20話 品種改良をする俺と抵抗するショーグン
「いや~、おいしいね」
朝食で出た小さな豆を食べながら言う。
「そ、そうだね。食感も悪くないし、なにより新鮮だしねぇ」
母も同じように言う。
だが、その言葉はぎこちない。顔はこわばっているし、セリフも棒読みだ。
かあさん、もっと自然におねがい!
いま食べているのはカラスノエンドウだ。
ちょっと固めの小さいスナップエンドウみたいなやつ。
「プリっとした食感が最高だよな」
だが、ハッキリいってまずい。
それもそのはず、カラスノエンドウは雑草だからだ。
いちおう食べられるが、あえて食うものでもない。
それでも食べているのは、なんとかしてショーグンに食べさせたいからだ。
前回ねこじゃらしで断られたリベンジだな。
こうして自ら食って食べても大丈夫なことを示しているわけだ。
でも、おいしくないなあ。
そりゃあ旨ければ雑草なんかに分類されるはずがない。
「母さん、このベビーリーフ、なんて名前だっけ?」
「あー、えっと、つゆふさだったかねえ」
つぎに食べるのはつゆくさだ。これも雑草。
頼むよ。母さん、つゆふさじゃなくてつゆくさだから。もうちょっとうまくやってくれよ。
今回、ショーグンに食べさせるために母にも協力してもらっている。
だが、ウソが下手すぎてこの始末である。
この、つゆくさもカラスノエンドウどうよう非常に生命力が強く、頼んでもいないのにニョキニョキと生えてくる。
青い花が咲いて、それなりに見た目はいいんだけどな。
けど、代表的な雑草だ。
味をごまかすタメにドレッシングをドバドバかけて食う。
「うまい!」
もちろんウソである。
いや、まずくはないのよ。エグみもないし、固くもない。
ほんとベビーリーフみたいな味。
でも、あえて食うかと言われると、まあ……って感じだ。
「どした? ショーグン。腹減ってないのか?」
ショーグンはハシもつけずに、すっごく疑った表情でこちらを見ている。
警戒心と猜疑心のかたまりだ。
コイツは変なところでカンが働くなあ。
いつものようにバカズラで、ただひたすら食ってればいいのに。
「ほんとうに食べられるんですか?」
ショーグンが聞いてくる。
ほらこれだ。
だまそうとしてるんじゃないかって勘繰ってやがる。
まあ、正解なんだけどね。
でもさあ、これ逆じゃね?
たとえば毒の可能性があるとしたら、ショーグンが率先して食べないといけないよなあ。
だって俺が持ち主なんだから。
ショーグンは最初おれのことをマスターって言ってたじゃん。
そのマスターに毒見させるっておかしくね?
むしろ毒見しなきゃいけない立場のはずじゃん。
しかも、こいつメカじゃん。
たとえ毒でも死ぬはずがないんだから。
先食って成分を分析して「これは毒です!」みたいにやれよ。
せめてそれぐらいの機能は備えてろよ。
なんで獣みたいに警戒心で防ごうとしてるんだよ。
「食べられる、食べられる。だからこうして食ってんじゃん」
とは言えいまは食べさすのが先決だ。
安心を与えるためにも冷静にいかないと。
だが、ショーグンは、いまだものすごく疑った目でこちらを見ている。
チッ、メンドクサイやつだな。さっさと食えよ。
なんで保護したチンパンジーみたいに、ここまで気をつかってやらねばならんのよ。
「いや、まあそこまで言うならカドが立たないように食べますけど……」
おまけに、この言い草!
もう十分カドが立ってますけど。
まあ、なんにしても食ってくれればそれでいい。
さらなる品種改良のためにいろいろ試していきたいしな。
ラディッシュを起点にいろいろタネを作った。みんな生長がとても速くなった。
でも、やっぱり虫がつくのは避けられない。
その点雑草なら、生長も早いし病害虫にも強い。
乾燥にも強いし、手間いらずである。
なんとかいい掛け合わせがみつかればいいんだけどなあ。
などと考え事をしているうちに、ショーグンは食べ終わったようだ。
皿にのっていたサラダは綺麗になくなっていた。
よしよし、ちゃんと食ったな。
……ん?
「あ、おまえ食べるフリして下に落としただろ! 食べ物を粗末にするんじゃねえよ」
ショーグンの足元には、緑の葉っぱとマメがたくさん落ちていた。
「かあさん、ソイツ押さえつけておいて」
「え、ちょっと、やめてください」
こうなったらムリヤリでも食べさせてやる。
ショーグンの口にカラスノエンドウとつゆくさをねじ込んでいく。
「ぎゃ~、殺される~」
こうして新たなタネを入手したのだった。




