海竜の礼拝堂
今回ちょっとグロ耐性必要な表現含みます。
夜明け前の暗い町中を魚面の混ざり者に案内させる。
町中はやけに静まりかえっていた、てっきり混ざり者達が襲ってくると思っていただけに正直拍子抜けでもあったが油断はするべきでは無いだろう。
何故なら、僕のすぐ後ろにアリサがいるからだ。
人間であるアリサは簡単に死んでしまう、本当はどこかに置いて行きたかった。
しかしそれはできない。混ざり者は言っていた、町人はもう居ない、と。
それはつまり夕方に見た人たちはもうすでに人では無いという事だ。
敵は町中に居る。なら僕の近くが一番安全だ。
ふと、魚面の混ざり者が足を止める、質素な教会を思わせる佇まいの建物を指さした。
「ここかぁ、中はどうなってる?」
「地下、ある。すぐ、分かる」
「迷路や罠は?」
「ない」
「・・・分かった、もう良いよ」
そう言うと僕は、案内させていた混ざり者を、この世から蒸発させた。
「逃がすわけ無いじゃん・・・、ばーか」
「あ、あの。クオンくん」
黙って付いてきていたアリサが突然僕を呼び止めた。
「どうしたの?」
「ここ、リヴァイアサンの礼拝堂です」
「リヴァイアサンが居なくなった原因もあいつらなのかな」
「分かりませんが、無関係とは思えません」
「・・・行こうか」
礼拝堂に入った時に真っ先に感じたのは酷い腐敗臭だった。
今まで嗅いだ事の無い、何とも言い表せられない臭い。そして、たくさんの蠅。
「うっ・・・」
アリサは思わず口を押さえる。
「アリサ、大丈夫?」
「酷い匂い・・・、なんでしょうこれ、生臭い」
「・・・たぶん、生き物の死骸。僕は平気だけど、アリサは付いて来れる?」
「付いて行かないと私が死骸になりかねません。一人に・・・しないでください」
「・・・うん」
地下に降りる階段はすぐに見つかった。
階段は石で、地下通路の壁は土。そう、ただの洞穴だ。
礼拝堂の地下を掘り進んで作っただけの簡素な地下室。
一本道ではあるがいくつも小部屋がある。
蟻の巣みたいだと、僕はそう思った。
その小部屋の中でも一際大きな部屋に目をやり、この酷い腐敗臭の正体を知る事になる。
部屋にあったのはたくさんの人間の皮。
まるで服を吊すように形を残したまま吊されていた。
中身は・・・無い。
死骸はあるだろうと思っていたし、それは人間だろうとも思っていた。
しかし、皮だけだとは思いもしなかった。
「あ・・・ああ・・・・いや、いやああああ!」
その常軌を逸した光景にアリサは錯乱する。
「アリサ?落ち着いて!」
「はー!はー!・・・はー、・・・ふぅ、ふぅ。うあぁぁぁぁ・・・」
常人よりは気丈な女の子だと思っていたのだが、故郷の人間達が加工されているという光景はアリサの心の許容量を越えてしまったようだ。
「アリサ・・・、もう、限界?」
アリサは胃液を吐き出しながらも首を横に振る。
その目は悲しみに潰されながらも僕を見る。
そして恐怖に震える唇で僕にこう言うのだ。
「大丈夫・・・大丈夫だから、お願いします、置いていかないで・・・ください」
「・・・うん」
やはり、強い女の子だ。あるいは、もう心が擦り切れているのかもしれない。
・・・この子なら大丈夫だろうか、いずれ、僕の本体を見ても・・・、この子なら。
足取りのふらつくアリサの手を引き、奥へと進む。
「おかしいな・・・、アリサが大きな声出してたのに、混ざり者たちが来ない」
「・・・すみません」
「いや・・・、しょうがないよ。でも、ここは奴らの本拠地のはずなのに」
「確かに不思議ですね」
その疑問はすぐに晴れることとなった。
突き当たりの、非常に大きな空洞。地下の空洞であるにも関わらず川が流れている。
川だと思ったそれからは潮の匂いが漂っていた、おそらく海水だろう。
その仄暗い水の中から混ざり者達が次々と這い出て来るのだ。
「なるほど、おまえらからしたらこっちが入り口だったのか」
海と繋がっている、とすればダゴンは海の中にいるという事になるのだろう。
「ク・・・クオンくん、どうしましょう」
「やることは一つだよ。出てくる奴らみんな殺せば良い、親玉が無視できなくなるまで」
次はダゴン戦です!・・・たぶん。




