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駆け出し魔法学生はスタート時点を目指す  作者: 石狩なべ
第五章:優秀な青の魔法使い
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第20話 次の課題

『一学期は君達にとってどんな日々だったかな? 成長できた者も、成長が見られなかった者もいるかもしれない。魔法使いを目指す諸君、二学期も精進したまえ。皆の魔法を楽しみにしている』


 ホーネット校長先生の話が終われば全校集会もおしまい。ぞろぞろと教室に戻っていき、掃除当番は掃除をして、カラオケに行く人はその準備をして、そのまま実家に帰るためにトランクケースを持ってきた人は引きずっていく。


(実家かあ。多分今年も帰らないんだろうな)


 そもそも交通費がない。


(明日から夏休み。去年はバイト三昧だった。今年もそうなりそうな予感……)


 あたしは窓から外の景色を眺める。


(今年は……ミランダ様がお側にいる……)


 ――何か、課題を出してもらおうかな。


(あたしも成長したい)


 学校の課題だけではいけない。このままじゃいけない。現状維持は身を滅ぼす。思考するんだ。考えるんだ。いくつか考えたら、今度は行動するんだ。動くんだ。そうしないといつまで経っても成長しない。


(何をしたら良いのかわからなければミランダ様に相談してみよう。課題を出して頂けませんかとお願いしたら、何か出してくれるかも知れない。提案してみるだけ違うはずだ)


 オーディションには選ばれなかった。しかしそれは過去となった。では次はどうする。未来はどうする。


(今度こそ選ばれる)


 その時に備えて、


(魔法を磨こう)


「わーあ、すげぇー! フクロウが飛んでるぅー!」

(うわっ!)


 あたしの肩に顎が乗っけられた。


「フクロウって可愛いけど食べるものえげつないよな。ルーチェっぴ、見たことある? あいつらネズミとか食べるんだぜ?」

「……クレイジー君……?」


 振り返ると、笑顔のクレイジーがあたしから離れた。


「おっすー。ルーチェっぴ。元気ぃー?」

「びっくりした……。急に誰かと思った」

「俺っち、神出鬼没のクレイジー野郎で有名だからさ……」

「……」

「なんて冗談だって! ルーチェっぴがいたからからかっただけ」

「クラスの子にや、や、やっちゃ駄目だよ? それ、びっくりするから」

「なんだよ。ルーチェっぴったら。俺っちだって、めちゃくちゃびっくりしてるんだぜ?」

「ん……。びっくりって、自分でしておいて?」

「いや、だってさぁー」


 クレイジーがポケットからスマートフォンを出した。


「ルーチェっぴってなんだか頑張り屋さんな気がするぅー! って思ってたらさぁー」


 スマートフォンの画面を向けられる。



「ミランダ・ドロレスの弟子だって言うじゃん?」



 ――そこには、酔っ払ったミランダ様に引っ張られるあたしの姿が写されていた。


「いやー、俺っちびっくりしちゃったよ! ミランダの弟子ってアンジェだけじゃなかったんだーって思ってさ!」

「……」

「うん! 別に悪いことじゃないよ! むしろ、すげーいいじゃん! プロの側で勉強出来るなんてさ! いやー、ルーチェっぴ、すげーな!」


 クレイジーが言った。


「超贔屓されてるじゃん!」

「……」

「そうだよなぁー。俺っちがルーチェっぴだったらこの事黙ってるのも頷ける。トラブルになりかねないし」

「……」

「クラスにいる一人にでも言ったらこの話はあっという間に広まって、ルーチェっぴは注目の的だ。ミランダ・ドロレスの弟子、ルーチェ・ストピド。彼女は一体何者なんだ。新聞部が燃えるだろうな。そしてオーディションがある度にルーチェっぴは皆に見られることになる。ミランダ・ドロレスの弟子なんだからきっと物凄い魔法を出すに違いない。発達障害? 関係ないね。ミランダ・ドロレスの側でやってるならそんなもの克服も出来るだろう? って思われるのが普通。出会い方も訊かれるだろうな。で、もしそれが……この学校の先生の紹介とかなら……そうだな、マリア先生辺り……だとしたら……マリア先生に何かしらの罰が与えられるかもな。だって生徒を贔屓するなんてやっちゃいけないことだ。生徒全員平等に扱わないと。なのに、一人の生徒にプロを、それもミランダを紹介したとなると……やっぱり何かしらあるだろうな。教員免許剥奪とかさ」

「……」

「で、ルーチェっぴは学校に残れたとしても、学校の皆はこう思うはずだ。お前ばかりずるい。ミランダ・ドロレスが教壇に立った話なんて聞いたことが無い。教えを貰いたくても貰えない中、ルーチェっぴだけが貰ってる。羨ましいと思う人も、妬ましいと思う人も出てくるだろうな。さあーて、ここまで言ったらルーチェっぴは今こう思ってるはずだ。やっぱりあたしは間違えてなかった。周りに言わなくて正解だった。だけど知られてしまった。あの晩あの時間にトイレに行ってた俺は運が良い。いやいや、本当に運が良い。めちゃくちゃ面白いものが撮れて、へへっ」


 クレイジーがクレイジーな笑みを浮かべた。


「本当に運が良かった」


(……どうしたら誤魔化せる)


 あたしは思考を巡らせる。


(ミランダさんなんて知らない人だけど、あの日あたしを引っ張ったからタクシーまで運んであげたの)


 通じるか? いや、通じない気がする。師弟関係だって気づかれてる。マリア先生に紹介されたのも、どうしてか勘付かれてる。


(どうしたらいい?)


 クレイジーが一歩近づいた。


「この事、俺が言いふらしたらルーチェっぴ、困っちゃうよなー?」


 あたしは一歩下がった。


「どうしようかなー。折角のとくダネだし、皆に言っちゃおうかなぁー?」


 背中に壁がついた。クレイジーが壁に手を付けた。あたしは揺れる瞳でクレイジーを見上げる。クレイジーはあたしから目をそらさない。


「ね、ルーチェっぴ。……言わない方がいい?」


 あたしはゆっくりと……頷いた。


「だったらさ」


 クレイジーが顔を近づけた。


「夏休み、暇してる?」

(……何?)


 彼女になってデートしろとか? それとも一発ヤラせろとか? この男、考えてることが本当にわからない。あたしの額から汗が吹き出る。緊張で体が震えてくる。


「ルーチェっぴ、この事、言われたくなかったら……」


 夏休み、


「俺と」


 ――両腕を掴んできたクレイジーが真剣な顔で言った。


「ダンスコンテストに参加するんだ!!」


 あたしは目を瞬かせた。


「は?」


 クレイジーは真剣に、あたしを見ている。


「ダンス……コンテスト……?」


 思いもしない言葉に、クレイジーの真剣な眼差しに――あたしは眉をひそませた。






 優秀な青の魔法使い END

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