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駆け出し魔法学生はスタート時点を目指す  作者: 石狩なべ
第三章:完璧な氷の魔法使い
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第1話 錚々たる魔法使い


 魔法。

 それは、みんなが憧れるもの。

 魔法。

 それは、娯楽であり、便利な物。

 魔法。

 それは、魔力を持つ者が使える技。


 魔力を使って事を成す者のこと。

 それを人は、魔法使いと呼ぶ。





「はい。それでは本人に確認を取って……はい。いえいえ。こちらこそありがとうございます! よろしくお願い致します! はい、失礼致します!」


 スマートフォンを切った女が、撮影現場に振り返った。


「パルフェクトさんこれにて上がりですー!」

「お疲れ様でしたー!」

「お疲れ様! パルフェクト! 今日もパーフェクトだったよー!」


 パルフェクトが微笑んで女に向かって歩いてくる。女が廊下を歩き、パルフェクトがそれについていく。


「さっきね、仕事の案件の電話が入ったんだけど、どうだろう。一週間魔法学校の特別講師」

「えー? 特別講師ですか?」


 薄い桃色の瞳が可愛らしく見開かれた。


「すごいとは思うんですけど……わたくしなんかで大丈夫ですかねぇ?」

「パルフェクトなら大丈夫。それに、あのマリア・ハーベルトから直々のご依頼なの」

「ええ? マリアさんですか? それはもう断れないじゃないですかぁ。あ、そういえばマリアさん、魔法使いの仕事だけじゃなくて学校の先生もやってるって伺ってます。へえー! すごいなぁー……!」

「どうする? やる?」

「もちろん、マネージャーが取ってきてくださった案件ですもの。わたくしでよろしければ、ぜひ」

「じゃあ連絡しておくね」

「ちなみにどこの学校ですか?」

「聞いたこと無い? 第13ヤミー魔術学校」

「……ヤミー魔術学校」


 パルフェクトの足が止まった。マネージャーがきょとんとしてパルフェクトに振り返る。


「そこの……特別講師の話なんですか?」

「え? うん」

「……それって、クラス選べたりするんですか?」

「クラス?」

「あー、ほら、同じクラスばかり行っても、贔屓みたいになるじゃないですか」

「ああ、そういうこと? そこは大丈夫。ハーベルトさんが目をつけてあげてるクラスに行ってほしいんだって。パルフェクトの授業を受けて、魔法使いを志すみんなのモチベーションを上げてほしいって」


 マネージャーが微笑む。


「今全国で注目されてる、パルフェクトにしか出来ない仕事だよ」

「嬉しい限りです」


 パルフェクトが氷のように美しく笑った。


「ぜひお願いします。わたくし」


 言葉を紡ぐ。


「ヤミー魔術学校、行ってみたかったので」



(*'ω'*)



 ミランダ様から頂いた試験に落ちてから一週間が経とうとしていたが、あたしの生活は変わらなかった。

 朝起きたら二度寝をせずすぐに誘惑してくるベッドから抜け出し、ミランダ様と自分の分の朝食を用意し、欠伸をしながらトイレ掃除を行い、屋敷から出て森を駆け抜け、駅に急ぐ。満員電車に揺られながら学校に通い、お弁当の蓋を開けてみたら箸を屋敷に忘れたことに気が付き、職員室まで余ってる割り箸はないか相談しに行く。(その日はあったから運が良かった。)

 ランチを食べながらレシピアプリを開き、自分が作る日の夜ご飯を何にしようか考え、また授業が始まり、課題をこなし、アルバイトに行って学校代を稼ぐ。優しい客に声をかけられたら楽しくなって、変な客に捕まったらもう最悪。「いや、お前レジとかやんなくていいから。代わって。誰か呼んで。」あたしが何したっていうんだよ。お前が持ってきた空箱の商品を探し出すのに時間かかっただけじゃねえかよ。在庫探してますので申し訳ないのですがもう少々お待ち下さいって、声かけたじゃねえかよ! ふざけんな! 死ね! 交通事故にあって死ね!! 親の顔が見てみたいわ! 教育が行き届いてない証拠だわ! 客の態度で親の教育方針がわかるようになってきたわ! クソクソクソ! 死ね! レシート目の前で捨てる奴もみんな死ね!! いらないならすみません結構ですって喋れよ! 口付いてるんだろうが! 妖 怪 無 言 お ば け !!!!!!


「お疲れ様。ルーチェちゃん。……どうしたの」

 さっきこんなことあって……。

「はあ!? なんだそいつ!? くたばればーーーーか! って言っとけ! まじか。やべえな。そんな奴いるの?」

 在庫探し出すのに時間かかっただけなのに……。あった棚いつの間にか物代わってるし……。

「棚の入れ替え激しいからなー。……よし、ルーチェちゃん、休憩だろ。賞味期限切れのシュークリーム10ワドルにしてあげるから元気出しな」

 ありがとうございます……。まじでイライラする……。もう……。

「あ、そうだ。ルーチェちゃん、ちょっとおいで」

 なんですか?

「ほら、この間、モグラ騒動あっただろ。モグラが凶暴化して、巨大化して」


 気前の良い先輩がスマートフォンを取り出し、動画を再生した。


「中継終わった後に撮ったんだけど、ほれ」


(あっ)


 そこには、事件現場に駆けつける魔法使い達の姿があった。


「先輩! これ……!」

「いいだろー? 10分くらいあるんだけど、ちょっと見てていいよ。俺発注確認しないといけないから」

「え、いいんですか!? ありがとうございます!」


(うわ、やった!)


 倉庫から賞味期限切れのシュークリームをカゴから拾い、袋を開けて口に含ませる。ああ、シュークリームは正義。カスタードクリームが舌の上に乗ってる間だけは嫌なことを溶かしてくれる。ぱりぱりの生地。ふわふわのクリーム。賞味期限が切れてるから何? 消費期限が切れてから一週間までは、食べ物は美味しいんです。シュークリームは美味しいんです。もぐもぐ口を動かしながら先輩の動画を再生する。


(ニュースでも見たけど、やっぱり結構大騒動だったんだな……)


 コンクリートの道が盛り上がり、車が渋滞して、停電した電車が止まってる。動画の先輩がうわっ、と言ってカメラを動かした。カメラに映った魔法使いを見て、あたしもうわっと声を上げた。


(やばい……! 超大御所。風魔法使いのセブン・バードス! 隣りにいるのは……マドンナ・シチュエータ!? うわ、すごい! テレビみたい! あ、マリア先生がいる。……あれ!?)


 アーニーちゃんがいる!


(記者に囲まれてる……。うわ、……すごい。流石だな……)


 嫉妬心からちょっと胸が痛む。でも、仕方ない。アーニーちゃんは本当にすごい。火魔法使いとしての証の帽子がよく似合ってる。


(この人は……リカルド・マーク)

(あ、この人知ってる。エグサ・ヤルガレだっけ?)

(この人は知らないな。誰だろう。今はメモして、後で調べよう)


 あたしは自分のスマートフォンを出し、魔法使いの特徴をメモした。この人はどんな魔法を出すんだろう。


(この軍隊は……)

『先輩、俺、魔法調査隊見るの初めてっすよ』

『この仕事してたら見る回数増えるぞ』

(へえ。これが魔法調査隊。魔法省から派遣されてる――いわば秘密捜査官。FBIみたいなもの。話だけは聞いたことあるんだけど、本当は知ってて当たり前の人達なんだよな。魔法使いとして魔法調査隊を知らないことは恥ずかしいことだと思いなさいザマスって、マダムがすごくうるさく言ってた……。……いざって時のために調べておこう)


 あたしはスマートフォンにメモをした。魔法調査隊。


(これくらいかな?)

『あ、先輩! あれ!』

『うわ! やべえ!』

(ん?)


 動画の中の先輩が興奮した声を出して、即座にカメラを動かした。そこには――。


『先輩、パルフェクトちゃんですよ!!』


 あたしの興奮した視線の熱が急に冷めた。それとは裏腹に、先輩と側に居た仲間が興奮した声を出す。


『ひゅー!』

『やべえ! 本物だ!』

『いやー、いつ見ても綺麗だな。俺、あんな姉ちゃん欲しかったよ。妹でもいい』

『いやぁー、あれはまじで魔性の女ですね! すげえ美人! どうなってるんだろう! 本当に整形してないんですかね!』

『いや、あれは化粧』

『え、見たことあるんですか?』

『うん。撮影で見たんだけど……でもそんなに悪くなかったよ。まあ、化粧落としてそこらへん歩いてても誰も気付かないかなーって感じ』

『へー。化粧上手いんですね』

『多分、あれはドラマの撮影から抜けて来たんだろうな』

『女優やってても魔法使いってわけですね』

『だから魅力的なんだ。パルフェクトは。謎も多いしな。私生活に関しては全く情報がないし、スキャンダルもない。同じ業界にいる友達が向かいのタワーマンションで張り込みしてたらしいけど、気がついた時にはそこに住んでるのはパルフェクトじゃなくてゲイバーやってるママだったんだよ』

『なんすか。それ、超怖い話じゃないですか』

『カメラに気付かれてウインクされたって』

『なんすか。それ、超怖い話じゃないですか!』

『しかも元魔法使いだったらしくて、窓の前まで箒で飛んできたって』

『なんすか。それ、超怖い話じゃないですか!!』

『おーい! パルフェクトー!』


 先輩が手を振ると、先輩に気づいた――パルフェクトが笑顔で手を振った。


『へへっ! ありがとう!』

『先輩、その動画会社に持っていくんですか?』

『いや、これはプライベート。バイト先で目指してる子がいるから見せてやろうと思って』


 ここで動画が終わった。


(……収穫はあったか)


 あたしは事務室に戻り、先輩にスマートフォンを返した。


 先輩、ありがとうございました。

「おう。すごかっただろ」

 知らない魔法使いがいたんですけど、先輩ご存知ですか? 真ん中くらいに出てた人なんですけど……。

「どれどれ。……ああ、この人な。知らない? グリード・ポナトロス。ウェキペーディアとかにも、誰かが書いた記事とかあると思うよ」

 グリード・ポナトロスさんですね。調べてみます。

「いいね。ルーチェちゃん。流石魔法学生。最近やけに魔法使いに敏感だね」

 いざって時に顔を知らないとご挨拶に困りますし、その、……忘れっぽいので、調べられる内に調べておこうと。

「いや、大事なことだよ。同じ業界で働くなら先輩の顔と実績の情報くらい知らないとな。……ルーチェちゃんのクラスではいないの? パルフェクトの追っかけとか」

 ……あー、……まあ。

「やっぱいるよな。いや、この子本当にサービス精神旺盛でさ。本当にこのまんまなんだよ」

 ……会ったことあるんですか?

「よく撮影行ってるからな。気遣いがすごいんだ。調子に乗ってるそこらへんの俳優よりも実力が上なのに、全く態度が変わらない。ずっと笑顔でにこにこしてて愛嬌振りまいて、なおかつ魔法使い。そりゃあ、普通の女優よりも仕事貰うよな」

 ……あー。

「俺、これでもパルフェクトのファンクラブ、入ってるから」

 えっ。

「今年の冬にコンサートするんだけど、その撮影の話が来た時、俺は思ったね。このために記者になったんだって! ああ、まじで記者やってて良かったよ! もう最高! 俺、今年一番それが楽しみだもん!」

 ……。

「あ、ルーチェちゃん、ルーチェちゃんの好きなチャーシュー入ってきてるよ。どうする? 今日買ってく?」

 ……買っていこうかな……。

「ちょっとだけなら値下げ出来るよ。店長帰ってるし。買う時声かけて」

 ……はーい。


 パソコンをかちかち操作する先輩を通り過ぎ、あたしはシュークリームの袋をゴミ袋に捨てた。


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