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転生したら玉虫色の球体でした  作者: 枝節 白草
最終章:神々を喰らう者達
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再会

クロの蹄が再び高く上がる。もう一度やられたら山が崩れかねない。

しかし僕ももうクロと話し合う気は無かった。

僕の体が玉虫色に泡立つ、もう幾度も出した必勝必殺の技、それを今はクロに向ける。


泡立つ気泡は玉となり僕の周りに浮かぶ、足りない、きっと足りない。

クロを倒せるイメージが湧かない、クロを殺す気は無い、しかし殺せる気はもっと無い。

玉虫色の無数の玉、一弾一弾が致死の狂気、今までみんなこれで焼却してきた。


「クロ…、ごめんね」


宙に浮かぶその全てをクロに向かって、僕の唯一の理解者に向けて放つ。

きっと避けるだろう。僕はそう思っていた、僕の欠片に触って無事だった生き物はいない。

しかしクロは…、避けなかった。玉虫色の僕の欠片をまるでシャボン玉でも割るかの如く触手で叩き割る、全て、全て割られた。


「なん…で…」


クロは黒山羊シュブニグラスの姿から人の姿へと形を変える、服は復元できないため当然全裸だったが今はそれどころでは無かった。


「何を不思議がってるのかしら、未熟で間抜けな副王さん」

「僕の本体に触れたモノは何であろうと蒸発させてきたのに…」

「蒸発させる原理は次元をズラして生まれる摩擦熱よ?私はシュブニグラス、副王ヨグソトースの妻、次元を渡る力だってあるわ、ヨグソトースほどでは無いけどね。つまり私にはあなたの力が通用しない。加えて言うならここには水も無い、あなたが取り込んだリヴァイアサンの力も使えないわ。…でも私には」


そう言うとクロは脚を軽く地面に叩き付けた。

たったそれだけの動作で地面が大きく揺れる、立っていられない程に、ただでさえ強風に煽られていた僕は地面に倒れ込む。


「大地を揺さぶるベヒモスの力よ。クオンをここに喚ぶ前に取り込んでたの」

「クロも…神を食べたのか」

「ええ、ここに居るはずだったジズも取り込めればクオンと一緒に陸海空を操りこの世界を作り替える事も出来たでしょうにね、クオンと私の楽園に」

「…そんなつまらない世界願い下げだよ」

「そう…とても悲しいわ」


クロは再び脚を持ち上げると、今度は力強く大地を穿った。

クロの足下に出来ていたクレーターは更に深さを増し、岩山はバキバキと音を立てて崩落する。


立つのがやっとだった僕は、そのまま地面へと落ちていく。

僕も本来の姿に戻れば死ぬ事は無いだろう、しかしクロには勝てない。

このまま、人として幕を閉じよう、それが僕の最後の抵抗だった。



………。

落下していく途中で、何故か僕の体は上へと浮上する。

旋風が僕の体を優しく包み空中に留めていた。

先ほどまで吹いていた強風が嘘の様に穏やかになっている。


「クオンくん!クオンくんですよね!?良かった、また会えた!」

そこには浅黒い服を身に纏ったアリサがいた。

「…アリサ?ははは、ここ空中だよ?なんで浮いてるのさ」

「気が付いたら風の流れとかが自分の意思で操れるようになってました」

「アリサも人間やめちゃったの?」

「人間ですよ!…たぶん」



僕とアリサはそのままゆっくりと地面まで降りる、それとほぼ同時に強い衝撃とともにクロが目の前に降り立っていた。

ベヒモスを取り込んだクロにとっては大地は味方なのだろう、人の姿で落下に耐えていた。


「この泥棒猫!生きていたのね!それにショゴスまで、まぁいいわ、ショゴス!その女を食い殺しなさい!それで命令違反は目を瞑るわ!」

「クロさん…でしたよね。ショゴスってもしかして今私の服に擬態してる子の事ですか?クロさんが付けてくれたんですね、おかげて命拾いしました」

「は!?今はそんな事どうでも良いわ!ショゴス!早くその女を食べなさい!」

「え?テケちゃん、そんなことしないですよね?」

『テケリ・リ』

「なんでその女に返事…、テケちゃん!?名を与えたの!?ショゴスもそれを受け入れたって言うの?そんなふざけた名前を…、私の名は受け取らなかったくせにそんな女と本契約を!?…どいつもこいつも私をバカにして!」


クロの姿が黒山羊へと変わる、蹄を踏み鳴らすと地面が歪んだ。


「危なそうですね、クオンくん、一緒に逃げましょう」

そう言いながらアリサは僕の手を掴むと空高く舞い上がる。

風に乗ってどこまでも高く、雲を突き抜けてより高く。

「はは、今度はアリサに助けられちゃったね」

「これで借り一つくらいは返せれましたかね」

「全部チャラで良いよ」

「それは困ります。私はクオンくんに恩を仇で返しています。それの償いは必要ですから」

「仇?」

「洞窟の事です、思い出しました。私はクオンくんが人では無いと知っていたはずなのに、クオンくんの姿を受け入れる事ができませんでした」

「…ああ、覚えていたんだね」

「ジズを取り込んで、力を得て、現実を受け入れる余裕が出来たら自ずと思い出す事ができました。…ごめんなさい、ごめんなさい、本当に」

「良いよ…、もう良いんだ。僕が化物なのは本当の事だから」

「そんなこと…ありません」


そう言うとアリサは僕の顔に手を添えて唇を寄せる。


僕の唇に触れそうになったその刹那、地上からの射出物が僕らの邪魔をする。

それは巨大な岩の飛礫、それも一つや二つでは無い。


クロには僕らの位置が見えているとでも言うのだろうか。

岩の一つが僕らに当たり、咄嗟に作ったアリサの風の障壁が威力を殺したものの僕とアリサは体勢を崩し落下する。


しかし僕はアリサの手を離さない、アリサも僕の手を離さなかった。



実は物語だいぶ後編です。

最後までお付き合いいただけるととても嬉しいのです。

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