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転生したら玉虫色の球体でした  作者: 枝節 白草
第4章:断崖の只人
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VSジズ

私を殺し損なった神鳥ジズの瞳は少しの間も開ける事無く私を捕らえる。

私の方へ向き直る、その所作だけで風を巻き上げ砂嵐を起こした。

まともに前を見る事すら出来ない、何が起きてるのかすら分からない。


分からないまま私は走っていた。

私よりも遥かに早く、私よりも遥かに力強く、私は走っていた。

何が起きてるのか分からないまま、的確に、止まる事無く走っていた。


『テケリ・リ』


私を動かしているのは紛れもなくテケちゃんだった。

ジズの嘴を、ジズの爪を、縫う様に避けていく。

体と頭を振り回されてる私は正直気持ち悪くて吐きそうだ。

自分の身体能力を越えた動きに関節も悲鳴を上げている。


「ちょっ…テケ…ちゃん…、きつ…い」

『テケ…リ』


テケちゃんが私の体を気遣いスピードを落とした。その直後だった、私は強い衝撃を受けて後方に吹き飛び岩に体を打ち付けられる。

僅かな隙はジズの攻撃を許し、鍵爪で蹴り飛ばされたのだ。


普通であれば人間などその一撃で人生に終わりを告げるだろう。

しかし私は怪我を負っていなかった。


『テ…ケ…』

「テケちゃん!?」

理由は簡単で単純だった。テケちゃんが替わりにダメージを負ったのだ。

「もう…良いです…、擬態解いて、テケちゃんだけでも逃げて…」

『テケリ・リ』

しかしテケちゃんは擬態を解かない、私を動かし身構える。

「分かりました…それなら私の体を気遣わないでください」

『テケリ』


全身が液体状の筋肉だと言わんばかりに力強く、荒々しく私を動かす。

強く巻いた包帯の様にテケちゃんの体が私の体を締め付ける。

まるで外骨格、わたしの本来の骨と筋肉は動きに付いて行けず軋み、激痛を伴う。


「…ぁ…ぅぅぅ」

痛い…、手足が千切れそうなほど痛い。

『テケ…リ』

「大丈夫です、私は…大丈夫。大丈夫…大丈夫」

大丈夫なわけが無い、支えられて無かったら今頃泣きながら地面を転がっているはずだ。

「ジズを、倒しましょう…」

『テケリ・リ』


テケちゃんは私の言葉を受けて攻撃に転じる。

…いや、長期戦は私が耐えられないと悟っただけなのかもしれない。


テケちゃんを纏った私の拳がジズを穿つと意外にもジズは一撃で後退り私を警戒した。

そして殴った感触も意外だった。簡単にめり込んだのだ。

普通の鳥と同じで体は柔く、堅いのは嘴と脚だけという事だろうか。

ジズは思わぬ反撃に狼狽え上空へ飛ぼうと翼を広げる。


「テケちゃん!飛ばれると不味いですよ!」

『テケリ・リ』

私の腕が、正確にはテケちゃんが擬態した手袋が剣に形を変える。

私の身長よりも長大な浅黒い剣がジズの風切り羽を切り裂いた。

やはり大きくても羽は柔らかくて軽い。

バランスを崩したジズは飛ぶ事ができずに地団駄を踏む。


これで有利になると安堵したその時だった、神鳥の恐ろしさを目の当たりにする。

ジズは頭を大きく振りかぶり嘴を地面に叩き付ける様に降り下ろす、地面に深く刺さった嘴は岩山を破壊し足場が崩落した。


ジズは残った足場に鍵爪を突き立て自分自身が落ちないように堪えている。

私は崖の下へと落下したが、テケちゃんが擬態を解き本来のアメーバ状の姿でクッションとなってくれた。

しかしここで擬態を解かれた事でボロボロだった私の体は支えを失い倒れ込む。

指一本動かない、身体中が痛いはずなのに感じる痛みは鈍く麻痺している。

もう動く事は無理だろう、ここを生き延びたとしても…。


そして、ここを生き延びる事すら許されないのだろうか。

上空からジズが滑空してくる、鋭い嘴は敵意に溢れていた。


流石に、もう、無理だろう。…私にしては頑張った方だろう。

クオンくんは褒めてくれるだろうか、よく頑張ったと言ってくれるだろうか。


『テケリ・リ』



ジズが襲いかかり、おびただしい真赤な鮮血が飛び散った。



………私は、またも生きている。


「え?」


そこにあったのは巨大な浅黒い剣先、真赤な血はジズのものだった。

ジズの突進に合わせてテケちゃんが巨大な刃物に擬態していたのだ。

喉元を突かれたジズはもう動けない。


「は、はは。勝った…の?」

『テケリ・リ』

テケちゃんは元のアメーバ状の姿に戻っていた。

「はぁ…、あははは…、テケちゃん、お疲れ様でした」

『テケリ・リ』

「やっぱり何言ってるのか分からないや…」

『テケリ・リ』

「せっかく勝ったけど、私ね、もう動けないよ…」

『…』


テケちゃんはジズに近づくとジズの肉を溶かし始めた、食べてるのだろうか。

「そう言えば…私もお腹空いたな」

良く見るとテケちゃんはジズの肉を食べてはいなかった、中途半端に溶かした肉を千切ると私の所まで運んでくる。

そして、溶かした肉を私の口の中に流し込む。


何度も、何度も繰り返した。


当たり前だけど、鳥の味がした。




アリサも土地神食べてしまいました。

ショゴスが献身的なのはクロの命令以外にも理由がありますがそれは次の章で。

これにてアリサのターンは終了です、次からクオンに戻ります。

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