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転生したら玉虫色の球体でした  作者: 枝節 白草
第4章:断崖の只人
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走馬燈

テケリ・リ…、テケリ・リ。

奇っ怪な声で鳴く全長2メートルほどのアメーバ、名をショゴスという。


アリサは知る由もない、ショゴスはクロが付けた護衛を兼ねた監視者である事を。

監視はショゴスを通しクロが行う、故にショゴスは護衛だけしか命じられていない。


クロは知りもしない、アリサの危機をショゴスが救った事を。

監視なんてどうでも良くなりクオンとのデートを楽しんでいる。


クオンは思いもしない、クロの機嫌をとる事で結果としてアリサを助けている事に。

機嫌の取り方を間違えればショゴスは一瞬で敵になる。


そんな危うい綱渡りの救世主、ショゴス。

その登場に一番驚いていたのは他でも無い、古のものだ。

ショゴスは元々は古のものが生み出した奴隷生物であり、本来歯向かうはずが無い。

自我を持ち歯向かう個体は全て殺したはずだった。


その一瞬の隙にショゴスはアリサを自身の体の内側に巻き込み、断崖絶壁を飛び降りた。






目を覚ました時、私は大小様々な岩に囲まれた場所にいた。

切り立った岩山に囲まれた谷底で一人倒れこんでいる。

どれだけ寝てたのだろうか、山を登り始めたのは朝で、まだ太陽は高い位置に居る。

お腹の減り具合いを考えてもさすがに日は跨いで無いだろう。

自分の体を確認するが特に外傷も見当たらない。


何があったのか、ちゃんと覚えている、覚えてはいるが理解が追い付かない。

私の前に現れた謎のアメーバが助けてくれた、それは事実だ。

だがどこから現れてどこに消えたのだろうか、周りを見渡すがどこにもいない。

正直なところ気持ちの良い生き物では無いが、今は唯一の味方なのでは無いだろうか。


こんな岩しかない場所で一人きり、不安と絶望が募り気がおかしくなりそうだった。

どっちに歩けば良いのかすら分からない、歩いても無駄に体力を消耗するだけになるかもしれない、それでもここに居ては何も進展しないだろう。

結局歩く以外の選択肢を選ぶ事が出来なかった。



歩き出して幾ばくもなく事は起こる。起こってしまった。

突然空が暗くなり、見上げた瞬間状況を理解して悲鳴すら出ずに息を飲む。

山の上から降ってきた巨大な岩が眼前に迫っていた。


ああ、こんな所で特に意味も無く最後の時が来るなんて…。

一瞬で終わるはずの最後の時は妙に長く感じた。

私の脳裏には様々な思い出が浮かんでいる。

なるほど、これが走馬燈か…。

──────────

母が亡くなり毎晩の様に泣く父、それを見て泣く私。

少しでも父の力になりたくて一緒に各地を巡った思い出。

一緒に食べる為のお弁当を作る私の姿、それを美味しそうに食べる父の姿。

最後に訪れた森………、最後?最後は森だった?

山賊に囲まれて、私を庇う父の姿…。

息絶えた父、連れて行かれる私…。

服を剥ぎ取られ、紐で繋がれて、毎晩毎晩冷たい床で寝る。

そして、出会った男の子と女の子…。

私の命の恩人の男の子、大事な人。大好きな人。

…誰…だっけ。像がボヤける。

──────────

それにしても走馬燈とはこんなにも長いものだろうか。

それとも私はすでに死んでいるのだろうか。


…ふと気が付くと、降ってきた巨大な岩は別の岩に遮られて止まっていた。

否、岩では無い。岩から私を守る液体状の生き物、あの時の謎のアメーバだった。

アメーバは岩を退けると景色の中に溶け込み消えていく。


「景色の一部に…擬態してたの?私の傍に…ずっといたんだ…」

話しかけても返事は無い。

しかし、それでも、一人じゃない事を実感できた。

それは、今の私にとっては信用に足ることだった。



ショゴス→古のものが造り出した奴隷生物。グロいスライムみたいなやつ。自身の体を様々な物に変化させることが出来る。昔、自ら脳の役割をする器官を造り出し自我に芽生え、古のものに歯向かった。テケリ・リという独特な鳴き声が有名。

クトゥルフ神話のショゴス、だいたいこんなやつです。

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