まだ訊きたいことがあるんだから」

「腰に手は回すの?」

「そんなことしないよ」

「太ももは触るの?」

「触らない」

「ふーん。ま、いいわ。そんなこと絶対にしちゃだめよ」

「しない。したいとも思わない」

 話しているうちに喉が渇いてきたから、僕はコップのお茶を一口飲む。眠りたいのに話しかけられ続けるのはちょっとつらい。

「あなたがいちばん愛しているのは誰?」

 奥さんはこれが最後の質問よと前置きして言う。

「お前だよ。僕はお前といっしょになるために上海へきたのだから」

「寝てもいいわ」

 奥さんはふふふっと楽しそうに笑う。これでやっと解放された。まだ一緒になったばっかりなのだから、そこまで疑わなくてもいいと思うんだけどなあ。

 


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