前世の真相
今回の小説ではクオン視点で全部表現する!
そう思っていた時期が私にもありました(笑)
クロ視点ハイリマース。
クロがわざとらしく咳払いをする、話題を切り替える合図だろう。
こういう癖は人間だったときの名残りなのかもしれない。
「元の世界の話をするわけだけど、名前は覚えて無いからクオンとクロに置き換えて喋るわよ?あと、あくまでも私の主観になるからね」
「うん」
「私とクオンは家が近所で所謂幼馴染みというやつね。私はそりゃもう可愛くてモテモテで発育も良くて、胸なんてクラスで一番大きかったわ」
「ストップ、話を盛ってない?」
この世界でのクロの発育は明らかによろしくない。身長も低いし、何より控えめに言っても貧乳だ、豊満なクロなど想像の遥か彼方過ぎて像が浮かばない。
「……話の腰を折らないでもらえるかしら?」
「ごめん、続けて」
──────────
「クオン!学校に遅れるわよ!もー、私まで遅刻したらクオンのせいよ!」
私はクオンの家の玄関の前に居た。クオンと一緒に登校するのは習慣となっていた。
小学校の時の集団登校から始まり、中学校も同じだった為自然と一緒に登校している。
こんな可愛い幼馴染みと登校できるのだ、クオンはもっと早起きして私を迎えに来るくらいの事をするべきだと思う。
「あー、クロ、今日も来たんだね?先に行って良いのに」
クオンは本当は嬉しいくせに照れ屋だった。
「何よ、行き先同じなんだし良いでしょ?」
「噂になっちゃうよ?僕もクロももう中学生なんだしさ」
「あら、別に構わないでしょ?」
「前も言ったけど、僕は好きな人いるんだよ」
分かってる、私でしょ?しかしそれは言わぬが花というやつだ。
待ってるのになかなか告白してくれない、やはり幼馴染みという関係上急にそういう話はしにくいのかもしれない。
このまま話をしていては本当に遅刻してしまう、二人で歩きながら会話を続けた。
「クロはさ、その…可愛い方だとは思うし?僕なんかと一緒にいると彼氏できないよ?」
「や、やだもう。急にそんな…可愛いとか」
そんな遠回しに牽制しなくても大丈夫、彼氏の枠は空けている。
そんな心配をするくらいなら早く告白して欲しい。
そんないつも通りの朝だったがその日はいつもとは違う事が起きてしまった。
ふいに聞こえてきたけたたましいブレーキ音が日常に終わりを告げる。
車が歩道に突っ込んできたのだ、手にはスマートフォンを持っていたように思う。
予想もしていなかった出来事にあっけに取られ逃げるという選択肢すら浮かばなかった。
その時、クオンが私を庇うように抱え込んで…、衝撃とともに私は意識を失った。
次に目を覚ましたのは病院の中だった。
私は軽い痣や擦り傷等の軽傷で済んだけど、私を庇ったクオンは重傷を負った。
骨にも内臓にもダメージを負っており、処置後も意識が戻らない。
加害者の運転手が隣の病室で寝ている事も腹立たしかった。
もう神に祈るしか無い、そう言われた事にも腹がたった。
オカルト好きな私は知っている、神なんて何もしてくれない。
人の願い事を叶えてくれるのはいつだって悪魔だ。
もちろん本当は知っている、悪魔すらこの世には存在しない。
だけど、それでも、何かしないと落ち着かなかった。
病院に隠れて夜になるのを待った。
病室にあったペンでクオンの病室に魔方陣を描く、本で何度も見た、間違えない。
「さぁ、悪魔がいるなら出てきなさいよ…、生け贄は隣の病室の男よ」
その後少しして、今まで静かだった病院が急に騒がしくなった。
看護師達が忙しく走り回る足音が聞こえてくる。
かすかに聞こえた「容態急変」、それも一人の名前だけでは無い。
たくさん、たくさんの病室の番号も聞こえてきた。
私の胸は高鳴った、悪魔の召喚に成功したんだって思った。
それも一人分の命じゃ足らないくらいの大物、クオンを助けれるかもしれない。
「わ、私が召喚者よ、願いはそこで寝てる男の子の回復。出てきなさい、…早く!」
その時、光輝く球体状のものが現れた。大きさは2メートルくらいだろうか。
緑色のような、紫色のような、不思議な球体。
その球はボコボコと泡立ち、無数の球の集合体の様な形へと変形する。
そして、輝く帯状の触手の様なものもたくさん生えていた。
怖かった、恐ろしかった、直視したら脳みそが沸騰するかと思った。
でも私は言ってやった。
「わ、私が契約者よ!贄は差し出した!願いを叶えなさいよ!」
その球体状の化物はクオンの上でクオンを見下ろしていた。
そう、身体中にある無数の目で、もう私も正気を保つのでいっぱいいっぱいだった。
そして、しばらくした後、ゆっくりと、ゆっくりと、クオンの瞼が開いた。
「クオン!良かった…良かったぁ…」
喜ぶ私を尻目にクオンは…、その化物に手を伸ばした。
「…きれい…な色…だなぁ」
そう言って化物の触手を掴んだように見えた後、再び目を閉じて、化物も消えてしまった。
「なん…え?そんな…」
私は困惑した。ここまでしたのに…。
その時、病室の扉が開く音がして振り返ると看護師が一人立っていた。
とても病院の看護師とは思えぬ程にナース服を気崩し、豊満な胸を隠そうともしない。
とても美人で、場にそぐわない格好の女性だった。
「驚いたわね、ヨグソトースを見て正気を保ってるなんて」
その女性は扉を後ろ手に閉めると近寄ってきて私の顔を覗きこんだ。
「ヨグ…ソトース?」
「そうよー、ちなみに私の旦那よ、さっきのアレ」
「何を…言って…」
「ちょっと贄増やして私も来ちゃったわぁ」
「だから、何を…」
その女性は頬を吊り上げニヤリと笑う。
その目に光は無く、むしろ深い孔のようだった。
「私はシュブニグラスよ、お嬢ちゃん」
「分かるように説明しなさいよ!」
「あっはっはっはっ、気に入ったよお嬢ちゃん。良いよ、教えてあげる。あなたが呼び出したのは邪神、副王ヨグソトース。お嬢ちゃんの願い通りあの男の子を助けたの、でもあの男の子の魂と同調したみたいね、今は融合してるわ。ヨグソトースは私の旦那、つまり融合したあの子も私の旦那、あっはっはっ。見失うと困るから様子見にきたのよー」
この女は…何を言ってるんだ…。
「クオンは私の男よ!」
「ぷっ、あっはっはっ!良いねぇ、お嬢ちゃん、良い、すごく良い!とっくに壊れてるのね、なるほどなるほどー。ヨグソトースは私の旦那、でもあの男の子はお嬢ちゃんの男なのね、じゃあこうしましょ」
そう言ってシュブニグラスと名乗る女が私の手を握った後、魂が融合するのを感じた。
自分の中に他人がいる、他人の中に私がいる。そんな気持ち悪さ。
最後に、あの女の声が聞こえた。
「ヨグソトースは私の旦那だから、その意識に引っ張られてあの男の子もあなたに好意をいだくはずよ、感謝しなさい」
「ふん、とっくに相思相愛よ!」
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はい、前回の進言通りクロの可愛さをアピールしようと…ん?間違えたかな?
クロ、ちょっと(だいぶ)アレな子でした!




