鳥
なんとか谷底から這い上がり見晴らしの良い平地に出る事ができた。
砂煙の舞う断崖の一角で私は呆然と立ち尽くす。…ほぼ全裸で。
テケちゃんに悪気が無いのは分かっている。
その気になれば私ごと溶かして食べてしまえるはずだ。命があるだけ有り難い。
とはいえ今にも風に飛ばされそうなボロボロの下着姿のままというのは耐え難かった。
服が、出来れば元々着ていた自分の服を回収しに行きたい。
あれは、とても大事な物だった気がするから…。
しかし服を取りに戻るのは自殺行為だろう、服があるのはマルタとカーリーの部屋だ。
「はぁ…、裸のままは恥ずかしいなぁ。服もお金も無い、どうしよ…」
『テケリ・リ』
「え?テケちゃん?どうしたんですか?きゃっ!」
急にテケちゃんが私にまとわり付く。
「え?何?くすぐった…あははははは…あれ?」
テケちゃんが…いない。消えてしまっていた。
「おーい、テケちゃーん」
『テケリ・リ』
不思議な事にテケちゃんの声が自分の体から聞こえてくる。
自分の体を見て更に不思議な事に気付いた、何故か服を着ているのだ。
浅黒いワンピース、そして肘まで覆う手袋に膝上まである靴下。
その服はまるで私の為にあつらえたかの如くピッタリと馴染み、羽の様に軽い。
「もしかして、これテケちゃんの擬態?」
『テケリ・リ』
「わー、すっごーい!こんな事まで出来るんですねー」
何故こんなにも軽いのか、それはすぐに理解した。服が自立しているのだ。
私の動きをアシストしてテケちゃんが動いている。いつもより体が軽い。
「とりあえず服は大丈夫そう。テケちゃん、ありがとうございます」
『テケ』
「あとはお金かぁ、お金無いと飢え死にしちゃうかなぁ、こんな岩山じゃ食べれる物も…」
『テケ?テケリ・リ』
「え?」
私の腕が勝手に上空を指差す。
テケちゃんの方が圧倒的に力が強いのだから私の意思に反して動く事も容易いのだろう。
そして私が指差した方向には鳥が飛んでいた。
「鳥…ですね?え?いやいや流石に鳥は獲れませんよー、高すぎます。それにこの土地では鳥を獲る事は禁じらていてですね、あ!」
遅かった、届くとは思わなかった。相手は鳥なのだ、夢にも思わない。
私の指先から細く鋭い針の様な物が射出され、飛んでる鳥に命中する。
自分の体の一部を飛ばして攻撃する、そんな光景に既視感の様なものを感じながらも自分の仕出かした事に愕然とした。
目の前に落ちてきた鳥の死体をすぐに岩影に隠して周りを確認する。
『テケ?』
「この土地では鳥は神聖な生き物なんです!神鳥ジズの眷属で、獲るとこなんてジズに見られたら怒りを買うと言われてるんですよ!禁忌なんです!」
『テケ…』
次の瞬間、不自然に強い風が吹いた。前兆の無い突風。
思わず背筋が凍る様な、そんな嫌な風に怯えながらも風上を確認する。
ああ、居た。やはり見られていた。
そこに居たのはあまりにも大きな紅色の鳥。鷲に似ていた。
羽を広げた長さは優に15メートルはありそうだ。
こんな大きな鳥が空を飛べる事に驚いたが今はそれどころでは無い。
羽ばたくだけで突風が吹き、風圧だけで岩が動く。
鋭い眼光は明らかに敵意を抱いていた。
「ジズ…さま…、悪気は…無かったんです…」
私の怯えた声は風にかき消される、ジズの大きく頑強な鍵爪がこちらを向いたことで許してはもらえない事を悟った。
ジズの翼が虚空を叩き、鍵爪を向けたまま突進してくる。
私は、引き裂かれて死ぬのだろう、…最後に、会いたかった。
………誰に?……クオン…くん…。
ああ、思い出した、名前はクオンだ…、最後に名前だけでも思い出す事ができた。
鍵爪が眼前に迫る、さよなら…クオンくん。
『テケリ・リ』
…私は…生きていた。ジズから離れた場所まで一瞬で走り抜けていた。
私にそんな事はできない、私は動いてすらいない。恐怖で動けるはずも無い。
しかし脚は地面を蹴り、風圧で転んだ体は受身を取り、腰を低く下げて次の行動に備えていた。まさに歴戦の戦士の様な身のこなし。
…私に…できるはずが無い。
『テケリ・リ』
アリサはショゴスを装備した!
次はやっと戦闘らしい戦闘です。
今までは最強クラスの邪神が蹂躙してたので(笑)




