11話 マイちゃんの告白
「へ~、ショーグンて言うんだ」
「ええ、そうなんですよ~」
今日はマイちゃんが遊びに来てる。
品種改良BOXあらためショーグンと、お喋りの真っ最中だ。
「カワイイ名前だね」
「そうでしょう、そうでしょう」
カワイイ?
ショーグンが?
女子高生のセンスがいまいち分からん。
「だれがつけたの?」
「旦那様です」
う、いきなり自分に返ってきた。
たしかに俺がショーグンてつけたんだけど、なんかセンスを問われているみたいでイヤだな。
時代劇縛りの中では健闘したほうだと思うんだけど、それをいちいち説明できないしなあ。
「え? 旦那様ってミノルくんのこと? そう呼んでるんだ。ウケルー」
「ええ、そうなんですよ。旦那様もえらくお気に入りのご様子で」
……あれ?
俺がそう呼ばせてるみたいになってない?
アイツが勝手にそう呼んでいるだけで、俺は気に入ったなんてひとことも言ってないんだけど。
「あ! そうそう。聞いたよ。ミノルくん会社立ち上げるんだって?」
しかし、訂正する間もなく、今度は俺に質問が飛んできた。
さすが女子高生。
話題の切り替えが恐ろしく速い。
「うん、いちおうそのつもり。ただ、もうちょっと先かな? 栽培がうまくいかなかったら会社どころじゃないからね」
俺はうまくいくと確信しているが。
でも、いまはまだ早いと思うんだよな。
他にどの作物をかけ合わせるのがいいかも実験していかなきゃならないし。
「ねえ、ミノルくん、お願いがあるんだけど」
マイちゃんに突然そう言われて、ドキっとした。
え? 何? お願いって。
なんだろう、悪い予感がしつつも期待してしまうのは男のサガか。
「どうしたの急に?」
平静をよそおいつつも、声が裏返ってしまう。
もし、付き合ってくれとかだったらどうしよう。
社会人と高校生、年齢的に大丈夫か?
児童なんとか法みたいなのに引っかかるんじゃないか?
「会社ができたら、私を雇ってよ」
……え?
雇う?
想定外の言葉に思考が停止する。
雇うってなんだ? というか、付き合うとかじゃなかった。ガッカリするとともに、自意識過剰でちょっと恥ずかしい。
え~と、雇う、雇う……。
なんとか持ち直そうと、頭をフル稼働させる。
雇うってことは、就職したいってことだよな?
まだ立ち上げてもいない会社になんで?
「雇うって言っても、学校は?」
とりあえず、いろいろ聞いて探っていこう。
マイちゃんは女子高生だ。
就職って高校はどうするの?
まさか学校をやめるってことじゃないよな。
学校行きたくないからって、就職を言い訳に使おうとしてるんじゃないよな。
「ん? 学校はあるよ。それがどうしたの?」
マイちゃんはキョトンとした顔で俺を見る。
あれ? どういうことだ?
なんか話がかみ合ってないな。
俺がおかしいのか、マイちゃんが説明不足なのか……。
――あ! もしかして。
「バイトってこと?」
「うん、そうだよ」
バイトで雇ってくれってことか。
そりゃそうか。
高校生なんだから、働くって言ったらバイトなのは当たり前か。
俺は仕事を辞めたい、べつの職業につきたい、なんてずっと考えていたから、もうそれしか考えられなくなってた。
そうだ、そうだよな。
ヤバイ恥ずかしくって、死にそう。
「か、かまわないよ。でも、会社はいつになるか分からないし、会社を立ち上げたとしても、すぐに誰か募集かけるとも限らないし」
まずは自分たちでできることをする。それで手が足らなくなって初めて募集をかける。
もちろん、増える人件費より利益が見込まれるならだけど。
「いいよ、それで! とりあえず覚えといてね」
そう言ってマイちゃんは笑った。
うおお……なんて眩しい笑顔なんだ。
ブラック企業で精神をすり減らした俺には眩しすぎる。
「ちょっといいですか?」
ここで急にショーグンが割って入ってきた。
電光掲示板のような光った顔を俺に向けてくるのだ。
あれだな。光っているのにマイちゃんの前では、くすんで見えるのはなぜなのだろうか?
「僕の味噌汁を作ってください、これって告白になるんですか?」
……は?
つづく言葉で、ショーグンの顔の光がさらにくすんだように見えた。
コイツなに言ってるの?
「ちょっと、何言ってるか分かんない」
俺だけでなく、マイちゃんも困惑している。
「じゃあ、あなたのもとに永久就職したい、みたいなのはどうですか?」
「ショーグンちゃん、急にどうしちゃったの?」
マイちゃん、さらに困惑。
しかし、俺はなんとなく分かってきた。
マイちゃんのさっきの言葉だ。
俺の会社に就職したい、イコール結婚してください、みたいな言い回しを連想したのだ。
いや、正直俺もちょっと考えた。
だから、この一見まったく関係ない言葉の関連性が分かる。
マイちゃんが俺に告白したみたいなイメージができてるわけか。
これは良くないぞ。
「わたし、かねてよりワカメ星人の交配に興味が――」
「わかった、わかった。その話はまた後でな。母さん、コイツ預かっといて」
台所で食器をカチャカチャさせていた母にショーグンを連れいくように頼む。
コイツを早いとこ排除しないと、とっても危険だ。
「いや、わたしはここに――」
「ショーグン、もうすぐあんたの好きな田岡敬の『嫁に来ないか』の再放送が始まるよ」
動こうとしないショーグンに母がすかさずテレビの話題をふる。
ショーグンはすぐに反応していた。
「え? あ、行きます」
そう言うと、ショーグンはテレビの前に陣取った。
さすが母。ショーグンの扱いを完璧に分かっている。
『嫁に来ないか』は、かなり昔の青春ドラマだ。
プロポーズする男女のすれ違いの話だっけ?
なるほど、これを見てたから、あんなことを言い出したのか。
母さん、今回は助かったけど、ソイツにあんまり変なものを見せないでくれよ。
※田岡敬 むかし人気だった俳優。もちろん架空の人物だ。
ショーグンは彼のドラマが好きらしい。
田岡敬は歳をとって、よく時代劇に出るようになっていた。




