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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、責められる

「あー、この度は拝謁を賜りまして……」


「いいからいいから! そんなのいらないよ! ボクとニックの仲だろぉ?」


「そ、そうか?」


「そうだとも! ああ、いくらボクが高貴なエルフで君が下等な基人族だったとしても、君の名前を忘れるなんてあり得ないからねぇ!」


 跪いて挨拶をしようとするニックに、王は王座から身を乗り出し気味にして言う。ただしその言葉とは裏腹に王の態度の端々からいらだちの気配が漏れ出ている。


「そう、あり得ないさ! こんな馬鹿なことをしでかした大馬鹿野郎のことを忘れるなんてさぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 やにわに王座から王が立ち上がると、その両手を天高く掲げる。すると王座の背後に幻影の光があふれ、そこには外の様子が映し出された。


『む、幻影……いや、投影魔法か? 随分と大きな木だが……貴様一体何をやらかしたのだ?』


「知ってる? 知ってるよねぇ? これは世界樹! この世界に一本しか無い、ボク達エルフにとってはとってもとっても、とーっても大事な木さ! そしてこれにはほんの少し前まで厄介な魔物が巣くっていた。その身に八つの呪いを宿す、その名もツ星テントウ!」


 幻影のなかの世界樹に、禍々しく巨大なテントウムシの姿が加わる。すると輝くような緑の葉を茂らせていた世界樹から急速に力が失われ、その葉が落ち、幹が枯れていく。


「こいつの厄介なところは、強化された呪いの力でほとんどの攻撃を無効化してくるところさ! それを超えられるほど強力な精霊魔法で世界樹まで傷つけたら本末転倒だし、かといって近接戦闘なんて野蛮な方法はボク達エルフには向いていない。さてどうしようかと悩んでいたところで、君たちが現れた! そう、君の娘が率いる勇者パーティさ!


 どうしても活躍したいという君たちに対し、ボクは寛大にも神聖な世界樹に立ち入ることを許可した! 野蛮なことは野蛮な種族に任せるのが一番だからね。でもそれこそがこのボクの最大のミスだった……」


 幻影の背景に暗雲が垂れ込める。流石に音は鳴らないが、稲光すらし始めたそれは見るからに不穏な様子だ。


「ボクはちゃんと教えたよね? 厄ツ星テントウには対となる八匹のモ虫がいて、それぞれが呪いで繋がっている。忌モ虫の方を倒して呪い返しをすると厄ツ星テントウの呪いの力が弱まるって! だから忌モ虫を一匹ずつ仕留めていって、全部倒したところで厄ツ星を倒すのが基本だって! なのに、なのに君ときたら……」


 握りしめた王のこぶしがわなわなと震える。そのままダンッと足を踏みならすと、ニックに向かってまっすぐに指をさす。


「『そんな面倒な手順を踏まずとも、あの虫を直接殴ってしまえばいいんだろう?』だって!? 馬鹿なの? ねえ馬鹿なの!? 効かねーって言ったじゃん! 弱体化手順教えたのに、何でそれを無視して直接厄ツ星テントウと戦うの!?


 ああ倒したさ! 確かに君は倒したよ? 倒したけど、その結果がこれだよ!」


 背後の幻影に凶悪そうな面構えの筋肉親父が現れると、ガハハと笑いながらテントウムシを殴り飛ばす。すると暗雲は晴れ世界樹には力が戻り、テントウムシが遙か彼方に飛んでいって……そこで画面が切り替わる。


 大写しになったのは、エルフの王の像。やたらとキラキラしたエフェクトのかかった像に天から飛来した巨大テントウムシが命中すると、腰の辺りで像がポッキリと折れ、地面にめり込んだテントウムシの残骸と共に無残な姿を晒した。


「ほとんど無敵みたいな耐性のままの厄ツ星テントウをぶん殴ったから、その影響がこれだよ! こんなアホなことした奴のこと、忘れるわけ無いだろ!?」


「いや、だからそれは不可抗力と言う奴で……」


「知らねーよそんなこと! 信じて任せた結果がこれだよ! そりゃ怒るわ! エルフじゃなくたって激怒するわ! 王様の面目丸つぶれだわ!」


「ぐぬぅ、すまぬ……いや、本当に申し訳ない……」


「聞いたよ! もう何回も! 何十回も何百回も聞いたよ! そしてボクの答えも同じだ。謝って済むなら衛兵なんていらねーんだよ! どの面下げて戻って来やがったこの筋肉馬鹿が!」


「くぅぅ……」


『くっくっく、これは完全に貴様が悪いな』


 オーゼンからすら見放され、ニックはひたすらうつむいて耐える。フレイに散々怒られた記憶も蘇り、いつもはパンパンに張り詰めているニックの筋肉が心なしかしぼんで見えた。


 ちなみに、この時エルフへの対応に辟易していたムーナは腹を抱えて大爆笑してしまい、そのせいで余計にニックが怒られたのも苦い思い出である。


「チッ。で? 今回は何の用なんだ? 見たところ一人みたいだけど」


「うむ。何か用があって来たというわけではないのだ。最近は娘と別れて生活しておるから、ちょっとした気分転換というか……」


「何だ、お前ついに娘に嫌われたのか!? そうだよなぁ。お前みたいな筋肉親父なら嫌われて当然だよなぁ、ウンウン」


「いや、別に嫌われたわけではないぞ? まあちょっと怒られはしたが」


「似たようなもんだろ? ざまーみやがれ! そのまま『お父さんってガサツだしキモいくらいムキムキだし、彼氏には紹介できないかも』とか言われてればいいんだよバーカバーカ!」


「イキリタス貴様、黙っていれば言いたい放題言いおってからに……」


「お? やるか下等種族? 世界最優種族であるエルフの王、イキリタス様に勝負を挑むってか? いつでも受けて立つぜ?」


 立ち上がってペキペキと指を鳴らすニックに、シュッシュッと拳を打ち出し挑発するエルフ王イキリタス。楽しげに口の端をつり上げる二人に、しかし第三者の声がその動きを静止する。


「あー、ニックだー!」


「む? おお、ツーンではないか! 久しいな!」


「わーい、ニックー!」


 王座の奥、王族の私室へ繋がる扉から、小さな人影が嬉しそうに飛び出してきた。ピンク色のフリフリドレスを振り乱して元気にかけてきたエルフの少女だが、しゃがんで両手を広げたニックに対し、素早く背後に回り込んでその尻に強烈な蹴りを放つ。


「ていっ! ていっ! ニック、相変わらずかたーい!」


「はっはっは。ツーンは相変わらず元気いっぱいだな!」


「へへー!」


 可愛く笑いながらも、姫の蹴りはとまらない。割と本気で蹴っているため普通の基人族ならかなり痛いところだが、当然ニックには毛ほどのダメージも入らない。


「ほーれ、人を蹴るような悪い娘は、こうだ!」


「きゃーっ! やばんなきじんぞくに捕まったー! 助けてパパー!」


「おいニック貴様! 今すぐボクの娘からその汚らしい手を離せ!」


「ハッハッハ。娘は預かった。返して欲しくば……うん?」


 それはかつて城に滞在した時、幾度も繰り返したことのあるやりとり。だがニックがその言葉を口にすると、不意に二人の表情が変わった。


「どうしたのだ二人とも?」


「離して! 離して!!!」


「お、おぅ!?」


 さっきまでと違い本気で抵抗する姫に、ニックは抱き上げていた姫の体をそっと下ろす。すると姫は猛烈な勢いでイキリタスのところまでかけていくと、身を隠すようにその足の背後に回り込んだ。


「パパ……っ!」


「お前は下がっていなさい、ツーン」


「うん……」


 ギュッとスカートの裾を握りしめながら、ツーン姫が私室の方へと下がっていく。その姿が見えなくなったところで、ニックは改めてイキリタスの方を見た。


「何があったイキリタス? と言うか、デーレの方はどうした? あの二人はいつも一緒だったと思うのだが……」


「デーレは……いない」


「いない? どういうことだ?」


「攫われたんだよ……魔族に」


「何だと!?」


 思わず叫ぶニックに、イキリタスは崩れ落ちるようにドサッと王座に座り込み、頭を抱えながら続く言葉を漏らした。


「この国は今、魔族の侵攻を受けてるんだ」

※はみ出しお父さん 厄ツ星テントウ


世界樹のあるエルフの国に出現するボスモンスター。通常状態では全属性無効、物理ダメージ99%軽減の耐性を持つためやりこみプレイでもなければそのまま倒すのは推奨されない。


配下の忌モ虫を倒せば弱体化するが、忌モ虫は「呪い」を宿しているため精霊魔法が極めて効きづらく、そのため一時的にパーティに入るエルフの戦士はほぼ役に立たない。そのくせ強制加入で戦闘メンバー枠を減らしてくるので、アイテム係と割り切ってその他のメンバーを物理アタッカーとバフ・回復役で固めるのが定石となっている。


なお、全ての忌モ虫を倒してから厄ツ星テントウと戦うと、最後にどこからともなくやってきたエルフ王が「ま、ちょっと本気出せば楽勝なんけどね」と笑いながらとどめを刺すという演出が入る。「なら最初からやれよ!」「どや顔がむかつく」「殴りたい、その笑顔」などプレイヤーからの評価は散々だが、報酬に追加される「エルフ王の像」は高く売れるのでイベントを埋めるという意味でも一度くらいは見ておくのがオススメである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで怒られると判ってて、 よくイキリタスに会おうと思ったな
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